満員電車の中の温度と密度はますます増しているかのようだった。
 

ウォーターワールドはまだなのか。
 
 

このまま永久に着かなきゃいいのに。
 
 

……あれ?
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その109












「あ゛あああああああ……」

駅の水道で水を頭から被り続けるオレ。

「……どうしたの乾くん?」
「蒸し暑かったですからね……」

いや、貴方たちのせいで煩悩を消すのが大変なんですが。

これからさらに露出の高い格好を拝まされるってのに。

「やー、えらい密度だったな」
「……」

ちなみにこのクソ姉貴は電車に乗ってすぐに空いた席に座って寝てた。

くそう、こいつがチケットの出所でさえなければ文句を言ったのに。

まあ寝ててくれたおかげで、オレはあんな状況になったわけなんだけど。

「弓塚たち体とか大丈夫か?」

背骨を伸ばすオレ。

「あー、うん、なんとか」
「準備運動をしっかり行えば……大丈夫でしょう」

弓塚と視線が合い、慌てて顔を逸らせるシオンさん。

「ふむ」

普段はシオンさん攻めなんだがなあ。

無意識の弓塚攻めには弱いか。

「……だあ」

だからそういう話じゃないっつうに。

「とにかく行くぞウォーターワールド!」

こっからがやっと本番なんだから。

「ところで何か忘れてやいないかい?」
「なんだ? 何も忘れてないぞ? ななこなんて奴の事は全く知らん」

忘れてないぞとななこの名前を出すまでの間に、姉貴の拳が振りあがったのは関係のない出来事である。

「また用事かい?」
「だとよ」
「……難儀な子だねえ」
「こればっかりはなんとも言えんさ」

まさか仕事辞めろなんて無責任な事は言えないし。

だいたい本当の所有者はあっちなんだから。

「チケットどうするかね?」
「あいつ勝手に出現するからバレないだろ」

だいたい一人としてカウント出来ない気がする。

「……そうか」

よく考えたらあいつ無料でなんでも入りたい放題じゃねえか。

今までバカ正直に料金払ってたけど、これからは……

「何かよからぬ事を考えてる顔だね」
「うぐ」
「ななこちゃんが来るまでオマエはここで待機にするか」
「いやホントすいません。調子乗ってました。マジで勘弁して下さい」

深々と頭を下げるオレ。

「冗談はともかくどうしようかね」
「あー、ちょっと呼んでみっか」

もし呼んで来れないようだったら本気で忙しいだろうし、来れるんだったらその程度ということだろう。

「うおーい、なな……」
「はー。やっと終わりましたよー」
「うわあっ!」
「わわわっ?」

このバカヤロウ、いきなり正面に出てきやがった。

「お、脅かすなよ」
「有彦さんこそー」

呼ぼうとするタイミングとこいつが戻ってくるのが一致したらしい。

「絶妙でしたね」
「それだけ息が合ってるんだよ」

弓塚がどこかずれた事を言っている。

「……まあこれで全員揃ったわけだ」

何か言っても茶化されるだけなので、さっさと話を進める事にする。

「もう大丈夫なのかい?」
「はい。もう今日はお休み頂いて来ましたのでー」

にへらと嬉しそうな顔をするななこ。

「そいつはよかった」

いくらななこだって置いてけぼりじゃかわいそうだからな。

「あ、有彦さん……」
「ヒューっ」
「……なんだよその口笛は」

見ると姉貴がニヤニヤ笑っていた。

「じゃあ行きますかと」
「無視かよ!」
「あはは、今日は楽しくなりそうだねー」
「期待できそうです」

ああもう、むかつくなあこいつら!
 
 
 
 
 

「さてと」

光の早さで着替え終わったオレ。

後は皆が来るのを待つのみである。

「楽しみだ……」

ななこもオレが選別してやったおかげでいい水着だし、何よりシオンさんと弓塚の水着姿が楽しみである。

シオンさんは一度見た事があるが、言わずもがなハイレベルだったし、弓塚も弓塚でなかなか……

「……はっ」

そこでオレは大変な事に気がついた。

「姉貴も水着なのか……!」

なんて恐ろしい。

あいつが水着を着ているだなんて考えただけで背筋が凍る。

言いたかないが、姉貴はスタイルだけはムダにいいのだ。

あんだけ不摂生な生活してるくせに。

髪も解いているから丸っきりの別人。

「アレに騙された男がどれだけ築かれるか……」

まあシオンさんや弓塚へ群がる男避けだと考えればいいのだが。

自分の姉に男が群がる姿というのは正直複雑である。

「誰に騙されるって?」
「はっ?」

噂をすれば影。

やはり姉貴、ここぞとばかりにスタイルを強調する水着を着てきやがった。

今は上にシャツを羽織ってるからまだマシだが。

どこの女優なんだよオマエは。

「……いや、これはこれで需要があるのか?」

などと姉貴について批評するのはアホらしいので止めた。

「みんなは?」
「すぐ来るよ」
「そうか。じゃあちょっと待つか」

というわけでさりげなく離れて姉貴の様子を伺うことにする。

ひー、ふー、みー、よー。

「おまたせしましたー」
「……四人か」

最初にななこが出てくるまでの数分で四人。

「え、どうしたの?」
「いやなんでもない」

恐るべし撃墜王。

「姉貴の事なんてどうでもいいんだよ」

ななこの水着についても割愛。

こいつはいつも水着みたいなもんなんだからな。

「えへへ、どうですか?」
「いや何が?」
「もう、有彦さんってばー」
「……はいはい」

省略するわけにもいかないようだ。

えーと、ななこは胸がないので水着も平坦で。

「何か失礼な事を考えてますね」
「当然だろう」
「……はぁ」
「冗談だってのに」

なんせ普段から露出が高いやつだが、可愛さというものが足りないのでフリフリなんぞついてるのを選んでやった。

それだけだと幼さが余計に強調されてしまうので、若干胸をアピールするような感じにしてみたり。

まあそれでもたかが知れてるんだけど。

「ヘソはいいな」
「そ、そうですか?」

ビキニにしたのは正解だった。

胸はないが腹はくびれているので意外とバランスがいいのだ。

そして尻は安産型。

「うむ。よきかな」

尻尾がどうなってんだかよくわからないことを除いては、割といい感じである。

「あはは。ありがとうございますー」

自分で感想を求めておいて顔を赤くしているななこ。

女というものは複雑な生き物である。

「……さて」

あとは弓塚とシオンさんを待つのみ!

「ふふふふ、ふふふふふふふ」
 

いやがおうにも怪しげな笑いをしてしまうオレであった。
 



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