今の話で何がわかったっていうんだよ。
「うふふふふ」
ななこはびしっと蹄を向けて叫んだ。
「謎は全て解けました。犯人はこの中にいます!」
『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その102
「ななこ。当てずっぽうでモノを言うのは止めたほうが懸命ですよ」
そんなななこを見て呆れた顔をしているシオンさん。
「そうだそうだ。この中に犯人がいるっておかしいだろ?」
この場にいるのはオレとななこ、シオンさんに弓塚、それから姉貴だ。
「弓塚が夜中にこっそり墓に来てしくしく泣いてるとでもいうのか?」
「どうしてそこでわたしなの?」
「弓塚だから」
「うわ。乾くんが酷い事言ってる」
シオンさんに目線を向ける弓塚。
「さつき。反論なら自分でなさい」
「そ、そんなぁ」
「さあどうする。反論がないなら弓塚が犯人ということにしてしまおうか」
なんだかもう、それでいいんじゃないかという気になっていた。
「わ、わたしが犯人っていうなら証拠を見せてよっ」
「……弓塚、それは悪事がばれた犯人のセリフだぞ」
「だって本当にやってないんだってばー!」
まあ弓塚いじりはこのへんにしておいて。
「詳しく話を聞こうじゃないかななこ。オマエは今までの会話と行動で何か気付いたのか?」
「はい。わたしは皆さんが気付いてないだろう重要なポイントに気付いてしまったのです!」
「ほう?」
「聞かせてもらいましょうか」
シオンさんもななこの言葉に興味を持ったようだ。
「まず目撃証言ですが。先に泣き声が聞こえたんですよね」
「ああ」
「あ。もしかしてラジカセ使ったとかじゃないかな?」
弓塚がそんな事を言う。
「さつき。その使ったラジカセはどこに隠れているのですか?」
「あ。え、あ、そっか……」
「道具を使ったらそれを隠さなきゃいけないからな」
そんな簡単にはいかないのである。
「もう。ちゃんと聞いてくださいよー」
「へいへい。泣き声の後がなんだっけ?」
「人影があるのですが声をかけると消えるという事です」
「そうだ。それはどうやって説明する?」
「落ち着いてください。物事には優先順位というものあってですね」
そりゃさっきのオレのセリフだ。
「まず泣き声ですが。これは本当に泣き声だと思います」
「あん?」
「きっと辛い事があったんでしょう。涙するのも当然です。しくしくと雫が頬を伝います」
「意味のわからん言い回しはやめい」
時々こいつは演技がかった口調になる。
それはつまり調子に乗ってるって事なんだけど。
「も、もしかしてその人は事件の犯人か何かで、ここのお墓には被害者が眠っていてその苦悩でお墓参りに……」
「誰も来ねえじゃねえかよ」
人影ひとつありやしない。
「誰か来たのならわたしのエーテライトに引っかかったはずです」
「じゃあ姉貴が来たのもわかってたのか?」
「ええ」
当然ですと言わんばかりのシオンさん。
「姉貴にどうしてここにとか聞いてたのに?」
「……来たことはわかっていても来た理由まではわからないでしょう」
「いや悪い悪い」
少し怒らせてしまったようだ。
「弓塚さんの想像は面白いですけど今回は違いますねー」
「ん」
ななこが自慢げな顔のままそんな事を言った。
「じゃあ何だよ。もういいから結論にいけ、結論に」
こいつの話はまだるっこしい。
「えーと、泣いてばかりでもしょうがないので家に帰るんですよ」
「……それが姿消失ですか?」
「はい。そうですよ」
「呆れた」
大きくため息をつくシオンさん。
「いいですか。声をかけたら姿が消えたと言っているのです。ただ帰ったという説明で納得できるわけないでしょう?」
「何もおかしくありませんけど?」
一方首を傾げているななこ。
まるでシオンさんがおかしな事を言っているかのような態度だ。
「……」
あ、シオンさんがすっげえ不機嫌な顔してる。
「いいですか! どこの世界に一瞬で姿を消せるモノがいるというんですか! 幽霊や精霊じゃあるまいし!」
「はい、だから精霊なんですけど」
「……は?」
ななこの言葉に口をぽかんと開くシオンさん。
「まさか……」
オレはものすごい考えが浮かんでしまった。
いや、それ以外にはないんだろうが。
こんなもん推理小説だったら即ゴミ箱行きの展開である。
「つまり犯人はわたしだったのです!」
どーん!
自慢げに宣言するななこ。
「どアホ」
ごんっ!
オレの鉄拳がななこの頭に炸裂した。
「いったあー! 暴力反対ですよー! みなさん助けてくださーい!」
「……」
「……」
「……あ、あれ?」
さすがに今回は誰もななこの味方をするやつはいなかったのであった。
「マスターが人目についてはまずいというので……」
そんなわけでななこの白状が始まった。
「まあそんなこったろうと思った」
つまりはななこの本業、マスターの仕事の都合で仕事帰りに人目についてはいけないということなのだ。
帰る前に一旦墓場を経由して、それぞれの寝床へと戻る。
「マスターが帰った後に散々こき使われたたわたしは涙を流すわけです」
「そこをうっかり見つかってしまったと」
「すぐに逃げたんですけどねー。記憶を消さなかったのは失敗でした」
さりげに怖い事言ってる気がするが深くは聞くまい。
「……どうやって説明するかね」
腕組みをしている姉貴。
「夢でしたってわけにもいかんだろうしなあ」
「一番効果的なのはそれを再現できるトリックをでっち上げる事ですが」
「いや……そこまでするのもなんだろう」
かといってななこを説明すればまたややこしい事になるし。
「やっぱり記憶をどうにか……」
「ひとつ聞くが、それは頭をぶん殴って記憶を消すとかそういう物騒な方法じゃないよな?」
「……えへ」
「えへ、じゃねえ」
頭をぐりぐりしてやる。
「痛い痛いー! やめてくださいー」
「取り合えず今日は遅いから帰るとしよう。明日考えればいいさ」
「そうだな」
「もう眠くなってきたしね……」
大きなあくびをしている弓塚。
こいつは夜行性じゃないとおかしいはずなんだがなあ。
「ま、ひとまず解決したってことでよしとするか」
「わたしのおかげですよねー」
「いやおまえのせいというのが正しい」
もう一度ぐりぐり。
「うわーん! 有彦さんがいじめるー!」
この叫びはこれでまた噂になりそうな悪寒がするのだが。
大丈夫だよな?
「知らない?」
「ああ」
翌日、姉貴がなんとも不思議そうな顔をして戻ってきた。
「掃除をしてくれてありがとうとは言ってたんだけど、オバケ云々に関しては知らないだとさ」
「……妙な話だな」
「ですねえ」
ななこも首を傾げている。
妖怪記憶取りとかそういうのだろうか。
「まあ金を貰えればなんでもいいんだけどね」
「ですねー」
こういう時アバウトって素晴らしいなと思う。
シオンさんだったら徹底的に原因究明とかやりだすだろう。
適当に誤魔化しておかないと。
「妙といえば、ついでだけど変な事を言ってたな」
「変?」
「ああ。ニンジンに七番は合わないがいいとかなんとか」
「ニンジンに七番!」
それを聞いて怯えた表情をするななこ。
「どうした?」
「よ、妖怪いぢめっ子女の出現です! 有彦さん! 今すぐ退治に行ってください!」
「いや何の話だよ」
「あーん! マスターにまたいぢめられるー!」
ななこは悲鳴を上げながら壁の中に消えていってしまった。
「……なんじゃありゃ」
「さあ?」
熱さのせいでどうにかなっちまったのか。
実に奇妙な一日であった。