「だ、大丈夫だよななこちゃんっ。わたしなんてそれを十回くらい繰り返したことあるんだからっ」

フォローなんだかなんなんだかよくわからないセリフを言う弓塚。

「……」

そしてその言葉を聞いたシオンさんがまた落ち込んでいた。

「あ、え、えと、別にシオンに言ったわけじゃなくてね……?」
 

あっちにこっちにと弓塚は大変そうであった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その31





「えーと、だからー、その、ええと……」

確かめるまでもないが、弓塚は追い詰められると駄目なほうだ。

「シオンが、ななこちゃんが……うー」

上手い言葉を捜そうとしてテンパってしまっているようだった。

「……ふむ」

そろそろ助け舟を入れてやろうか。

「おーい。飯出来たかい?」
「ん」

そこに姉貴が現れた。

「も、申し訳ありませんっ。料理を失敗してしまいましたっ」

シオンは姉貴の顔を見るなり頭を下げる。

「……ほう?」

テーブルの上へ目線を移す姉貴。

そこには例の梅たっぷり茶漬けが置かれている。

「すげえだろ」

オレの茶漬けから抜いた梅も入れてしまったので、もはや茶漬けというよりただの梅盛り合わせであった。

「……まあ誰にでも失敗はあるわな」

姉貴はそれだけ言って座った。

「も、申し訳ありません。一子」
「なに。次はうまくやりゃいいのさ」

おおらかというか大雑把というか、よくわからない女である。

「それより問題なのは、人の失敗を茶化すような輩がいるってこと」
「……わ、悪かったな」

場を和ますための冗談のつもりだったんだっつーに。

「まあ梅は嫌いじゃないしね」

姉貴は梅を二つ三つ取ってばりぼりとかじり始めた。

「う、うわっ、酸っぱくないんですか?」

ひとつの梅であんなに悶えたななこが目を丸くしている。

「そういや弓塚。この梅、奥にあったやつだろ」
「あ、うん。シオンが見つけたの。使っちゃ駄目だったかな?」
「いや、むしろ全然構わないんだけどさ。それ、姉貴のやつだから」
「一子さんの?」
「あたしの手作りなんだよ」

かりっといい音を立てて梅をかじる姉貴。

「ええっ? 手作りっ?」
「そ。だから味に慣れてるってわけ」
「なるほどー」

色々と調整して姉貴好みの味になっているらしい。

「気が向いたときに作るんだよ、姉貴が」

割と昔からやってた事なので、味は市販のものと比べても遜色ないものだ。

「そうなんだ……すごいなぁ」

弓塚は普通に感心しているようだった。

「ついでにいうなら遠野も昔良く食べてた」
「と、遠野くんがっ?」
「ああ」

梅干しとでっかいおにぎりを持って近所探検とかガキの頃よくやったもんだ。

「わ、わたしも梅干し食べようかな」
「現金なやつ」

しかし姉貴といい翡翠さんといい、遠野も妙に梅に縁のあるやつである。

「あはは……」

苦笑しながら梅干しを口に含む弓塚。

「よし、かじれかじれ」
「ほむ……」

かりっ。

「はっはっはっはっは」

弓塚はさっきのななこのように悶えている。

「そこで茶漬けを食べるのが美味いんだろう」

姉貴は特盛り梅茶漬けを平然とほおばっていた。

「それはさっきオレも言った」
「い、いただきます」

茶漬けをさらさらと口へ流す弓塚。

「……あ、ほんとだ。おいし」
「だろ。ほれ、シオンさんも食べた食べた」
「あ、はい……」

さっきも言ったが梅はほとんど姉貴のやつに回したので丁度いいバランスになっているはずだ。

「……」

ぱくり。

かりこりかりこり。

「どうだ?」
「……中々……まろやかに……」

シオンさんは目を細めていた。

「感動です。あのきつい味がこうもまろやかに変わるとは」
「これぞジャパニーズ・ニンジュツってやつだ」
「乾くん、そのフレーズ気に入っちゃてたりする?」
「シノビは男のロマンだからな」

調整次第でいくらでも変化するのだから、料理はある意味忍術といえなくもないだろう。

「覚えました。今度からはこの分量で手配する事にします」
「……いや、毎度梅茶漬けってのはちょっとなぁ」

夜食としてはいいけど、純粋な晩飯としてはちょっと物足りない感じがする。

「料理のレパートリー増やさないとね。シオン」
「問題ありません。エーテライトでそのへんの主婦の知識を……」
「……参考にしてみたらその主婦は料理下手だったと」
「う……」

やたらと渋い顔をするシオンさん。

「料理の本がオレの部屋にあるから貸してやるよ」
「……それを参考にする事にします」
「そのほうがいいだろう」

人の頭の中の情報なんて、一番信用できねえシロモノだからな。

「何の話だい?」
「いやまあこっちの話」

エーテライト云々を説明するのも面倒だし、適当にはぐらかしておいた。

「そうか」

なんせテキトーな女なので、それ以上追求してくることはなかった。

「で、だ。今日はさつきちゃんが朝、シオンちゃんが晩と作ったわけだが」
「ああ。だからどうした?」
「昨日はあたしが作った。だから明日はおまえがななこちゃんと作れ」
「ああ別に……ってちょっと待て」

オレ一人だったら承諾しただろう。

「どうした?」
「荷物はいらん」
「わ、わたし荷物じゃないですようっ」

非難の声をあげるななこ。

「じゃかあしい。にんじんしか食ってないやつに何が作れるってんだ?」
「……カレーとか?」
「カ、カレーっ?」
「カレーですって!」
「な、なんだ?」

ななこの言葉にやたらと過剰な反応を示す二人。

「い、いや、その、カレーといったらあれじゃありませんか。にんにくがつきものです。吸血鬼はニンニクが駄目ですから。ねえさつき?」
「そ、そそそ、そうだよっ。それだけっ。うん、他に深い意味はまったくないよっ?」
「いや、駄目なら入れないけどさ」

カレーと聞いて最初にニンニクは出てこないよなあ、普通。

オレだったらカレー好きな先輩の事を連想するけど。

「そうか。おまえカレーは作れるのか」
「ええ。カレーだけはプロ級の腕前ですよ」

妙に自信ありげな顔をするななこ。

こいつがそういう顔をする事はあんまりないので、本当に得意なんだろう。

「ほー。そんなに自信があるのか」

改めて確認する。

「はいっ」

そいつは意外というかなんというか。

「得意料理があるのにも関わらず、ただ飯を食らってたわけだな? おまえは」
「……はっ!」

慌てて口を塞ぐななこだが、もう遅い。

墓穴を掘るとはまさにこの事である。

「うまく話がまとまったみたいだね」

姉貴がにやにや笑っていた。

「……どこをどう解釈したらそうなるんだ?」
「わー。楽しみっ。期待してるね乾くんっ」
「ったく……」

ななこを取っちめてやるつもりだったのに、姉貴と弓塚のせいで覇気が失せてしまった。

「なるほど」
「何を感心してるんですかい?」
「いえ、気になさらないで下さい」

シオンさんが「なるほど」とかいうと嫌な予感がするんだけど。

「と、とにかく明日は頑張りましょうねっ。有彦さんっ」

誤魔化すように笑っているななこ。

「……へいへい」
 

なんか上手くあしらわれてるような気がするなあ、オレ。
 

続く



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