そしてシエル先輩にはキツイ追い討ちが。
「……」
もはやぐぅの音も出ないようだった。
「……っていうか……」
この会議を続けて、果たしてシエル先輩の出番が増える案は出てくるんだろうか。
それが俺は不安でたまらないのであった。
「遠野家ネタ会議COMPACT2」
銀河決戦編
「では次に秋葉さまとシエルさんで比較をしてみましょうか」
「私?」
いきなりふられたもんで秋葉は目をぱちぱちしていた。
「ええ。秋葉さまは性格が特化してるんでわかりやすいですし」
「……ふうん」
こめかみをひくひくさせながら笑っている秋葉。
なんて恐ろしい。
「妹は妹よね?」
「……おまえ、何当たり前のこと言ってるんだよ」
アルクェイドは相変わらず空気を読んでなかった。
「いえ、それも重要なポイントですよ。血は繋がってないにしろ、妹というのは重要です」
「……ぬ」
確かに秋葉が俺の妹じゃじゃなければ、俺は有間の家に居候したまんまになっていただろうし。
「秋葉さまは口や態度は一見志貴さんに厳しいです」
「よく知ってる」
怒鳴られない日を探すほうが難しいくらいだからな。
「しかし実は志貴さんラブラブで激甘なのです」
「ちょ、琥珀!」
「……そんなバカな」
ちっともそんな事を思えない俺は苦笑するしかなかった。
「そんな事は決してありません! 私のどこが兄さんに甘いというのです!」
ほら、本人もそう言ってるし。
「……とまあ、こう素直じゃないところが秋葉さまのセールスポイントであります」
なんだよそのセールスポイント。
「確かに妹はそれだけで食べていけるわよね」
いやだからどこの業界の話だよそれ。
「時代はツンデレですからねー」
もはや俺にはさっぱりわからない会話だった。
「秋葉さまは究極の個性特化型です。ツンデレという属性をお嬢さま属性、妹属性、ナイチチ属性が補佐」
「誰がナイチチですかっ!」
「ある意味最強の組み合わせですね」
琥珀さんは秋葉を完全にスルーしていた。
「……こんのっ……」
秋葉の髪がみるみる赤く染まっていく。
「さらに戦闘までもこなせてしまう秋葉さま。シエルさんよりも強い個性を持ち、かつ多岐に渡る才能!」
「こ、琥珀さん、そのへんにしておいたほうが」
もはやいつ爆発してもおかしく無い状態だった。
「秋葉さま。怒るということは、自分がそうであると認めるという事で宜しいのですか?」
そんな秋葉に向かってにこりと笑う琥珀。
「……っ!」
秋葉は拳を強く握り締めた。
「そんな事無いですよねー。秋葉さまは心の広い、良識ある方ですもん。こんな冗談程度で怒らないですってー」
わざわざ秋葉の神経を逆なでするような言葉を選んでいるような琥珀さん。
「……そそそ、そうよねっ! この私がこの程度で怒るわけないでしょう! おほ、おほほほほほ!」
そして秋葉の凄まじいまでの頑固さを垣間見れた気がした。
「なるほど、妹がとってもよくわかったわ」
何故か妙に嬉しそうなアルクェイド。
「……不愉快ですっ」
秋葉はそっぽを向いていた。
「姉さん。肝心のシエルさまとの比較がないのですが」
そして困った顔をしている翡翠。
「結論は同じなんだけどね。要するにシエルさんは地味だと」
「わたしだって好きで地味な事やってるわけじゃないんです。任務とか色々あって仕方なく……」
シエル先輩は壁の隅っこでいじけていた。
「……」
なんとなく重い空気が漂ってしまう。
「つーかさ」
そこで口を開いたのは有彦だった。
「なんでしょう?」
「琥珀さんの話はさ、場所が限定されてる気がするんだよ」
「……といいますと?」
「いや、だってさ。現実問題キャラが被ってるなんてよくある話じゃねえか。全部違う人間なんてまずいねえぞ?」
「確かにな……」
極論を言えば、俺と有彦だってキャラが被ってるといえなくもないのだ。
どっちもバカだし。
「で、だ。この遠野家にみんな集まってるからそれぞれの影が薄くなっちまう」
「人数が多いとどうしてもそうなってしまいますね」
難しい顔をしているシオン。
「で、だ。場所限定だけどシエル先輩には強力な武器があるじゃねえか」
「……あったっけそんなの?」
と言ってしまって慌てて口を塞ぐ。
「……」
シエル先輩はナメクジみたいになってしまっていた。
「乾さん、それは何なんです?」
秋葉が尋ねた。
「だからさ。秋葉ちゃんの妹属性と同じだよ。シエル先輩。先輩なんだぞ?」
「……ん?」
学校の先輩……ってことはつまり。
「学校という場所では非常に大きなアドバンテージを得るという事ですね」
シオンがそんな事を言った。
「……あ」
「おお?」
なるほど、そういうことか。
「ふ、うふふふふふふふ」
壁際にいたシエル先輩が不気味な笑いをしていた。
「そういう事ですか……わたしの力を発揮するためには、場所が悪かったんですね」
「……確かに、学校という場では先輩という属性は最大限に発揮されますねー」
これには流石の琥珀さんも唸るしかなかったようだ。
「うーん」
でもあんまり先輩に先輩らしい事して貰った事ってないんだよな。
どちらかというと同級生って感じだったんだけど。
お昼を一緒に食べたり、茶道部でお茶を披露して貰ったリ。
確かに学校では色々世話になっているし、先輩=学校というイメージは強かった。
「じゃあ、卒業したらシエルの出番はおしまいね」
するとアルクェイドがそんな事を言った。
「そ、そんな言い方はないでしょう!」
これに猛烈に反発するシエル先輩。
「でも、確かにそういうことですよね」
琥珀さんもここぞとばかりに先輩をいぢめだした。
「そんな事はありません! 学校でなくても、商店街の本屋で偶然遠野君に会うとか……」
「それはわたしでもアルクェイドさんでも秋葉さまでも出来ることですよ」
「……ぐぅ」
せっかく先輩のいいところが見つかったのに、学校でしかそれが発揮出来ないだなんて。
「い、いえ、学校の先輩すなわち人生の先輩です。遠野君に人生の先輩として指導を……」
っていうかなんで俺が話の主題になってるんだろうか。
「それ、すっごく地味ですよね」
トドメに近い一撃。
「……がくっ」
先輩は力尽きてしまった。
「駄目か……」
渋い顔をしている有彦。
「学生として先輩を応援したかったんだがな」
「いや、おまえはよくやったよ」
俺じゃとても気がつかなかっただろう。
「……あの、みなさん」
そこで翡翠が小さく手を挙げていた。
「なに? 翡翠ちゃん」
「シエルさまが地味だというのは構わないのですが、地味イコール不要という事は決してありません」
「……ぬ」
翡翠が言うと妙に説得力のある言葉である。
「そ、そんな事ないよー。何言ってるの翡翠ちゃん?」
「姉さんの言い方だといかにもシエルさまがいらない人だという感じを受けましたので」
どうやら翡翠はシエル先輩擁護側に回るつもりらしい。
「翡翠はどうしたらいいと思う?」
翡翠が自分から意見を言うなんて珍しい事だ。
俺も及ばずながら協力する事に決めた。
「はい。逆に考えてみるといいと思います」
「逆?」
「そうです。シエルさまがいないとどうなるか、ということです」
「……先輩がいないと……」
俺はシエル先輩のいない日常を想像してみた。
続く