「しっきさん志貴さんいらっしゃいますかー」
「……ん」

部屋でごろごろしていると既に馴染みとなりつつあるセリフを言いながら琥珀さんが部屋に入ってきた。

「いらっしゃるけど、何か用?」
「あん、そんなつれない事言わないで下さいよー」

口元を隠しながらくすくすと笑う琥珀さん。

「今日はこんなものを持って来ました」
「……ゲ、ゲーメスト?」
「これの誤字探しをして遊びましょう」

そして琥珀さんの後ろから翡翠が現れた。
「……」

知ってる人は知っているだろうが、ゲーメストは誤字がものすごく多い雑誌として有名だったのである。

「ザンギュラのスーパーウリアッ上?」
「インド人を右にです」
「……楽しそうだね」

なんでかわからないけど、翡翠はそういうのが好きそうなイメージがあった。
 
 


「遠野家ネタ会議COMPACT」
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「はい」

微笑む翡翠。

「秋葉さまも呼びましょうかー」
「秋葉はこういうの好きなのかな」
「案外はまるタイプだと思います」
「……確かに」

いかにも興味ありませんって顔をしていながら実は参加したくてたまらないってとこだろうか。

「志貴ー、遊ぼうよー」
「ぬおっ」

そこにアルクェイドが乱入して来た。

「何やってるの? その本なに?」
「いや、これは……」
「せっかくだからアルクェイドさんもどうです?」
「面白い事?」

アルクェイドに説明している間に翡翠が秋葉を呼びに行き、俺の部屋が一気に狭くなってしまった。

「まったく、つまらない事に情熱を注いでるんですね」

興味がなかったら来ないはずなので、結局のところ秋葉も気になったというわけだ。

「何ですか、その顔は」
「いや、なんでもないよ」
「では早速始めましょうー」

琥珀さんの合図をきっかけにして、俺は最初の1ページを開くのであった。
 
 
 
 
 

「……いやいやいやいや」

シエル先輩出てこないじゃん。

インド人というカレーに関連した単語まで出てきたのに。

「どうですか? 志貴さん」
「う、え、いや、ええと、その……」

まさかシエル先輩が出てこなかったとは言えない。

「シエル出てこなかったわよ」

するとアルクェイドがそんな事を言った。

多分こいつもそういう光景を想像してしまったんだろう。

「べ、別に貴方に想像なんかして貰いたくありません!」

アルクェイドにそう言った後、俺に目線を向けてくるシエル先輩。

「出てきましたよねわたしっ?」
「え……」
「チョイ役でもいいんです! 一瞬でも……」
「その……」
「……出て……こなかったんですか?」
「いや、だから……」

嘘でもいいじゃないか。出てきたって言えば。

「出てこなかったんですよね?」

琥珀さんが俺に向けて勝ち誇ったような笑みを見せていた。

「……そんな」

崩れ落ちるシエル先輩。

「……」

俺にはもうどうする事も出来なかった。

「わかったでしょう、翡翠ちゃん。そういう事なの」

翡翠を諭すような口調の琥珀さん。

「そういう事ではありません」

だが翡翠は凛とした顔つきで琥珀さんの言葉を拒んだ。

「志貴さま。ひとつ伺いたいのですが」
「な、なに?」
「今の想像は、姉さんが何かをしたという事が前提で考えませんでしたか?」
「……確かに」

いつものように琥珀さんが現れて、色んな事件が……というパターンだ。

「難しいかもしれませんが、姉さんを除外して考えて頂けないでしょうか」
「琥珀さんを……?」
「ちょ、翡翠ちゃん?」
「……」

これだけアクの強い琥珀さんを考えないというのはなかなか難しいことだ。

「……姉さんを外すことが難しければ、志貴さまにとって嫌な事が起こったと考えても構いません」
「ぬ」

考えてみよう。

例えば今のパターンで。
 
 
 
 
 

「だからそれは誤植じゃないわよっ」

ばしっと本を叩いて叫ぶアルクェイド。

「いいえ誤植です! ジャンプ大パンチアンパン塩ラーメンなんて連携があるわけがないでしょう!」

そんなアルクェイドに向かって叫ぶ秋葉。

「だからそれは投稿ネタだってば!」
「……ああもう」

なんでこいつらはいつもこうなんだ。

「あらら、困っちゃいましたねー」

くすくすと笑っている琥珀さん。

「何とかしてよ」
「なんとかと言われましてもー」
「……ああもう」

駄目だ、この人じゃ話にならない。

「……」

かと言って翡翠じゃ無理だろうし。

こんな時に……
 
 
 
 
 
 

「あ」

こんな時に、シエル先輩がいれば。

確かに俺はそう考えた。

「どうですか?」
「……先輩がいなきゃ駄目だ……」

きっと先輩がいなかったら二人は喧嘩をはじめ、とんでもない事になるんだろう。

事件を止める人間がいなくなってしまうのだ。

「……と、遠野君」
「わかった。先輩のあるべき位置がはっきりと」

俺は気付いてしまった。

「アルクェイドや琥珀さん、秋葉は事件を起こす側だ。でも」

止める側の人間は。

「俺がどうにかするか……先輩が間に入ってくれるか……だ」

もしくは今のように、翡翠が助言をしてくれる。

それは俺にとって非常に重要な位置を持っていると言ってよかった。

「わ、わたしたちがトラブルメーカーだって言いたいの?」

信じられないといった顔をしているアルクェイド。

「……自覚ないのかよ」

まあこいつにそんなもんあるわけないんだけど。

「シエルさまは自分から事件を起こすという事は滅多にありません」

確かにそうだ。たまにあったってせいぜいカレーのお店を見つけたとかその程度である。

「だからどうしても印象は薄くなってしまいます。それは仕方の無い事です」

つまりアルクェイドたちが攻めタイプであるなら翡翠やシエル先輩は守りのタイプということである。

「しかし、突拍子もないことをやらないというのは一番付き合いやすい人間ではないでしょうか?」
「……言えてる」

翡翠やシエル先輩といるときは、あれこれ心配しなくて済むから落ち着けるのだ。

「つまり平穏な生活を望む志貴さまにとって相応しい存在は……」
「……ちょ、ちょ、翡翠ちゃんストップストップ!」

慌てた様子で翡翠を止める琥珀さん。

「どうかなさいましたか、姉さん」
「そ、そんな事はないんじゃないかなー?」
「わたしは事実を述べたまですが」
「……」

翡翠の言葉に琥珀さんはかなりの戸惑いを見せていた。

「シエルさまが不要というのはあり得ないのです」
「うぬぬ……」

これが俺の言った意見だったりしたら、琥珀さんは即座に反論をしたであろう。

しかし翡翠が言ったという事が大きかった。

翡翠の言った言葉を否定するということはつまり翡翠の考えを否定することにもなるからだ。

翡翠を溺愛している琥珀さんにそんなことが出来るはずがなかった。

「翡翠さん、ありがとうございます。わたしのために……」

シエル先輩は目をうるうるさせて翡翠の手を握っていた。

「姉さんの数々の暴言をお許し下さい」
「うーむ」

なんて人間が出来たコンビだろう。

それに比べて。

「ちょっと琥珀。旗色が悪くなってきたわよ?」
「ま……私には関係のない話ですね。私には妹という確立した立場がありますから」
「うわっ。妹ずっるーい!」
「あーもう、みなさん少し静かにしてくださーいっ」

こっちの自己中ぶりときたら。

「……やっぱり先輩は必要だよ」

常識のある人間が、ここには必要なのである。

「ですよねっ? ですよねっ?」

シエル先輩が変わる必要なんてなかったのだ。

むしろ必要があるとしたらこっちの人たちのほうで。

「ま、まだ話は終わってません。まだ他の意見が……」

非常に苦しげな表情をしている琥珀さん。

「あるんですか? 是非効かせてもらいたいですね」

一方余裕の表情をしているシエル先輩。
 

もはや、立場は完全に逆転していると言ってもよかった。
 
 

続く



あとがき
なんだかんだでゲーメストはいい雑誌でした。今でもいくつかは手元に残ってますけど、その当時の熱さがふつふつと甦ってくるようです。
確かみてみろ!

参考資料ページ
ゲーメストを1倍楽しくするサイト



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