「……アヅイ」

中途半端な雨の後のもあっとした空気がたまらなく鬱陶しかった。

「あーづいーでーすー」

ななこも床に転がってへたれていた。

「精霊が暑いとかほざいてんじゃねえ」
「暑いものは暑いんですよー」

こいつはいらん能力ばっかり充実している気がする。

「シオンさんたちもだれてるんじゃないですかね?」
「……それだ!」

オレはなんて大切な事に気がつかなかったんだ。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その103








「それって何ですか?」
「いいからおまえは大人しくだれてろ」
「あうー」

いつもだったら怪しいだのなんだのと絡んでくるななこだが、暑さのせいでそれすら考えられなくなっているようだった。

「……ふっふっふ」

そう、暑い日。

暑い日には汗をかく。

そして何より薄着になる。

「今行くぜ二人とも!」

そこはきっとパラダイスだ!
 
 
 
 

「……ぐお」

部屋を空けた瞬間、俺の部屋以上にもあっとした空気が顔に吹きかかってきた。

「だ、大丈夫なのか?」

脱水症状とか起こしてないよな?

「あ、おはよーいぬいくーん」

なんだか目線が怪しい動きの弓塚。

「どうしたんだ、これ?」

と尋ねつつも目線はシャツの透けた下着にいってしまう。

「あー、うん、ちょっと天然サウナをねー」
「天然サウナ」

なるほど確かに今のこの部屋はサウナのそれの空気と酷似している。

「我慢強さを競う勝負をしていたのです」
「シオンさん」

白いシャツ一枚のシオンさん。

普段の厚着とのギャップというかなんというか、肩のラインが綺麗だなーとか。

ブラボー!

オレは心の中でそう叫んでいた。

「なんでまたそんな事を?」

それを声に出さないのがオレの凄いところだ。

ネタに走る時は叫ぶけど、こういう時は何も言わない。

「きっかけはつまらない事だったのですが」

かちっと扇風機のスイッチを押すシオンさん。

かちかち。

「あれ?」

ぴくりともしない。

「故障のようです」
「そりゃ痛いな」

この乾家に冷房は存在するが、まず使わない。

日本の健康的な暑さを楽しむんだ、とかいう姉貴のワケのわからない理屈からである。

オレもどちらかというと暑いの大好き人間なので使わない。

「そこでイライラするくらいならばいっそ我慢大会にしてしまえば楽しめるのではと判断しました」
「ほー」

シオンさんにしてはトンデモな理屈の気がするが。

「シオンはさっきまでへたばってたんだよ。わたしの勝ちみたいだねー」
「勝負はこれからです、さつき。残り数ドットからが勝負なのです」

言ってることもなんだか意味がわからなかった。

「大丈夫かよ」
「大丈夫です」
「平気だよー」

この場合の返答は酔っ払いの大丈夫と同じだと考えていいだろう。

「そうかよくわかった」

オレは差し入れに持って来たジュースを置いて立ち上がった。

「ちょっと待ってろ」

ここはひと肌脱がんとな。

暑いし。

「うりゃ!」

シャツを脱ぎ捨て上半身ハダカのオレ。

そのまま自分の部屋へと戻る。

「マッスル!」

がきーん!

「ダイナマイツ!」

がきーん!

「有彦さん、そういう鬱陶しいのは他所でやって頂けません?」

ななこは物凄く嫌そうな顔をしていた。

「いや、ついな」

暑いのがよけいに暑苦しくなってしまった。

せなかをじっとりとした汗が覆う。

「オマエもちょっと手伝え」
「えー? 何かするんですか? 動くのだるいですよー」
「涼しくなるぞ」
「やりますっ」

まあ実に現金なヤツである。

「何をすればいいんですか?」
「ああ、まずは……」
 
 
 
 
 

「弓塚ー。シオンさーん」

相変わらずの蒸し風呂部屋に突貫。

「シオンー。そろそろあきらめたらー」
「ま、まだまだです」
「おお」

地面に仰向けで寝そべっている二人。

絶対領域の絶妙なポジション。

ボタンが外れたはだけた上着。

汗に濡れた肌。

「いいね」

この光景を撮影したらバカ売れしそうな気がする。

「……いやよくないって」

こんなんじゃ本当に倒れてしまうだろう。

「さあ、二人とも立つ」

手を取って無理やり起き上がらせる。

「なにするのー」

ほやんとした顔の弓塚。

今だったら楽勝で押し倒せそうな感じだが。

「お医者さんごっこ」
「乾くんってば、冗談ばっかりー」
「つくづくいやらしいですね、有彦」
「冗談だっつーに」

一応まだ余裕はあるようだった。

「オレは我慢大会にさらなる追加要素を提案する」
「追加要素?」
「ああ。蒸し風呂もいいがな」

ここで怪しく笑ってみせる。

「直接お湯に入ったほうが熱いだろう?」
 
 
 
 
 

「……通しません」
「ち」

当然の如く、弓塚とシオンさんの入浴シーンはななこに阻害されて見る事が出来なかった。

くそう、甘くてウフフでパパパヤーな展開を期待していたのに。

「一体どういうつもりなんです?」

じろりとオレを睨みつけてくるななこ。

「おまえ、人間はどうして汗をかくか知ってるか?」
「は? え? えーと、暑いからですかね?」
「アホ」

頭を小突く。

「違うんですか?」
「いや、まあ正解だけど」
「有彦さーん」
「ニュアンスが違うんだよ」

正確には暑いじゃなくて熱いだ。

「体温を下げるために汗をかく」

肌を流れる汗が蒸発する時に熱を奪うから云々。

「で、別に汗じゃなくたっていいわけだ」

要するに水が蒸発する時というのがポイントなのだから。

「それでお風呂に?」
「まあ風呂入れば汗もかくしな」

水に入る事でさっぱりもする。

「重要なのはこの後だ」
「はぁ」

ななこは首を傾げていた。

「いいお湯だったー」
「お」

湯上り弓塚。

髪を下ろした姿というのは中々新鮮である。

そして当然の如く薄着。

短いズボンからのぞくフトモモが実にいい。

やはり弓塚といったらこれだ。

「というわけでおまえを連行する」
「え、どこに?」
「台所」

台所にはあるものを用意しておいた。
 

「……ぬるい……」

常温のスポーツドリンク。

「冷たいドリンクよりそっちのほうが吸収が早い」

風呂上りは特に水分が必要だから、冷たいものを飲みたい気持ちはわかるがこっちのほうが効率的にはいい。

「次にこっち」

今度はちゃんと冷やしておいたもの。

「うわあ、美味しぃ!」

嬉しそうな声をあげる。

「さらに!」

弓塚の首にタオルを巻く。

「ひゃあっ!」

身悶える弓塚。

「水で濡らしておいたタオルだ」

これが中々バカに出来ない。

「部活の時によくやったよー」

つまり散々言っている蒸発効果を期待するわけだ。

「ひんやりしてるね」
「水につける前に冷蔵庫に入れておいた」

これを首に当てておくと案外涼しいのである。

「扇風機がなくても涼しくなれるんだねえ」
「姉貴の言うところの日本のよき風習ってやつだ」

もしくは学校での暑さを紛らわすための策と言ってもいい。

「さっぱりしましたね……」

髪を束ねた湯上りシオンさん。

「今度はわたしにやらせてね」
「おう」

弓塚がにこにこした顔でシオンさんへ近づいていった。

「どうしました?」
「えいっ」
「ひゃあああっ!」

タオルを当てられ身悶えるシオンさん。

「おおっ」

その仕草が実にえろい。

「よくもやりましたねっ!」
「やぁん!」

濡れたタオルを使って互いの敏感な部分を攻めあう二人。

「ああ、夏っていいなあ……」
 

オレは素晴らしき夏の日を満喫していた。
 



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