「さあこれからたのし……」

意識が揺らぐ。

ああ、あのバカヤロウ。

本気でやりやがったな。

「……い」

オレもバカだった。

ななこになんか頼まなきゃよかったのだ。

がくり。
 

そのままプールの脇に頭を乗せて意識を失うのであった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その114




「はっ?」

ここはどこだ。オレは誰だ、乾有彦だ。

「気付いたかい」
「姉貴」

どうやら気を失っている間に姉貴のところに連れて来られたらしい。

「ななこちゃんに感謝するんだね」
「アイツか」

感謝も何もあいつのせいで気絶したんだがなぁ。

「今はみんなで3メートルプールに行ってる」
「3メートル?」
「深さが」
「ああ……」

それは中々面白そうだ。

弓塚やななこがいいリアクションをしていることだろう。

「オレも行こうかな」
「もうちょっと寝てな」
「……了解」

体を起こしたが、かなりだるかった。

もしかしたらあの後流されたのかもしれない。

「心配したか?」

ヒマなので尋ねてみる。

「いや全然」
「だよな」

即答というのが実に清々しい。

「むしろあたしはさ」
「何だ?」
「さつきちゃんやシオンちゃんのほうが心配なんだがな」
「あん?」
「いや、ほらさ」
「あー」

言いたい事はわかる。

つまり吸血鬼が日光の下にいても大丈夫なのかって話だ。

「最初はさ、そういう日向の下の仕事を受けなかっただろ、二人とも」
「そうさな」

のっけからそんな仕事をもってくる姉貴もどうかしてると思うけど。

「それがいつからか普通に仕事をするようになってた」
「ウソをついてたって事かい?」
「ややこしい話になるんだがな」

吸血鬼というのは真実だろう。

弓塚やシオンさんの尖った歯を見た事もあるし、血を飲んでるのだって見た事がある。

そもそも偽者だったらななこが警戒しなかったはずだ。

「ウソは日光の下がダメって事かな」

それが今は対策をしているからなのか、そもそも吸血鬼にまつわる情報がウソなのかはわからない。

「最初は太陽が苦手って言ってたけど、知り合って数日の野郎に真実を話すとは思えんし」

あのななこだって最初は呪いの亡霊だとかほざきやがったくらいだからな。

「その辺、本人たちに聞いたわけじゃないだろう?」
「そりゃそうだけどさ」

そんな事を聞いたら嫌な顔をされるに決まっている。

言うなればアレだ。

生理でプールの授業を休んだ女子生徒になんで休んだんだと聞くようなもん。

「お天道様の下で生活出来ている二人をさ、わざわざ夜の世界に連れてかんでもいいだろう」
「野暮な事は言いっこなしってか」
「面倒ごとに巻き込まれるのも嫌だしな」

それはアトラスの秘術で知ったものは……なんて展開は勘弁願いたい。

「ま、オマエがそれでいいならいいさ」
「そそ」

君主危うきに近寄らず。

そんな事よりも、水着で活発で動いている二人を見る事のほうが重要に決まってるじゃないか。

「それと」
「あん?」
「知らない子たちが増えてたんだが、引っ掛けたのかい?」
「姉の言うセリフじゃねえな」
「何を今更」

確かに。

「ちょっと前に縁があってさ」
「へえ」

オレの顔を見てにやにやと笑う姉貴。

「あたしの弟もずいぶんモテるようになったもんだ」
「別にモテてるわけじゃないけどな」

全員がオレに気があって好き好きーな展開なら別だが。

「ま、せいぜいパシリとして頑張りな」
「へいへい」

ひょいと立ち上がるオレ。

「もう大丈夫なのかい?」
「ああ。サンキュな」
「楽しんでこいよー」
「おうっ」

3メートルプールとか言ってたよな。
 
 
 
 
 

「美女の水族館……」

妙にギャラリーが沸いてる理由はそれであった。

深さ3メートルのプール。

安全性の為だろうが、その水の入っている場所は透明で、中で遊んでいる姿がくっきりと見える。

そしてそこには弓塚やらシオンさんやらがいるわけだ。

あとついでにななこ。

「……なにやってんだか」

ななこは水底でもがいていた。

ぼこぼこぼこぼこ。

「あはっ、あははははは!」

浮き上がってきた途端に笑い出す。

どうやら楽しいらしい。

「ふーむ」

取り合えずギャラリーをかきわけ水槽……と呼んでいいんだろうかに近づく。

「ほう」

下から上を泳ぐ姿を見れるのは新鮮だ。

「ぴっちぴちよってか」

そりゃもう色んな意味で。

「ん」

水中で手を振っている弓塚が見える。

「気付いたのかな……」

手を振り返してやると嬉しそうな顔をする。

が、すぐに呼吸が足りなくなったのだろう。

水面にあがっていった。

「……これってオレも入れるのかな」

見ると一時間待ちなる立て札がある。

「順番か……」

それじゃかったるいな。

みんなが出てくるのを待つとしよう。

「乾さん、気がついたんですね〜」
「ん?」

振り返ると羽居ちゃんが立っていた。

「入らなかったの?」

水槽を指差す。

「蒼香ちゃんがやめとけってー」
「あー」

この水槽内でうっかり水着が取れた日には……。

「溺れたら大変ですもんね〜」
「……そうだな」

そういうことにしておこうか。

「その蒼香ちゃんはどこに?」
「一緒に入ってますよ〜」
「ん」

なるほど、よく見ると奥のほうにそれっぽい姿が見える。

「こっちに人目が集まってるから大丈夫だろうって」
「ふむ」

実によく出来たお嬢さんである。

「あとちょっとで出てくると思うんですけど〜」
「じゃあ二人で待つか」
「はい〜」

とは言ったものの。

この子相手にどんな話題がいいんだろうか。

こういうタイプは一番難しいぞ。

「あの〜。乾さん〜」
「なんだ?」

考えていると羽居ちゃんのほうから声をかけてきた。

「ここに来る途中で美味しそうなかき氷屋さんを見つけちゃいまして〜」
「かき氷か」

なるほどプール脇で食べるってのもオツかもしれない。

「蒼香ちゃんが一人で歩き回るなって言ってたから待ってたんですけど〜」
「そこにオレが来たと」
「はい〜」

嬉しそうに笑う羽居ちゃん。

つくづく笑顔に邪がない子である。

「わかった。じゃあ行こうか」
「いいんですか?」
「もちろんだ。おーい」

水槽に向かって声をかける。

「?」

水中を向こう側からこちらへ泳いできた蒼香ちゃんが気付いたようだ。

「ん」

横にいる羽居ちゃんを指差してから、かき氷を食べる仕草をしてみせる。

「……」

蒼香ちゃんは水中で親指を立ててみせた。

「OKだそうだ」
「ありがとうございます〜」

ぺこりと頭を下げる羽居ちゃん。

「じゃあ、案内してくれよ」
「は〜い」
「え」

ぐいとオレを引き寄せる羽居ちゃん。

そして。

むにゅっと。

「!」
 

柔らかなボリュームある物体の感触が、オレの腕に伝わってくるのであった。
 
 



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