「……バカな、このわたしに当てるとは」
「ふ」

あたるはずがないとタカをくくっていたシオンさんの顔面にヒット。

「カモーン!」
「っ! 上等です有彦っ! わたしに勝負を挑んだ事を後悔なさい!」
「わたしだってやられてばっかりじゃないですよー!」
「え、わ、えと、わたしも混ぜてよー!」
 

というわけでいい年こいた連中4人の壮絶な水かけっこが始まるのであった。
 

ギャラリーのだらしなく、かつ嫉妬に満ちた視線が集まった事は言うまでもない。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その119





「おーい」
「ん」

そんなこんなであっという間に時間が過ぎて。

「そろそろ帰るぞ」

よい子はおうちに帰る時間となりましたと。

「えー、もうですか?」
「暗くなるだろ」

あと何より電車が混む。

「誰が晩飯作ると思ってんだよ」

多分間違いなくオレだぞ。

「そーさな、あたしらもそろそろ帰るか」
「そうだねー。お腹空いちゃった〜」

この二人ともここでお別れか。

実に名残惜しい。

「では住所と電話番号をここに……」
「あ、はいー」
「はいはい書かない書かない」

蒼香ちゃんに止められてしまった。

「残念だけど女学院生なんでね、男は入れないよ」
「あー」
「ああ?」
「いや、なるほどそれっぽいなと思って」

蒼香ちゃんのボーイッシュなところとか、羽居ちゃんのド天然ぶりとか。

「ま、機会がありゃまた会えるさ」
「オレはもう毎日でも会いたいね」
「よく言うよ」

ちなみにオレがこうやって二人と平然と話しているのは何故かというと。

「みなさん遅いですね〜」

他のみんなが着替え中だったりみやげを買っている最中だったりするからである。

「あーりーひーこーさーん」

ななこはやかましいが毎度の事なのでスルーだ。

「とりあえずあたしから言える事は、身辺に気を付けろってことかな」
「何でだ?」
「幸運の後には不幸が来るもんだからね」
「なるほど」

そりゃもうとんでもない不幸が訪れそうだ。

「だが安心しろ、ウチには弓塚がいる」
「人任せじゃいかんだろ。自分でなんとかしなきゃ」
「い、いやそういう意味じゃないんだけどな」

弓塚の不幸ネタはさすがに通じないか。

むしろ通じたら怖い。

「なんとかするったって気持ちの持ちようだろ?」
「それが一番重要なんだよ……と。羽居」
「な〜に〜」

ひょいひょいと近づいてくる羽居ちゃん。

「確かお守り持ってたよな?」
「あるよ〜?」

そう言ってごそごそと小さな袋を探る。

「じゃ〜ん」

『安産』

「そんなもん持ってたってしょうがないだろうが……」

いや、深読みするとワクワクするぞ?

「他にもあるよ〜?」

交通安全、家内安全、合格祈願……

「……よくもまぁ」

蒼香ちゃんはあきれ返っていた。

「頑張ったんだよ〜」

しかし羽居ちゃんにとっては褒め言葉らしい。

「……しゃーない」

蒼香ちゃんは自分の胸元に手を入れると、そこからひとつのお守りを取り出した。

「これで我慢してくれ」
「我慢も何も……」

今の今まで蒼香ちゃんの胸の中に入っていたそれにご利益がないわけないじゃないか!

「ありがたく頂戴させて頂きます!」

こりゃもう家宝にしよう。そうしよう。

「じゃあわたしも〜」

くれたのは『家内安全』だった。

「あ、ありがとう」

まあこれも何かの役には立つかな。

「どういたしまして〜」
「いやいや」

オレは貰ったお守りをポケットに押し込んだ。

「おーい」
「お」

そこへタイミングよくみんなが現われる。

「おみやげたくさん買っちゃった」
「……こんなとこで何を買うんだよ」

弓塚がイルカのキーホルダーを見せてくる。

「うわぁー。よかったなぁー」
「乾くん、何かバカにしてるぅ」
「いやいや」

そういえばそのイルカはこのプールのマスコットキャラだった気がしなくもない。

このプールにきてから一度も見た覚えがないけど。

「あそこにいるよー」

いや、屋根なんかにいたって意味ないと思うのですよお嬢さん。

「……そういや珍しくおまえさんが欲しがらなかったな」

イルカのキーホルダーを見た蒼香ちゃんがそんな事を言った。

おまえさんというのはもちろん羽居ちゃんなんだろうが。

「えへへ〜」

さっきの袋を探ると、弓塚が持っているのとまったく同じキーホルダーが出てきた。

「同じモノを買わなかっただけ褒めてやるかねぇ」
「ありがとう〜」
「ははは……」

この二人は実にいいコンビだと思う。

「じゃ、まあこのへんで。今日は楽しかったよ」

そう言ってはにかむ蒼香ちゃん。

「おう。元気でな!」

短い間だったが、オレは二人の強烈なキャラクターを忘れないだろう。

「また会いましょうね〜!」
「もちろんだ!」

オレは彼女たちの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

「さってと、オレらも帰ろうぜ!」

そう言って振り返ると。

「晩御飯はどっかファミレスででも済ませるか」
「良案です。昨日入っていたチラシによると新商品が……」
「あ、それ美味しそう。食べたいなぁ」
「ドリンクバーを頼んでもいいんですかー?」

ものの見事に置いてきぼりにされていた。

「ちょ、こら、主役を置いていくんじゃねえ!」
「誰が主役だよ。おまえなんざ脇役でも勿体無いね」
「ひでえ」

オレはいい演技するぞ? きっと。

「ファミレスに行くってのは賛成だ」

オレが飯を作らなくていいってことだからな。

「有彦はライスのみでいいそうです」
「コラ」
「あ、でもにんにく入ってるかどうか聞かなきゃ駄目だねー」
「そうですね。その辺りは念入りに調べさせて頂きます」
「……何かものすごい矛盾を感じます」

ななこは弓塚たちの会話を聞いて首を傾げていた。

「きっとにんにくだけは何があっても駄目なんだろう」
「難儀ですねえ」
「うーむ」

吸血鬼のすごい親玉みたいのだったら攻略出来るんだろうか。

それでも駄目だったら笑うぞオレは。

「ま、どこに行くかは電車の中で考えよう」

姉貴はそう言って笑っていた。

「……どうだか」

きっと、最寄の適当なファミレスに決まるに違いない。

何故なら散々泳ぎまくったオレはもう眠くてたまらなかった。

結果、どうなるかというと。
 

「……ん……すぅ……」
「……くぅ……」
「ぁふぅ……」
「……」

右は弓塚、左はななこ。

正面ではシオンさんの絶対領域が危なく揺れて。

「……寝れるわけがない」

眠いのに眠れない。

それは普段なら拷問に近い状態なのに。

「もう食べられないですよぉー」

ぐにゅー。

「だ、駄目だよシオンそんなとこぉ……」

むにゅー。

「……」
 

今のオレは夢よりも夢心地の空間を堪能するのであった。
 



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