「教えて……下さい」

しかしシエル先輩は覚悟を決めたように尋ねた。

「わかりました。シエルさんの致命的な問題……それは」

みんなが琥珀さんの言葉に耳を傾ける。
 
 

「ぶっちゃけキャラが被ってることです」
 

みんな揃って見事にひっくり返っていた。
 
 




「遠野家ネタ会議COMPACT2」
宇宙激震編






「んなっ……バカなっ!」

一番最初に置きあがったのはシエル先輩だった。

「わたしは貴方が言う通り、優等生キャラかもしれません。ですがっ。被っているというのはあり得ないでしょう!」

ばっと全員を見つめる先輩。

「百歩譲ったって翡翠さんくらいですっ!」
「いえいえ、そんな事はありませんよ」

シエル先輩の必死の訴えにも琥珀さんは平然としていた。

「まずアルクェイドさんと完璧に被るじゃないですか」
「うぐっ!」

あからさまにうろたえるシエル先輩。

「しかも戦闘能力ではアルクェイドさんのほうが完全に上です」
「あ、アルクェイドはパワータイプでしょう。わたしはどちらかといえばテクニック……頭脳派なんです」

先輩の言い分はだんだん苦しくなってきていた。

「そうそう。不意打ちとか卑怯な作戦が得意なのよね」
「……っ」

一瞬アルクェイドの言葉に顔をしかめる先輩。

「そ、それとて立派な個性ではないですか。どうです?」

しかし今やアルクェイドに構っている余裕すらないようだった。

「テクニックですか。なるほど。大いに結構です。頭脳戦が得意というのもまあ認めましょう……しかし」
「し、しかし?」
「知略だったらこの琥珀のほうが上ですっ!」

びしっと先輩の顔を指差す琥珀さん。

「……確かに卑怯と言えば琥珀よね」
「策略と言えば姉さんです」
「う……くっ」
「……」

つまり、力ではアルクェイドに劣り、頭脳では琥珀さんに劣ると。

「万能型の悲しいサガです。どちらかの頂点には決して敵わない」

確かに一芸に秀でた存在の方が印象に残るものである。

「で、ですが琥珀さんは戦闘が出来ないでしょう? わたしは戦闘も可能で……」
「ふむ。では戦闘も可能で頭脳も明晰な人物を紹介しましょうか」

それを聞いた瞬間、先輩の顔色が変わった。

「ま、まさか……」
「そのまさかです、どうぞー」

琥珀さんが指差すと、ゆっくりとドアが開いた。

「……今日は一体何の集まりなのですか?」
「シオン……」

そこにいたのはアトラスの錬金術師、シオンである。

「シオンさんならば頭脳派でありなおかつ戦闘も可能ですよ」
「そ、それならわたしと同じじゃないですかっ! 中途半端な存在と言えるんじゃっ?」
「……いきなり失敬ですね、代行者」

シオンは大きくため息をついた。

「貴方と私の差は明確でしょう?」
「何だというんですかっ!」
「それは……絶対領域です」
「うぐっ!」

その言葉を聞き明らかにうろたえるシエル先輩。

絶対領域。それは男のロマンだ。

「で、でもそれは貴方の格好の問題であって貴方本人の問題じゃ……」
「無論それは表面的なものでしかありません。しかし、露出度の高い格好と、知的な性格というアンバランスさ。そこに個性が発生します」
「確かにわたしたちってあんまり露出高くないわよね」

と言ってるのは長袖でやったら長いスカートをつけているアルクェイドだ。

「ですねえ」

翡翠や琥珀さんも言わずもがな。

「……といいますか、埋葬機関の格好のシエルさんは誰がどう見ても地味ですよね」

ぐさっ。

シエル先輩の心に深いトゲが刺さったような気がした。

「……」

もしアレが俺の立場だったら、きっとしばらく立ち直れないだろう。

「か、格好が問題なら変えればいいだけじゃないですか……」
「そうですねー。そういうコンセプトですもん。この会議って」

いや、俺にはただシエル先輩をいぢめる会議にしか見えないんだけど。

「ちょっと格好を変えた程度じゃ今までのイメージは消えませんよ、代行者」

シオンは鼻で笑っていた。

「あ、貴方は……!」
「ま、まあまあまああまあっ」

慌てて間に割って入る。

「まだ怒る余裕があるなら大丈夫ですよ。必ず良くなりますって」
「……」

琥珀さんの言葉はどこまでも空々しかった。

「さてシエルさんの問題が大体わかってきましたね。特化するものがないから専門家に負ける。しかも他に同属性でキャラの立った人物がいると」

ちなみにシオンはあれで案外怒りっぽいという欠点もあり、怒鳴っている姿のギャップがよかったりする。

「要するに赤魔道士なんですよねー」
「……なるほど」

わかりやすいようなそうでないような。

「そ、そうだっ!」

そこでシエル先輩が叫んだ。

「何ですか?」
「琥珀さん。貴方はわたしを地味だと何度も言いましたねっ?」
「ええ。言いましたけど?」
「ですが今までの会議の内容で気付きました」
「はぁ」

一体何に気付いたんだろう。

「わたしよりも地味な人間がいるということにですっ!」
「……なんだか必死ですね、先輩」

秋葉が苦笑いをしていた。

「どういうことなんスか?」

有彦が尋ねる。

「あ。志貴さんと有彦さんは除外してくださいよ? 男キャラと女キャラでは次元が違うんですから」

それは一体どこの話なんだろう。

「いえ、女性でわたしよりも目立ってない人物がいるではないですか」
「……それは誰の事ですかー?」

なんとなく琥珀さんが怒っているような感じがした。

そしてすぐにその理由がわかった。

「それは……翡翠さんですっ!」

シエル先輩が自分よりも目立ってない存在として翡翠を上げたからである。

「わたしですか」

翡翠はなんともいえない表情をしていた。

「そうです。こんなわたしより影が薄いというのは大きな問題なのではないですかね?」
「いえいえそれは違いますよ。例えそれが事実だとしても、シエルさんの影が薄いという事実に変化はありませんので」

ばちばちばちばち。

火花を散らす二人。

「ですがシエルさまの仰られるとおりだと思いますが」

すると翡翠がそんな事を言った。

「翡翠?」
「事実、わたしはほとんど会話に参加していませんでしたし、役に立つ意見も出せませんでしたから」
「ですよねっ。ほらっ?」

安堵の表情を浮かべるシエル先輩。

「でもさー」

そこに口を挟んできたのはアルクェイドだ。

「な……なんですか」
「翡翠ってそういうキャラじゃない。あまり表には出ないけど、影でみんなを支えてるっていうか」
「その通りです」

珍しくアルクェイドに賛同する秋葉。

「翡翠は影が薄いのではなく、あえてその位置に身を置いているというのが正しいでしょう」

みんなはこぞって翡翠の味方だった。

「みなさん……」
「そうですっ。翡翠ちゃんは何も悪くありませんっ!」

翡翠の肩を抱く琥珀さん。

「この献身的で控えめで可憐な翡翠ちゃんを否定するなんて……神が許してもわたしは許しませんからねっ!」
「ね、姉さん」

翡翠は照れくさそうな顔をしていた。

「どんどん立場がなくなっていきますね、代行者」

そしてシエル先輩にはキツイ追い討ちが。

「……」

もはやぐぅの音も出ないようだった。

「……っていうか……」

この会議を続けて、果たしてシエル先輩の出番が増える案は出てくるんだろうか。
 

それが俺は不安でたまらないのであった。
 

続く



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