羽居ちゃんの視界に入らない位置に移動したオレ。

さらに付近のみなさんの迷惑にならないよう水中へ。

はい、準備はいいですね?

3,2,1.
 

「うごがげがげぐごおぱーい! おぱあああああああい! むねがぼよがごむにおぱあああああああい! おっぱああああああい!」
 

オレは呼吸の続く限り絶叫を続けるのであった。
 
 




『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その116





「……ぜーはーぜーはー」

プールから抜け出すオレ。

あー死ぬかと思った。

「しかし……」

おかげで煩悩も完全に消え去った。

もう羽居ちゃんの胸を見たって何とも思わないぜ!

多分。

「急がないとな」

ほんの僅かの間ではあるが一人にしてしまった。

多分羽居ちゃんは……
 
 
 
 

「どう? 俺とこれから」
「ごめんなさい〜。人を待ってますのでー」
「案の定」

ナンパな男に声をかけられていた。

「羽居ちゃーん」

とりあえず近づいていく俺。

「あ。乾さん」
「悪いっスね。連れなんスよ。彼女」

羽居ちゃんの手を握る。

「チッ」

男は舌打ちをして去っていった。

「ふっ」

ウィナーイズ有彦。

「ありがとうございます〜」
「いや、油断も隙もないね」

というかこの子が隙だらけなだけなんだけど。

「さっさとかき氷食べて戻ろう」

集団の中に混ざっていたほうが安心できそうだ。

「はい〜」
「ははは……」

この子とつき合うヤツは色々大変だろうなあ。

「いや……」

一番苦労してそうな子がいたっけ。

「どうかしました?」
「あ、いやさ」

かき氷を口に運ぶ。

「蒼香ちゃんってすげえなあと思って」
「強いんですよ、蒼香ちゃん」
「……そうなのか」

そういう意味で言ったんじゃないけど。

「キックが凄いんですよ〜。気付いたら相手がやられてるみたいな感じで〜」
「は、ははは」

迂闊にナンパしなくてよかったなあ、オレ。

先に蒼香ちゃんに会ったのが幸運だったのだろう。

「仲いいんだね」
「はい〜」

本当に嬉しそうに笑う羽居ちゃん。

かき氷を食べつつ雑談を続けるオレたち。

「おーい」
「お」
「あ。蒼香ちゃーん」

向こうのほうからこっちに向かってきてくれた。

「あのプール楽しそうだったな」
「うん。もぐるのって面白いよ」
「無呼吸運動の訓練に最適ですね。持久力も尽きます」
「ははは」

オレも後で入ってみるかな。

「そっちはどうだった?」

蒼香ちゃんが尋ねてくる。

「かき氷美味しいよ〜」
「……あー、そりゃよかったね」

こっちに視線を向けてきたので特に何もなかった事をアピールする。

オレとしては色々あったのだが、羽居ちゃんからすればそれで正しいだろう。

「わたしたちも何か食べたいねー」
「あっちで売ってるぞ」
「興味深いですね。見に行きましょう」

弓塚とシオンさんがかき氷屋に向かっていく。

遠めだがかき氷屋のアンちゃんが鼻を伸ばしてるのが見えた。

「蒼香ちゃんはいかないの〜?」
「あたしはいいよ」
「じゃあわたしのあげる〜」
「だからいいっってのに」
「遠慮しないで〜」
「……はいはい」

仕方無しと言った感じで口を開ける蒼香ちゃん。

「はーい」

ぱくり。

羽居ちゃんが蒼香ちゃんに食べさせてあげる形となる。

「慣れてるんだな……」
「抵抗するのもアホらしくなるくらいにね」
「あはは……」

対抗するわけじゃないが、オレもななこに食べさせてやるか。

「おーい」
「……」

ななこは明後日の方向を向いていた。

なんだ、拗ねてやがるのか?

「おーい」
「何ですか」
「うおっ」

ななこはそれはもう凄い顔をしていた。

「お、怒ってるのか?」
「何の話です」
「……」

そうしてまた後ろを向いてしまう。

「えーと」
「有彦さんに構ってる場合じゃないんです」
「あん?」
「……」
「まさか」

何か危ないモンがいるとか?

「……マスターがどこかに」
「ああ……なんだ」

そっちか。

「なんだとはなんですかっ! わたしにとっては死活問題なんですよっ!」
「わ、悪かったって」

この慌てぶり。

オレが他の誰かといちゃついてても気にしないあたり、余程そのマスターとやらが怖いのだろう。

「そりゃ大変だな……」

この調子だと遠野やら秋葉ちゃんやらもいたりして。

「一体何しに来たんでしょうか……まさかわたしを捕まえるために……」
「知るか」
「……ううう」
「オマエに用事があったのなら強制的にでも呼ぶだろ。気にすんな」
「そ、そうですかね?」
「そうだろ」

頭をぐしぐしと撫でてやる。

「有彦さん……」
「なんだ」
「わたしもかき氷食べたいです」
「そうか」

半分溶けかかっているそれを差し出してやる。

「いいんですか?」
「食いきれねえんだよ」
「ありがとうございますー」

にへらと笑うななこ。

「それでいいんだよ」

やっぱりこいつは笑ってるほうがしっくりくる。

あんな苦虫を噛み潰したような顔してたら不幸のほうからやってきちまうぞと。

「……これは弓塚に捧げたいな」
「はい?」
「いや何でもない」
「うわっ! キーンときましたっ……」
「精霊がキーンとするもんなのか?」
「するもんなんですよー」
「……そうか」

コイツって色々と適当だよなぁ。

「戻りました」
「じゃーん。イチゴミルクー」
「お」

弓塚とシオンさんが戻ってくる。

「みんなはここで食べててくれよ」

その間にさっきの深いプールに入ってこよう。

さっきはギャラリーで沸いてたが、その原因がこぞって抜けたから空いているに違いない。

「気を付けてね」
「変な人についていっては駄目ですよ」
「何の話だよ……」
「冗談です」

くすくすと笑うシオンさん。

「あ。有彦さん。わたしもーんっ!」

ななこがまた頭を抑えていた。

「大人しくしてろ」

頭を小突く。

「みんなの影に隠れてれば見つからないかもしれないだろ?」

と言っても気休めにしかならないだろうが。

「有彦さん、頭いいですね!」

こいつはバカだった。

「……まあ、大人しくしてろ」

ここで女の子たちと楽しく会話というのもそそられるが、やはり泳いでこそのプールだろう。

「だよねー。わたしは……」
「そうなんですか〜」

というか、この女子高チックな空気に押されたというのもある。

「さてと」

行きますか。
 
 
 
 
 
 

「えーとプールプール」

さっきのプールを目指して走る俺。

プール際は走ると危ないので早歩きと言ったほうが正しいだろうか。

「ん」

そんなわけで歩いていると、脇のベンチに一人の女性が座っているのが見えた。

「……姉貴?」

いや、違うな。

雰囲気は似てるけど違う。

「やっほー?」
「?」

その女性が手招きをしている。

「え……」

周囲にはオレ以外誰もいない。

「暇かしら?」

これってもしかして。

「ぎゃ、逆ナンパだとっ……!」
 

この乾有彦がモテモテになる日が来たというのか!
 



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