「あたしは妖怪変化の類には優しいんだ」
「自慢げに言う事じゃないと思うが……」

まあ驚かれたり怖がられたりするよりかは遥かにマシか。

「それに、そういうのを惹きつけて来るのはオマエだろう?」
「う……」

それは否定できない事だった。

遠野のやつも、弓塚もななこもシオンさんもオレがきっかけで姉貴と知り合ったのだ。

「……厄払いしてこようかなぁ」
 

そんな事を思ってしまう俺であった。
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その16



「そりゃ困るな。仕事の人手がなくなる」

姉貴はオレの言葉を聞いてそんな事を言った。

「いや、そんな真面目に反応されてもな」

そこまで深く考えてたわけじゃないし。

「いいからさっさと二人を起こしてきな。今回のは数が多ければそれだけ収入になるんだからね」
「数……?」

一体全体どんな仕事なんだろうか。
 
 
 
 

「まずね、真ん中から半分に折って……」

ぺたん。

「次に両方の端っこを三角に折って……」

ぱたん。

「それで真ん中を開くの。それでナナメにして四角にしてね」
「こ、こうですか? さつき」
「そうじゃないよ。こっちにね」
「……はぁ」

オレはシオンさんに指導する弓塚の姿を眺めながらそれを作っていた。

「こんなもん作るの何年ぶりだろうな」
「そうだね。なんか懐かしいかも」

それは作り方さえ覚えれば、誰でも作れるものだ。

「日本の学生はこのようなものをよく作るのですか?」
「……よくかどうかはわからんが、まあ作る時もあるな」
「そうなのですか。手先の器用さの向上に役立ちそうですね」

変な感心の理解の仕方をしているシオンさん。

「それでね、両端を折って……裏側も同じ……と」

ぱたん。

「よく覚えてるなあ、弓塚」
「そりゃまあ女の子だもん」
「意味がわからん」

まあ確かに女の子の遊びって感じはするが。

「そしたら頂上を真ん中に合わせて折って……全部戻すの」
「戻すのですか?」
「うん。今のは紙に跡をつけるためのものだから」

つまりそれは折り紙である。

そして作っているものは折り紙の中でも最もメジャーなものであった。

「それで中を開いて、折り目に合わせてひし形に折るの」
「なるほど、次の手順の為に必要な準備だったのですね」
「そうそう。裏もおんなじようにやって……あとちょっとで完成っ」

結構作るのに面倒な手順を必要とするものだが、いくつも作った事のある人間もいるはずだ。

「そのひし形の両端を真ん中に折り合わせて、両方やったら下の細いのを上に折りあげて……」
「最後に頭を折って羽を開いたら」

ほぼ同時にオレの作っていたそれも出来上がった。

「はい。ツルの出来上がり〜」

そう、折り紙の基本中の基本、ツルである。

「……ただの四角い紙がこんなものに変化するとは。これが忍術というものなのでしょうか」

シオンさんは完成したそれを見てやたらと感心していた。

「いや、ただの折り紙だから」

日本人じゃないと、これが結構不思議に見えるんだろうなあ。

他にも手裏剣やら何やらたくさん作れる事を知ったらさらに驚くんだろうか。

まあそんな事はどうでもいいとして。

「とにかく最低でも千羽作らなきゃいけないんだから、もうちょいペースあげてくれないと困る」

そう、折り紙でツルと言えば千羽ヅルだ。

「えーと千羽でいくらの計算なんだっけ?」
「いや、正確には百羽いくらなんだが、千羽につきボーナスが出るらしい」
「そうなんだ。じゃあ頑張らないとね」

弓塚はえいえいおーと気合を入れていた。

「やり方は覚えました。以降はわたしも力になれると思います」

シオンさんもそんな心強い声をかけてくれる。

「頼りにしてますよ。ただし、手は抜かない事」

ツルは適当なものじゃなく、丁寧に作らないといけない。

いいかげんなものじゃ不良品として扱われてしまうからな。

「わかっていますよ有彦。わたしにそんなミスはあり得ません」
「……うん、折り目がちゃんと出来てないからいびつになってるな」
「こ、こここ、これは練習ですっ! 練習用の紙なのですっ」
「はいはい」

やっぱりちょっと厳しいか。

「……もうちょっと人手が欲しいところだなあ」

どうせ人件費なんて関係ない連中ばかりなんだし。

「しかしななこがいても意味はなかったのでは?」
「いや……別にななこだけを求めてるわけじゃないんだけど」

でもななこじゃいても意味なかっただろうなあ。

なんせ手があれだからな。

「どこ行っちゃったんだろうね、ななこちゃん」
「さぁ」

そんなもんオレが聞きたいくらいである。

「いないやつの事を考えてもしょうがないだろう。とにかくツルを折るんだ」
「はーい」

ぺたんぱたんとひたすらツルを折る作業に没頭する三人。
 
 
 
 

「……ねえ乾くん」
「あん?」

しばらく経った後に弓塚が話しかけてきた。

「何か面白い話ない?」
「サボるのは駄目だぞ」
「わ、わかってるよ。話を聞きながらでも手を動かすから」
「まあ気持ちはわからなくもない」

おんなじ作業をずっと続けるというのはしんどいものなのである。

「だらしないですねさつき。これくらいの作業で根をあげるなんて」
「……シオンさんは超人すぎです」

さっきツルの折り方を覚えたばかりだというのに、オレよりも作るペースが早かった。

「伊達に錬金術師をやっているわけではありません」

自慢げな顔で笑うシオンさん。

「でも錬金術はあんまり関係ないような……」
「そこ、野暮なツッコミを入れないで下さい」
「折り紙はわからなくてもツッコミはわかるんですかい」

思わず二重ツッコミをしてしまった。

「あ、有彦、手が止まってますよ」
「おっと悪い」

その反応に笑いながら手を動かすオレ。

「オレはむしろあれだな。シオンさんと弓塚が知り合った経由とかを知りたい」
「……私とさつきがですか?」
「あ。それならわたしは乾くんとななこさんの知り合った経由のほうが知りたいな〜」
「それはわたしも気になりますね。一般人の有彦と高位精霊のななこが知り合うなどまずあり得ませんから」
「いや……オレは偶然拾った鈍器がななこだったっていうだけの話なんだが」

なんだかんだでなつかれてしまい、今に至るというわけである。

「……面白くありませんね」
「つまんないね……もうちょっとロマンがあってもいいのに」
「そんなもんだろ」

吸血鬼になった弓塚との再開も偶然だったわけだし。

「そっちこそあれか? 何かロマンみたいなもんがあるのか?」
「え? えーと……」

露骨に目線を逸らせる弓塚。

「ロマン……はちょっと」

シオンさんも渋い顔をしていた。

「もしかして……アレか。ゴミ箱をあさっていたらたまたま遭遇したとかそういう類か」
「……」
「……」

沈黙がそれが事実という事を物語っていた。

「さ、さあ、ツルでも折ろうかっ? 楽しいぞおっ?」
「う、うん、そうだね。あは、あはは」
「そうですね……話など不要です」
 

なんだかギクシャクした空気の中、仕事は再開されるのであった。
 

続く



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