ぐいとオレを引き寄せる羽居ちゃん。
そして。
むにゅっと。
「!」
物凄いボリュームの柔らかい物体の感触が、オレの腕に伝わってくるのであった。
『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その115
「ちょ……」
歩き出した羽居ちゃんを慌てて止める。
「はい?」
ぽよん。
「うごっ!」
止まった反動で感触がさらにっ!
「どうかしました〜?」
「あ、いや……」
オレとしてもこの幸福の状況を捨てたくはない。
だが、こうも幸せだと逆に不幸が訪れるんじゃないかと思うわけだ。
「かき氷はお嫌いですか〜?」
「そうでもなくて」
「ブルーハワイが美味しいんですよ〜。ベロがまっさおになっちゃうんですけど〜」
なんて言いながらぺろりと舌を出す羽居ちゃん。
「……ヤバイ」
天然の子がここまで破壊力があるとは。
「はい?」
「や、やあ、なんでもないっ」
とすると美女ハンターの有彦さんとしてはもうちょっと堪能したいわけだ。
男だったら誰だってそーする。
「それでかき氷屋はどっちにあるのかな?」
「はい、あっちです〜」
再びがっしりと密着。
「おおおおおお」
なんかもうオレは今死んでも後悔しない気がする。
「……チッ」
かき氷屋のアンちゃん、気持ちはわかるが接客はちゃんとしないとダメだぜ?
「お兄さん、ブルーハワイくださーい」
「はい、ブルーハワイですね」
にこやか。
「オレは練乳」
「ハッ」
「……」
この対応の差に普段のオレだったらブチ切れただろう。
しかし今のオレは余裕に満ち足りている。
「羽居ちゃん、奢ってあげようかっ?」
「そんな〜。悪いですよ〜」
「いいんだって。せめてもの気持ちだっ!」
むしろ払わせてくださいくらいの勢いだった。
「ブルーハワイでーす」
先に羽居ちゃんのかき氷が出てくる。
「ほんとにいいんですかー?」
「いいっていいって」
「ありがとうございます〜」
「こっちこそありがとう」
「はい?」
「何でもないさ」
オレはさっきまでの感触を生涯忘れまいっ!
「練乳」
ごとん。
恐ろしく無造作に置かれるオレの練乳。
「あいよ」
そんな態度にも怒ることなく代金を渡す紳士的なオレ。
今なら顔を殴られても許すことが出来る気がする。
「じゃああっちで食べましょうか〜」
「おう」
と指差されたのは向かい合う形のテーブル。
「……あれに?」
「はい」
「……」
まあ確かに他にはないんだけどさ。
「いいのかい?」
無駄だと思うが尋ねてみる。
「何がですか?」
「恋人同士だと思われるかもよ?」
この子の場合、これくらいストレートに聞かないと通じないだろう。
「乾さんとですか?」
「まあ、一応」
「んー」
首を傾ける羽居ちゃん。
暫くして。
「そのほうがいいんじゃないですかね〜?」
なんて事を言った。
「え」
なんですかおい、オレの紳士的態度に惚れさせちゃったのか?
いやあ、もてる男は辛いねえ。
「ほら、蒼香ちゃんが言ってたじゃないですか〜」
「ん?」
「アンタは危なっかしいから変な男についてくんじゃないよって」
「そりゃな……」
ほとんど面識のないオレでもこの子は心配になってしまう。
「だから乾さんが一緒にいてくれれば、安心ですよ〜」
「うぐっ!」
なんて純粋な瞳!
「あああああ」
こんなに信頼してくれてるのに、オレは胸が当たってイヤッホーイとか考えてただなんて!
ああ自分のちっぽけさがイヤになる。
「どうかしました〜?」
「……安心してくれ」
オレは決めた。
「このウォーターワールドにいる間はオレが君を守る!」
決してやましい気持ちではなく、この子の純粋な気持ちに応えるために!
「はい。ありがとうございます〜」
にこっと笑う羽居ちゃん。
「ははは……」
この子相手なら言えるが、他の誰かが相手だったらとても言えたセリフじゃないよな。
「ところで早く食べないと溶けちゃいますよ〜?」
「おっと」
そういえばまだかき氷に手を付けてなかったな。
「練乳も結構美味いんだぜ」
人によって好みが結構別れるけど。
「そうなんですか〜」
「食べる?」
かき氷をそのまま差し出すオレ。
「はい〜」
笑顔のまま練乳かき氷をすくって口へ運ぶ羽居ちゃん。
「ほんとだ〜。美味しいですね〜」
「だろ?」
「はい〜」
二口、三口。
「気に入った?」
「はい〜。……んっ」
その笑顔が一瞬苦悶に変わった。
「キ、キーンって……」
そして頭を抑えている。
「あー」
かき氷を食べてるとよくある状態だ。
「おでこさすってください〜」
「え」
いや、そんな事したって治るモンじゃ……」
「キンキンします〜」
「……」
なでなで。
「う〜……」
「ど、どう?」
なでなで。
「……ちょっと収まって来ました〜」
「そ、そうか」
いかん、おでこを撫でているだけなのにドキドキしてるぞ。
これが鯉?
いや恋ってわけじゃないな。
「……」
やはりこう、おでこを撫でるために近づくとどうしてもその胸元に視線が。
ばいーん。
「ううううう」
ああ、やっぱりオレはケダモノなのかっ!
胸にしか興味がないのかっ!
しょうがないじゃないか、男の子だもんっ!
「あ、あの〜。大丈夫ですか〜」
「あ、いや」
どうやら怪しい悶え方をしていたようだ。
「オレもキーンってきただけだから」
大してかき氷も食べてないのにそう言って誤魔化してみる。
「そうですか〜。じゃあ〜」
「う」
羽居ちゃんの手が伸びてきた。
ま、まさかっ?
「んしょ……と」
羽居ちゃんの身長ではオレのデコに手を伸ばすには、どうしても体をあげなくてはならない。
そうなるともう、オレの目線には胸しかないわけで。
「ぼ、煩悩退散煩悩退散」
「えっと……」
なでなで。
「どうですかー?」
胸が揺れる胸が揺れる揺れる揺れる。
「あは、あはははははは」
胸が胸が胸が。
「なんだか頭が熱くなってますけど〜。大丈夫ですか〜?」
たぷんたぷんと、波を打って大きなバストが弾む弾むはずむはずむハズ。
「……ム」
はい、無理。
「ちょ、ちょっとトイレに行ってくるよ」
羽居ちゃんの手をどけて立ち上がる。
「あ、はい〜」
オレはよく頑張った。
自分で自分を褒めたいくらいだ。
「……」
羽居ちゃんの視界に入らない位置に移動したオレ。
さらに付近のみなさんの迷惑にならないよう水中へ。
はい、準備はいいですね?
3,2,1.
「うごがげがげぐごおぱーい! おぱあああああああい! むねがぼよがごむにおぱあああああああい! おっぱああああああい!」
オレは呼吸の続く限り絶叫を続けるのであった。