オレのやるべき事はひとつだ。

その事件の主に余計なおせっかいをしてくれてアリガトウゴザイマスと礼を言ってやる事。

多分とか恐らくばっかりで不安材料ばっかりだが。

信頼を落としてしまっただけあって、一つは確実な答えが出たようだった。

「……出かけたか」

深夜0時を過ぎて数時間後。
 

弓塚とシオンさんは、夜の闇の中へ消えていった。
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その125





「さって……」

俺は弓塚の背中がぎりぎり見える位置にいた。

あまり近づきすぎて気付かれたらせっかくの演技が台無しである。

「……」

気付かれないように慎重に後をつける。

もしここでおまわりさんに背中を叩かれたらオレの人生はジ・エンドだろうな。

「……っと」

バカな事を考えている間に二人は角を曲がってしまった。

「あっちは……」

商店街のほうか。

「目的は商店街にあり……と考えるべきか」

もしくは商店街の方向にある何かだ。

「……そういや路地裏で死体発見とか物騒な事件もあったな」

なんて、少し昔の事を思い出してしまった。

「よし」

ここはいっちょ短縮ルートを通って先回りしよう。

オレは二人とは違う道へと入った。

公園を突っ切ってそこから裏通りを通れば……

『工事中』

「……マジかよ」

こんなときについてない。

「迂回するしかねえか……」

えーと迂回して商店街にたどり着くには……
 
 
 
 

「……迷った」

地元で迷うなんてバカじゃねえかと思われるかもしれない。

だがしかし、夜だとアレだ。わかるだろ?

なんか昼と雰囲気違うんだよ、色々とさ。

「普通の道通ったほうが早かったな……」

今更、後の祭りである。

「……静かだ」

人通りのない道に来てしまったというのもあるが、車ひとつ通りやしない。

おまけに明かりも少ないときたもんだ。

オバケが出るにはいい環境である。

「バカバカしい」

そんなもんいるわけないだろう。

そういうのは物語の中だけで……

「……」

なんか、今。

遥か向こうのほうを走る透明の女の子の姿が……

「はっはっは」

アレだ。うん、きっとななこの親戚か何かだろう。

「な、ななこが出張してたのはあれのせいか」

多分そうだ。そういう事にしておこう。

「……精霊がらみの事件?」

オレにえろえろな状況ばかり起こす妖精が巻き起こした事件。

緊迫感がないにも程がある。

「追ってみるか……」

オレはその透明の女の子の走っていったほうに進む事にした。

べ、別に怖くなんかないんだからねっ!

「オレ気色悪ぃ……」

主人公が女の子だったらよかったのになあ。
 
 
 
 
 

「あれ?」

道なりに進んできたはずなのに、たどり着いたのは行き止まりだった。

おかしいな、他に行きようがないはずなんだが。

「あーでもアイツら壁抜け出来るしな」

まったく便利なやつである、精霊ってのは。

重要なのは精霊という事であって、精霊ならまあ怖くないけどオバケなんか無いさ、オバケなんて嘘さ。

「……はぁ」

それとも単にビニール袋とかが飛んでるのを見間違えただけなんだろうか。

幽霊の 正体見たり ネコヤナギという俳句? がある。

怖がっているとただのネコヤナギでも幽霊に見えてしまうぞという意味だ。

まあオレは別にオバケなんぞ怖くないけど、何か起きるかもという心理があったせいでそう見えたのかも。

そういう事にしておこう。

「ねえ」
「うわあ! オレが悪かった! 成仏してくれ!」
「……何やってるの?」
「あ?」

恐る恐る声のした方向を見る。

「……弓塚」

そこには弓塚が立っていた。

「なんだ、お前かよ……」

怖がって損した。

よりにもよって弓塚なんかに。

「お前かよって酷いなぁ。探しに来たのに」
「オレを?」
「そう。夜に一人で歩くなんて危ないよ?」

くすくすと笑う弓塚。

なんだかさっきのマヌケな反応を笑われているようで悔しい。

「それはお前だってそうだろ」
「わたしは違うよ。夜のほうが活動しやすいから」
「……あー、そうだったな」

確かにこいつとシオンさんは夜のほうが動きやすいだろう。

むしろ吸血鬼がまっ昼間っから平然と歩いているほうがどうかしてるのか。

「シオンさんはどこに?」
「うーん。今はわからないなぁ。途中ではぐれちゃった」
「そうか」

弓塚らしいというかなんというか。

「ここは危ないよ。わたしが安全な場所まで連れていってあげるから、ついてきてよ」
「危ないって何がだ?」
「ほら、殺人鬼とか出てくるかも」
「……それは嫌過ぎる」

とりあえず従っておいたほうがよさそうである。

「じゃあ、こっちだよ」
「おう」

オレは弓塚の後ろをちんたら歩いていった。

「今日は月が綺麗だね」
「あ?」

言われて空を見る。

なるほど今日は満月だった。

「確かにそうだな」

まるで都会とは思えない程に星がきらめいている。

雲が少ないんだろうか。

「ちょっとワクワクしちゃう」
「そうだな」

自然に心が還るのかもしれない。

しばらく空を眺めながら歩く。

「こっち右ね」
「おう」

はて、こんなところに分かれ道なんかあったっけ。

「どうしたの?」
「ん? ああ」

来た時と別の道を歩いてるのかな。

空を見ていたせいで気付かなかった。

「うーむ」

星空がこれでもかってくらいに輝いて見えるのは、逆に電灯が少なくなっているからのようだ。

「ちゃんとついてこないとはぐれちゃうよ?」
「ああ」

弓塚の姿もうっすらと闇の中に見える程度になってしまった。

「……」

ふいに自分の足が止まる。

まるで自分の足じゃないような言い方だが、実際自分の意思で止まったような感じじゃなかった。

「どうしたの?」
「いや……」

この先に行ってはいけないような。

「こんなところでじっとしてると危ないよ?」

それは確かだ。

振り返るともう、自分が来た道すらわからない。

「……」

弓塚の後をついていくしかないのだ。

「本当にこっちは安全なんだろうな?」
「大丈夫。わたしがよく知ってる場所だから」
「……そうか」

不信感を抱きつつも、後をゆっくり追っていく。
 
 
 
 
 
 

「とうちゃーく」
「……」

ぼろっちい電灯がぱちぱちと赤みのかかった光を放っている。

周囲の壁はどす黒く、あまり見ていて気分のいいもんじゃなかった。

「安全とは思えないんだがな……」
「だって他に誰も来れないよ?」
「なんだって?」

来れないって表現はおかしいんじゃないか?

「ここにはわたしと乾君が二人きり」
「……ああ、そうだな」

嬉しそうに笑う弓塚。

ふと気付くとオレは汗をかいていた。

運動不足で、というわけではない。

何か嫌な気配を感じてのものだ。

「なあ、弓塚」

オレは尋ねた。

「赤ずきんちゃんって知ってるかな」
「知ってるけど、どうして?」
「いや」

それと同じような質問をしたくなったのだ。

普段のこいつは栗色の目だったはずなのだが。

「弓塚の目って……そんな赤かったか?」
 

目の前の彼女の瞳は、滴る血のように真っ赤に染まっていた。
 




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