あとは弓塚とシオンさんを待つのみ!
「ふふふふ、ふふふふふふふ」
いやがおうにも怪しげな笑いをしてしまうオレであった。
『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その110
「……いや、こんな顔で待ってたらいくらなんでも怪しすぎるな」
はっと我に返り、後ろを向いて待つことにする。
「お待たせしました」
「お?」
と思ったらすぐに現われた。
「いや、全然待ってな……」
ぴっちりと肌に密着するように作られた特殊素材。
青空の下に光り輝く紺色に近い青。
恐ろしいほどに地味なデザイン。
胸に張られた名札!
そう、これはスクール水着だ!
よもやこれが来るとは予想だにしていなかった。
しかも、しかもだ!
「ど、どうしました有彦?」
これを着てるのが髪を解いたシオンさんと来たよオイ!
つまりは弓塚のお下がりを着ているという何ともマニアックなカタチであり。
「シオンさーん! ぼかぁーもう!」
「隙だらけです!」
「ガハアッ!」
ダイブしたはいいものの、腹に肘うちを食らってしまった。
だがこの程度でめげるオレではない。
「シオンさん、それはヤバイ!」
オレは他の奴らに見えないようにシオンさんの肩を掴んだ。
「や、やばいのですか?」
「ああ、だから写真を撮ろう。いやむしろ結婚しよう」
「……言動に理解不能な点が多いのですが」
「いや。だがスク水の良さはむしろ後ろから見た際に際立つという。水に濡れた時に尻のラインを直すのがいいんだ!」
「は、はあ……」
「とにかく水に入ろう! そして尻を直すんだ! オレはそこを写真に撮るから!」
その写真は家宝に出来るぞきっと!
「そんな言われ方をして誰が頷きますかっ!」
シオンさんはオレの素晴らしい意見をわかってくれないようだった。
「大丈夫、オレしか見ないから!」
「却下します! 変態ですか貴方は!」
「ハァハァ」
「いくら貴方でも容赦しませんよ!」
「いや冗談」
まさかこの紳士的なオレが、そんな変態的行為を強要するわけがないだろう。
「真面目にそれは危険だから着替えて着て欲しい」
シオンさんと弓塚じゃ体型が同じわけがないので、そりゃもう胸がぴっちぴちだわ腰はムチムチだわで大変だった。
「ビキニのほうがまだマシだ」
あれはもう見せる事を前提に作られてるからいい。
だが、意図しないで見えてしまうものに人は異常な興奮を感じてしまうのだ。
パンチラしかり、胸チラしかり。
男だけじゃないぞ! 女だって……いや止めておこう。
「そんなにまずかったかなあ」
「ん、いたのか弓塚?」
「うわ、酷い」
「いや知ってたけどさ」
あまりにシオンさんのインパクトが強すぎたのだ。
「うん、弓塚も可愛くていいぞ!」
「素直に喜べないよぅ」
弓塚はいつもの髪型を解いているのでかなり印象が違う。
水着はビキニタイプで明るい配色。
「シオンさんさえいなければなあ」
このあたりが弓塚の不遇というかなんというか。
「つか自分はスク水じゃないってどうなんだよ」
「わたし水着そんなに持ってないもん」
そりゃそうなんだけどさ。
「いや何も言うまい」
シオンさんにスク水を着せたという偉業は何物にも変えられないだろう。
「よくやったぞ弓塚!」
「だから嬉しくないってばー」
とまあ弓塚をからかうのはこれくらいにして。
「弓塚、金はやるから適当に見繕って来い」
「あ、うん」
てってこ走っていく弓塚。
あ、こけた。
「……てかどっからスク水を……?」
わざわざ家から持ってきたんだろうか。
「ななこがさつきの衣類を探してきてくれたんですよ」
「ふーん」
あいつもいいことするじゃねえか、なあ?
「そういや姉貴たちどこ消えたんだ」
いつの間にやら姿が見えないんですけど。
「一子とななこならあの巨大な青いものに向かっていきましたが」
「あー」
それはウォーターワールドの名物巨大ウォータースライダーだった。
「姉貴にななこが連れてかれたってとこか」
「恐らくは」
まあきっと楽しんでるだろう。
「いやしかしスク水をこんな場所で見れるとは思わなかった」
「……そんなに違和のあるものなのですか?」
「普通学校以外では着ない」
これは学校だからこそアリな格好である。
「そうだと最初に知っていれば……」
シオンさんは恥ずかしそうな顔をして足をもじもじさせていた。
「イイヨイイヨー」
その恥じらいの表情いいですねー、上目遣いでこっち見てみようかー?
「有彦!」
「へいへい」
睨まれてしまった。
「これでも被ってろ」
脇に抱えていたシャツを渡す。
「あ、ど、どうも」
スク水の上からシャツを羽織るシオンさん。
「うぐっ!」
だぶだぶのシャツから僅かに見える青い水着のライン。
余計に強調される太もも。
「……これはこれで危険な気がする」
シオンさんのスタイルが良すぎるのがいけないのである。
「買ってきたよー」
「ナイスタイミングだ!」
「か、感謝します」
シオンさんはその水着を持ってそそくさと更衣室に走っていった。
「今度は大丈夫だろうな」
「ちゃ、ちゃんと選んだよぅ」
「ならいいけど」
しばらくシオンさんを待つ。
「うーむ」
その間やることもないので弓塚を眺めてみたり。
「な、なに?」
「いや深い意味はない」
弓塚はよくも悪くも普通なのが魅力というか。
対抗馬のシオンさんやらアルクェイドさんやらが犯罪的なだけであって。
「まあ、頑張れ」
「え? あ、うん」
ここであっさり頷いちゃうのが弓塚のいいところで悪いところなんだよなあ。
「ちなみにどんな水着選んだんだ?」
「言ったら面白くないよー」
「まあそれもそうなんだが」
やっぱり地味なんだろうか。
いや、弓塚も女の子、そう甘くはないだろう。
きっちりとシオンさんに合った物を仕上げてくるはずだ。
「お待たせしました」
来た!
さあ一体どんな水着を?
「……おお?」
普通だった。
なんていうかコメントし辛いくらい普通。
「ど、どうしました?」
「いや……」
確かにビキニだし、露出度は高い。
だがさっきのスク水があまりに強烈過ぎたのだろう。
色が弓塚のと近いのも致命的だ。
「まあ、うん、いいんじゃね?」
でもこれなら大丈夫だろう。
残念ではあるが。
「そっか。よかったねシオン」
「何を言うんですか、元々はさつきが……」
「あはは、ごめんごめんー」
きゃっきゃとシオンさんに抱きつく弓塚。
「まったくもう……」
「……なるほど」
つまりそういうことか。
「いいか弓塚」
「え?」
「一人では単なる火に過ぎない。だが、二人合わせれば大きな炎になるという事なんだな……!」
「意味がわかりませんよ有彦?」
「ああ。わからなくていいんだ」
とにかくオレは今の光景を忘れないように、しっかりと心のアルバムに刻むのであった。