まあ美人と一緒に仕事が出来るっつーのは悪い気しない。

相方さんも美人だったらいいんだけど。

いや、きっとこの展開なら美人に決まっている。

「楽しみだなあ」

なんだかわくわくしてきてしたぞ。

「ああ……吸血鬼と一緒に仕事だなんて……もしマスターにばれたら……ああああ」

一方、ななこは部屋の隅でガタガタ震えていた。

「テメエ嫌がってた本音はそっちかよ!」
 

オレは苦笑しながら叫ぶのであった。
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その10










「そんなわけで仕事の時間になりました……と」

時間は深夜、場所は路地裏。

「こんなとこで何するつもりなんだろうな」
「え? 有彦さん仕事内容聞いてないんですか?」
「ああ。シオンさんに話しておいたから聞いてくれと」
「……アバウトですねえ」
「うるせえ」

正確に言えば、姉貴に聞いても教えてくれなかったのだ。

美女に囲まれて、せいぜい楽しんでくれとか言ってとだけは言ってたけど。

もしかしてそういうウハウハな仕事なんだろうか。

「早く来ないかな、シオンさん」
「……有彦さん、鼻の下が伸びてますよ」
「相方の美女も気になるし……ああ、待つのが辛いぜっ」
「有彦さんっ!」
「な、なんだよ」

むっとした顔をしているななこ。

「いいですか。いくら美人だって言っても吸血鬼なんですよ。油断は禁物です」
「わーってるっての。だから輸血パックも持ってきたじゃねえか」

オレの背負っているカバンの中にはいくつかの輸血パックが入っている。

念のためにと姉貴が知り合いの看護婦から貰ってきたものだ。

曰く「別にオマエが死んでも困らんがギャラが入らないのは困るからな」とのことである。

こういう時くらい、弟が心配だからくらい言ってみろってんだまったく。

「とにかくバックを取られないように気をつけてください」

お願いしますよと念を押してくるななこ。

「バックか……キライじゃないがやっぱり正面からの方がいいなぁ」
「ななな、何の話をしてるんですかあっ!」
「冗談だっての」

まあ油断だけはしないようにしておこう。

「お待たせしました」
「お」

やっと来たか。

「待ってましたよシオンさんっ。で、相方の美女はっ?」
「……既に美女確定なのですか?」
「いやまあ美女に決まってるでしょ? 美人のシオンさんの相方なんだし」
「そんな事は……別に」

顔を赤らめそっぽを向くシオンさん。

「ほほう」

どうもシオンさんはこういう褒め言葉に免疫がないようだ。

これは結構ゴリ押しでもイけるんじゃないだろうか。

「で、その相方さんはどこにいるんですかっ! 姿が見えませんけどっ?」
「なんだようるさいな」

ななこがオレとシオンさんの間に割って入ってきた。

「……おかしいですね。先に来させたはずなのですが」

首を傾げているシオンさん。

「少し待ってください……ええと……」

きょろきょろと周囲を見回して。

「いた。何をしているんですか貴方は」

傍に生えている大木へと歩いて行き、裏に手を伸ばした。

「あっ……」

木の影からツインテールが出てくる。

「あ、あれ?」

その姿には見覚えがあった。

「あ、え、ええとその」

オレを見てもじもじしているそいつ。

「弓塚じゃねえか。どうしたんだよ、おい」

そう、クラスメートの弓塚さつきだった。

「あ、あのね乾くん。これはね、だからその」
「……さつき。有彦と知り合いなのですか?」

シオンさんが弓塚に尋ねる。

「あれ? この流れってもしかして……」

シオンさんは「何をしているんですか貴方は」と言って弓塚を引っ張り出してきた。

ということは。

「オマエ、暫く見ないと思ってたら吸血鬼になっちまってたのか?」
「え、えと……うん」

ためらいながらも頷く弓塚。

「……昔っから色々ついてない奴だったけど、そこまで行っちまうとはなあ」
「い、言わないでよぅ。めげずになんとか元気に頑張ってるんだからっ」
「元気な吸血鬼ってのもなあ」

いまいちよくわからない表現である。

「有彦さん。その吸血鬼と知り合いなんですか」
「ん」

やたら冷めた目で弓塚を見ているななこ。

「弓塚は元オレの元クラスメートだ」
「クラスメート……本当にそれだけですか?」

どうやらオレと弓塚の関係を疑っているらしい。

「強いて言うなら恋路を応援してやった仲とでも言おうか」
「恋路を応援?」
「いいいい、乾くんっ!」
「いや、まあ色々あったんだよ」

取りあえず適当に誤魔化しておく。

遠野の事はななこも知ってるからな。

話したらまたややこしい事になっちまう。

「なるほど、仕事の依頼主が知り合いだったから出辛かったのですね」

頷いているシオンさん。

「うん。まさか乾くんがそういう仕事を斡旋するような事してるなんて知らなかったからびっくりしちゃった」
「いや、仕事を斡旋してるのは姉貴なんだがな」

実際働くのはオレとななこなわけだけど。

「有彦の方は知り合いが吸血鬼になったと言う事実に大して驚いていないようですね」

シオンさんが呆れたような表情をしている。

「いや、イマイチ実感涌かないんだよな。吸血鬼っつーのが」

見た目はそれこそ何にも変わってないわけだし。

「んー。確かにね。わたしも時々自分が吸血鬼だってこと忘れて昼間に外出ちゃいそうになるし」
「以前快晴の時に外へ行き瀕死になって帰ってきた事がありましたね」
「あ、あれはその、ついうっかり、ほんと。寝ぼけてて。あは、あはは」
「……うん、全然行動パターン変わってないし」

弓塚のやつは、吸血鬼になる前からどっか運が悪いというか抜けてるというかそういうところがあった。

根本的なところはまるで変わってないようだ。

安心する反面、ほんとによく今まで生きてこられたなという感じもする。

「まあなんでもいいわな。仕事さえやってくれればいいんだから」

とにかく今日肝心なのはそこなのである。

「そうですね。さつき、ミスだけはしないようにお願いしますよ」
「大丈夫だって。わたし頑張るよっ」
「……不安だ」

ななこがいるだけでも不安だっつーのに余計な心配の種が増えちまったような。

「し、信じてよ乾くん。わたし100キロくらいなら持ち上げられるし、100メートルも数秒で走れちゃうんだよ?」
「悪い、全然イメージできない」

押しつぶされてるイメージとかずっこけるイメージとかなら簡単に出来るんだが。

「あうぅ」

なんせ遠野にアタックして散々失敗してる姿ばっかり見てたからなあ。

「とにかく行きましょう。夜の間に仕事を終わらせなくてはいけませんから」
「あー、うん」

結局仕事の内容はまだ聞いてないんだが。

まあいい、行けばわかるだろうきっと。

「大丈夫ですかねあの弓塚って人。かなり頼りなさげなんですけど」
「……」
 

オレはとりあえずこいつに五十歩百歩と言うことわざを贈呈しなくてはいけないようであった。
 

続く



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