「わかったよ。乾くんタマにガンコだもんね。言い出したら絶対やるんだもん」
「そんなオレのお陰で、一緒に学食で飯を食えたし、班が一緒になれたことを忘れて貰っちゃ困るな」
「……それを言われるとちょっと弱いかも」
「つーわけで弓塚の赤裸々な過去を暴露だっ」
「そう言う言い方止めてってばあっ」
「はっはっは」

あんまりからかいすぎるとまたシオンさんに怒鳴られてしまうのでこの辺にしておこう。
 

「んじゃまあ……ええといつの話だったかな。まあどうでもいいか。まず最初に弓塚の一言から始まったんだが……」
 
 



『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その12



「ねえ遠野くん。今週の日曜日なんだけど……ヒマ?」

オレと遠野が下らない話で盛り上がってるところに、弓塚がそんな事を言ってきた。

「……ええと」

遠野のアホは弓塚を見て誰だったっけという表情をしている。

要するに、それくらい弓塚と面識の無かった頃の話だ。

オレはその一言だけで弓塚が遠野に気を持っている事がわかったんだけど。

「弓塚だ弓塚」
「そ、そうそう。弓塚さん。で、えーと日曜日だっけ?」
「う、うん。日曜日なんだけど。ヒマかな」

つまりこのパターンは、映画のチケットが余ってるからよかったら一緒に行かない? とかいうアレだ。

もちろんここはヒマだというところであるのだが。

「ごめん。日曜日は有彦とゲーセンに行く予定なんだけど」
「アホ」

オレは遠野の頭を小突いた。

「いたっ、何するんだよ」
「ゲーセンなんてどうでもいいだろ。そっちを優先してやれ」
「……でも先に約束したのはお前だしなあ」
「あーもう……」

遠野のやつは変なところで律儀なのである。

「そ、そうなんだ。ご、ごめんね。うん、なんでもない、なんでもないから……」

弓塚は背中に哀愁を漂わせて去っていった。

「……あーあ。かわいそうに」
「え? な、何か俺悪い事したか?」
「知るかアホ」

しかもその日曜日にゲーセンに行った帰り、一人で映画を見に行ったらしい弓塚を発見しちまったし。

向こうもオレたちに気付いたらしく、慌てた様子で逃げていき電柱に頭をぶつけていた。

「ん? どうした有彦」
「いや別に」

そしてお約束どおりコイツは弓塚の存在に全く気付かなかった。
 
 
 

こんなもんはほんの序の口なのである。

弓塚が学食に行こうと誘ってくれば遠野は弁当だし、一緒に帰ろうと誘えば委員会の仕事があるしで。

タイミングの悪さのせいもあり、いくら弓塚がアピールしても遠野のアホはまるで気付きやしない。

「なんか最近弓塚さんとよく会う気がするなあ」
「さいですか……」

せいぜいそんな事を言っていたくらいである。

「……なあ」
「あ……えと」

あんまりにも気の毒なので、何回目かの失敗をした弓塚を追いかけて行って声をかけた。

「乾だ。乾有彦。遠野と一緒にいるから顔くらい知ってるだろ」
「う、うん。知ってるけど」

妙に警戒した様子の弓塚。

「別になんもしねえっつーの。ただ話をしたいだけだ」
「話?」
「ああ。単刀直入に聞こう」

まだるっこしいのは苦手だ。

オレはストレートに聞いてしまうことにした。

「オマエ遠野に惚れてるだろう」
「え、えええええっ!」

顔を真っ赤にして声をあげる弓塚。

「だ、だあ、静かにしろ静かにっ」

周囲のやつらが何事かとオレたちに視線を向けてきた。

「な、なんでもねえっすよ? アハ、アハハハ」

適当に誤魔化してその場をしのぐ。

「……どうしてそれをっ?」

周囲の視線がなくなったところで弓塚が尋ねてきた。

「いや、どうしてったって見てりゃわかるだろ普通」
「遠野くんは全然気付いてくれないんだけどなぁ」

大きくため息をつく。

「あれはものすごく特殊な部類なんでね」

オレがアイツとダチになったきっかけだって特殊だったし。

「うん。それは知ってるつもり」
「あんなやつのどこがいいんだかなぁ」
「えと……優しいところとか」
「はぁ」

駄目だこりゃ。

恋は盲目とか言うんだっけか?

「まあいい。とにかくそれを聞きたかったんだ」
「その……そんな事聞いてどうするの?」
「いや、おまえがあんまりにも不憫だからちょっと手助けしてやろうかと思って」

そう言うと弓塚は呆気に取られたような顔をしていた。

「なんだよ」
「え、えと、ちょっと意外で」
「うるせえな」

確かにオレ自身も柄じゃないとは思っている。

けれど、あの遠野が恋愛だなんて、考えただけで面白そうじゃねえか。

「オレとしてはもうちょっとアイツに世界というものを知ってもらいたいんでな」

多少マシになったけれど、昔のアイツはそれこそ世の中に興味ありませんよみたいな顔してたヤロウなのである。

「……よくわからないけど、乾くんって案外いい人なんだね」
「一言余計だ」
「ご、ごめん。でもちょっととっつきにくい人なのかなって思ってた」
「まあ見た目がこんなんだからなぁ」

どこからどう見ても不良ですよみたいな格好である。

「遠野みたいな一見優等生とオレのコンビってのは、他の連中からするとかなり奇妙なんだろうな」
「うん、最初二人一緒にいるところ見てすごいびっくりした」
「……はっはっは」

さすがに苦笑せざるを得ない。

「で、だ。どうする? 弓塚さえよければ適当になんか状況を作り出してやるが」
「ほ、ほんとにいいのっ?」
「ああ」
「……あ、だ、駄目だよっ? 代わりに胸触らせろとかキスしろとかっ?」
「するかアホっ!」

まあ弓塚は割と可愛い部類だからそういうのもいいなあとは思うけど。

「遠野に惚れてなけりゃなあ。……実に惜しい」

他の人間に惚れてる奴相手にそんな事してもしょうもないし。

「ご、ごめん」
「謝られてもな。別に見返りなんぞいらん。面白かったらそれでいいんだから」
「お、面白かったら?」
「あーいやなんでもない」

いかんつい本音が出てしまった。

「つーわけでさっそく明日実行するぞ。いいな」
「あ、え、う、うん」

そしてついに遠野弓塚イチャイチャ作戦が展開されるのである。
 
 
 
 

「つーわけで第一部完。続く」
「えーっ! ここで続いちゃうんですかっ?」

非難の声をあげるななこ。

「なんだよ最初は興味なさげだったくせに」
「……だ、だって聞いたら結構面白くて」
「や、やだもぅ。恥ずかしいよぅ」

まだ始まりの部分だというのに身悶えしている弓塚。

「……つーか」

女性はいつでも色恋沙汰というものに興味があるもんらしい。

例え死んで精霊やら吸血鬼やらになっていたとしても。

ななこや弓塚はもちろんなんだけど。

「このまま話してると仕事が進まなさそうなんスよね、シオンさん」
「はっ!」
 

いつの間にやらシオンさんが俺たちの輪の中に混ざっていたのであった。
 

続く



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