「姉貴に聞いてみよう。一応家主はアイツだからな」
「い、乾くん……」
「……正気ですか有彦。いくらわたしたちが魅力的だからといって、早計な判断をしてやいませんか」
「いや、シオンさんこそ動揺してませんか」

自分から魅力的とか言い出すなんて。

「それに、却下されたらそれまでですしね」
 

と言いつつ、オレは二人がどの部屋に住んでもらうかを考えているのであった。
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その21



「構わんよ」
「早っ!」
「不、不可解ですっ! あり得ませんっ」

姉貴の即答に弓塚とシオンさんのほうが驚いていた。

「ただし、この件に関してはおまえが責任を一切持つ事。いいね」
「へーい」

オレは頭を掻きながら頷いた。

「じゃ、そういう事で、この家でのルールを教えてやろう。こっち来な」
「は、は、はい……」
「う、うううう、うん」

姉貴の部屋を出て俺の部屋へと戻る。

「わたしの時もそうでしたよね、一子さん」
「テキトーなんだよあいつは」

姉貴に聞いても、帰ってくる返事はイエスだとわかっていたのだ。

「さて、乾家にはひとつの掟がある」

乾家の掟。

それがあるからこそ、姉貴は承諾をした。

「ど、どんなの? 難しい事?」
「いや、シンプルなもんだよ」

掟というほど堅苦しいものでもないし。

「乾家では何をするのも自由。ただし自分が責任を一切持つ事。以上だ」
「そ……それだけ?」
「ああ」

だからオレが学校サボって日帰り旅行に行こうが、誰かの家に泊まってこようが文句無し。

「なるほど。そのような掟があったからこその人徳なのかもしれませんね」

あっけにとられている弓塚と対照的にシオンさんは納得した様子であった。

「え? どうして?」
「どんな事をするにしても自己責任なわけです。そうでしょう有彦?」
「そういうわけなんだ」

自分の生活は自分で確保しろ。

堕落して駄目になっても助けてなんてやらねえぞと。

オレは一見堕落すれすれながらも実はマトモと、そんなところだろうか。

「じ、自己責任?」
「例えばだな、遊びすぎて飯の時間に遅れても、誰も作っちゃくれないわけだよ」

もっと言えば自分の食事は自分で作れということである。

誰も何もしてくれないとなると、どうしたってしっかりしなくちゃいけないわけで。

炊事洗濯その他諸々、家事全般は一通り出来るようになってしまっていた。

「有彦さんはわたしが自分の意思でにんじんを食べていると怒るんですよ? 理不尽ですよね」

やれやれとため息をついているななこ。

「ふざけんな。そのにんじんは誰が買ってきてやってたと思ってるんだ?」
「……あぅ」

ななこに関してだけは自分で稼げる手段がなかったからオレが養っていたのだが。

「仕事が出来るとわかった以上、情けはかけないからな」
「そ、そんなぁ。甘くても構いませんよ? 練乳のように」
「練乳……美味しいよね。食べたいなぁ」

夢見るような目で天井を見つめている弓塚。

「……しかしそうなると……」

シオンさんは何故か渋い顔に変わっていた。

「そうなると何だ?」
「そのような掟があるのに一子は我々に食事を奢ると言ったのですか?」
「まあ……姉気が奢ってくれるなんて滅多に無いことだけど」
「そ、そっか。自分の事は自分でやらなきゃいけないのに、奢ってもらうなんてとんでもないよね」

弓塚も慌てた顔をしている。

「いや、人に情けをかけるなってわけじゃないからな。何をするのも自由ってのが先にあるだろ」

人に何か奢るのも自由というわけだ。

「それに情けは人のためならずってことわざもあるしな」

オレの場合そのことわざを信じて損ばかりしている気もするけど。

「本当にあいつはテキトーなんだよ」

そのおかげで今のオレの生活があるわけなんだが。

なんだかんだでうまく機能しているのである。

「……この恩はいつか必ず」
「いや、だからそういうのは勘弁してくれって」

そういう事を言われると、どうもくすぐったかった。

「そうですよ。自分の家だと思ってでーんとしてればいいんです」
「おまえが言うな」

ぺちん。

「いぢめる〜。有彦さんがわたしばっかりいぢめます〜」
「……まぁ家賃さえ払ってくれればそれで構わない」
「家賃……ええと、いくらなのかな」

さっき貰った給料袋の中身を見つめる弓塚。

「……いくらにしよう」

姉貴はおまえが一切責任を持つことと言った。

つまり家賃やら何やらを決めるのもオレなわけだ。

「えーと……」

一日の食費がいくらで、電気代が……

「……いかん、頭痛がしてきた」

普段そんな事考えたこともないからな。

一応家だけは共通の財産としてあるので、家賃なんぞを支払った事はないのである。

「そうですか。決まったらいつでも請求してください」
「お、おう」

こんなんじゃ請求は当分先になっちまいそうだなぁ。

「じゃあ、お二方の部屋はどこにしましょうか?」

オレが頭を抱えているとそんな事を言い出すななこ。

「……こら、なんでおまえが仕切ってるんだ」
「有彦さんに決めさせると覗き穴がある部屋とかにされかねませんから」
「あるかそんなもんっ!」
「わ、わたしの住んでる押入れにはあるじゃないですか」

ななこはそんな事を言って顔を赤らめている。

「……あれは単にボロいだけだろ」

そこから覗きこんだ事もないし。

「お、押入れに住んでいるのですか……高位精霊が」

シオンさんがギャグマンガみたいな酷い顔をしていた。

「どこかの猫型ロボットみたいだね」

弓塚は弓塚でなんかずれてるし。

「……オレはそっちのほうがいいなぁ」

こいつときたら何一つ役に立たなかったわけだし。

「無いものねだりしたってしょうがないですよ? 有彦さん」
「だからおまえが言うなっつーに」

これじゃちっとも話が進まない。

「あーもう。隣の部屋にしよう。決定。反論不可」

面倒なのでオレの部屋の隣の部屋にしてしまうことにした。

「え? ……あの物置をですか?」

それを聞いて露骨に嫌そうな顔をしているななこ。

「片付ければちゃんと部屋になるんだよ」

単に面倒だから放置しているだけであって。

「では食事の前にさっさと片付けてしまいましょうか?」
「そうだね。力仕事だったら得意だし」

ぐっと力こぶを作る仕草をする弓塚。

「そーだな。腹が減った後の食事は美味いぞ」

しかしまあなんということだろう。

この乾家に、美女が二人も居候することになるとは。

これはもはや遠野と互角。

いや、ななこ+姉貴で勝ったとも言えるのではないだろうか。

「ふ、ふふふ、ふははははっ」
「え? ど、どうしたの乾くん」
「……あ、いや、なんでもない」

まさかそんな理由で笑っているとは言えないもんで。
 

「これから楽しくなりそうだなと思ってさ」
 

かっこよくそう決めてみるのであった。
 

続く



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