「……つーか」

女性はいつでも色恋沙汰というものに興味があるもんらしい。

例え死んで精霊やら吸血鬼やらになっていたとしても。

ななこや弓塚はもちろんなんだけど。

「このまま話してると仕事が進まなさそうなんスよね、シオンさん」
「はっ!」
 

いつの間にやらシオンさんが俺たちの輪の中に混ざっていたのであった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その13



「ほんとだ。シオンいつからいたの?」

弓塚が驚いた顔をしている。

「仕事がひと段落したので来ただけです」

えへんごほんと咳払いをするシオンさん。

どうも胡散臭い。

「え? もう終わったんスか?」
「い、いえ。あくまでひと段落です。まだ多少残ってはいますが」
「はぁ」
「少し疲れたので休もうと思いまして」
「……つまりシオンさんも話を聞きたいと」

面倒なのでさっさと核心を突いてしまうことにした。

「……はい」

照れくさそうに頷くシオンさん。

「まあ朝までに仕事終わればいいんで構いませんよ」
「す、すいません」

シオンさんがちょこんと弓塚の隣に座る。

「いや、オレらこそシオンさんにばっか働かせてすいません」
「……有彦さん、続きはどうなったんですか?」
「一番何もしてないオマエが催促するんじゃない」

ななこの頭を小突く。

「そ、そんな事言ったら有彦さんだってそうじゃないですかっ」
「オレは昔話をしてみんなを和ませているだろう。弓塚はその話の中心だし」
「う、うー……」

ななこは反論したいようだがうまい言葉が見つからないようだった。

「……続きを話していただけませんか、有彦」
「あ、はい」

えーとどこまで話したんだっけ。

「そう、遠野弓塚イチャイチャ作戦だったな……」
 
 
 
 
 

「遠野、学食に行くぞ」

昼休み、オレは遠野の奴を学食へと誘った。

「ん。そうだな。今日はパンにでもするか」

そう言って立ち上がる遠野。

「いや、今日はうどんにしろ。ソバでもいいがとにかくメン類だ」
「……なんでおまえに食べる物を指定されなきゃいけないんだ?」

遠野は首を傾げていた。

パンなんぞ買われてしまったらせっかくの計画が台無しになってしまう。

「今日は学食内で食いたい気分なんだよ。付き合えっ」

オレは強気に攻めてみた。

「まあ別に構わないけどさ」
「おし」

こいつは主体性がとことんないので、押せば割とすぐに崩れる。

その理論で行くと、コイツに好きですと告白すれば、その瞬間に恋人確定なんじゃないかなあと思うんだが。

あまりに単純すぎて誰も試してないのかもしれない。

「しかし不思議だよなあ」

こいつがもててオレがもてないだなんて世の中どうかしてる。

「ん? 何が?」
「なんでもねえよ」

そんな奴にお節介を焼いているオレも、かなりどうかしてるなと思ってしまった。
 
 
 
 

「さてと、どうするかな」

さて学食である。

学食では役割分担が基本だ。

メシを上手く入手できても座る場所が無ければ困ってしまう。

かといってただ椅子に座っていたってメシは手に入らないわけで。

「俺は席を確保しといてやるからお前はメシを持ってこい」
「了解」

今日はイチャイチャ計画の為に遠野を突撃役に任命した。

「なんでもいいな?」
「メン類がいいな」
「わかった」

遠野が人ごみの中へと消えていく。

「さてと」

次は弓塚だ。

「乾くん、乾くんっ」
「お。来たな」

俺の確保している席に弓塚が駆け寄ってくる。

「計画はわかってるな?」
「う、うん。遠野くんが来た所で、さりげなくわたしが現れるんでしょ? 『わ、遠野くん。偶然だね』って」
「そうだ。あくまでさりげなくだぞ。そして『ここ座ってもいいかな』と聞くんだ」
「……学食はこの時間だったら混んでるからわたしが隣に座っても不自然じゃないよね」
「そうだ。隣に座ったらあとはアピールタイム。日常会話を交えつつ自分を印象付けるんだ」

失敗とはいえ、弓塚は散々遠野にアピールしてきたから面識はある。

あとは良い印象さえ与える事が出来れば。

「そうすればあるいは……」

案外コロリといくかもしれない。

「わ、わたし頑張るっ」

小さくガッツポーズを取る弓塚。

「その意気だ。じゃあそろそろ帰ってくるからちょっと隠れてな」
「うん」

そうしてすぐに遠野が戻ってきた。

「割とすぐ買えたよ。なんかうまく波に乗る事が出来た」
「そりゃよかったな」

こいつは学食のおばちゃんにも好かれてるので、割と優先して注文を聞いてくれるのである。

「こっちがおまえのだ」

俺に差し出されたのは天ぷらうどん。

「そして俺はこれと」

遠野はきつねそばだった。

「きつねはうどんだろ普通?」
「好みの問題だろそれは」

などと雑談を交えつつ、弓塚に視線でゴーサインを出す。

こくり。

少し離れたところにいる弓塚が頷いた。

こちらへ向かって歩いてくる。

ところが。

「あのー。ここ空いてますか?」
「え」

見知らぬ男子生徒が遠野にそんな事を聞いてしまった。

「空いて……」
「いや、ちょっとそこには知り合いが来るんだ、悪いなっ!」
「ん、そうですか。スイマセン」

幸いそいつは話のわかるやつだったらしく、あっさり去ってくれた。

だが遠野の奴はそうはいかない。

「有彦。知り合いなんてもう来ないだろ」
「い、いや、それはだな……」

言い訳をしようとしたまさにその時。

「あ、あれ? と、遠野くん。す、すごいぐうぜんだね」
「……」

最悪のタイミングで弓塚が来てしまった。

多分緊張のあまり今の男子生徒のやり取りとかを見ていなかったんだろう。

「ああ。弓塚か。どうしたんだ?」
「う、うん。ちょっと座る席が無くて。そこ、空いてるかな」

こういう時ばっかり失敗せずに、自然な流れで尋ねる弓塚。

当然遠野のやつは。

「あ、ごめん。ちょっとそこは有彦の知り合いが来るらしくて」
「あー! いい! いいんだ! 今のは気のせいだった! 悪い!」

慌てて叫ぶオレ。

「……?」

遠野のやつは不思議そうな顔をしているけど、もうどうしようもない。

「と、とにかく座っていいぞ弓塚」
「う、うん。じゃあ失礼するね」
「まあ……有彦が構わないんならいいけどさ」
「いいんだよそれで」

なんとか弓塚を遠野の隣に座らせる事が出来た。

後はもう弓塚の頑張りに期待するだけだ。

「え、えーと」

例えば同じ趣味の会話とか同じ料理が好きだとかそういうの。

幸運にも弓塚の食事はきつねうどんで遠野とトッピングが同じだ。

まさかそれだけで盛り上がれるわけはないが、話のきっかけにはなるだろう。

「と、遠野くんはきつねそばなんだね」
「ん? ああ、うん」

わたしもきつねなんだ、きつねって美味しいね、とか。

「普通ってきつねはうどんじゃないかな?」
「それ、有彦にも同じ事言われたよ」

苦笑している遠野。

「……駄目かもしれない」
 

遠野弓塚イチャイチャ作戦、早くも暗礁に乗りあがってしまうのであった。
 

続く



あとがき(?)

そもそも関東と関西では「きつね」の意味合いすら違ってくるわけですが。
この場合のきつねは油揚げの乗ってる奴ですな。

関西では絶対あり得ないし、
関東でも「きつねそば」はレアだと思います、多分、もしかして(弱



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