そのくせ肝心なところでとっぽいのだ。
ある意味遠野とよく似ていると言えるかもしれない。
「まあ、それがさつきですから」
「だな」
二人して笑いあう。
「さて……帰りましょう」
「おう」
そしてシオンさんと二人、帰路につくのであった。
『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その39
「ただいまーと」
「戻りました」
「おーう、お帰り」
姉貴が風呂場のほうから玄関に歩いてきた。
「風呂沸かしといたから入りな」
「お。珍しく気が利くじゃねえか」
「当たり前だ。そのままの状態で歩き回られたら汗臭いだろ」
「左様でございますか……」
まあ、汗をたくさん掻いたのは事実だけどさ。
「着替えも投げといたから部屋に戻る心配もないぞ」
「へいへい」
しかしまあ、どうして感謝したくなくなるような言い方しか出来ないかねこのお姉さんは。
「風呂から上がったら晩飯の支度」
「……わかってるっつーに」
ほんとまったく。
「ふいーっ」
そんなわけで風呂を満喫しているオレ。
だが、野郎の入浴シーンなんぞ描写してもつまらんだろう。
体を洗って湯に浸かりました。終わり。
「……マンガとかならそうなるんだろうがな」
つーか男の入浴シーンなんぞまず書かないだろうが。
女の子の入浴シーンだったらぶち抜きの大ゴマで取り扱うべきだ。
「入ってるのに気付かずに女の子が入ってきたりとか……」
その場合悲鳴をあげなきゃいけないのはオレなんだろうか。
多分見られたのはオレなのに女の子が悲鳴をあげ、オレが悪人にされてしまうに違いない。
「理不尽な世の中だよなあ」
どんなに頑張っても駄目な事がこの世には存在するのである。
まあ今回の場合、姉貴が風呂を用意したんだから、誰かが入ってくるってのはないだろうけど。
「いや……待てよ?」
弓塚はさっきあの場所にいなかった。
ということはうっかり入ってきてしまう可能性は大いにあるわけだ。
「ただでさえドジだからな、あいつ」
まるでオレの存在に気付かず服を脱いで入ってくるんじゃないだろうか。
「いや、そうあるべきなんだ」
男が風呂に入っているなんていう面白く無いシーンが出てきた以上、何かしらイベントが起きなくてはいけないのだ。
「さあ来い弓塚っ!」
オレは湯に浸かったまま弓塚の登場を待った。
「……」
「ずいぶん長湯だったね。あんたにしては」
「いや、汗臭いとか言われたからな」
まあ現実ってのはそんなに甘くないわけで。
一緒に生活してたって女の子が入ってくるというイベントが起きるとは限らないのだ。
「男は夢を糧にして生きる生物なんだ……」
「は?」
「いや、なんでもない」
さっさと晩飯の準備をしよう。
「……つーか弓塚はどこに消えたんだ?」
「普通の洋服も何着か貰ったからね。何着るか悩んでるんだろ」
「ふーん」
家の中にいるんだから何だっていいだろうに。
女心っつーのは不思議なものである。
「今までずっと同じ服でしたからね。多少は多めに見てあげてください」
「シオンさんはそういうのないの?」
「私は機能性を重視しますので」
「……」
普段着てるあれ、機能性があるとはとても思えないんだけど。
ああでも、あのスカートは確かに動きやすそうではあるな。
見えそうなのに見えない絶対領域。
まあシオンさんの太ももは見えるから問題はないのだが。
「……はっ!」
まさかオレがそんな事ばっかり考えてるからシオンさんはズボンになってしまったのか?
オレはもうあの輝かしい太ももを見る事が出来ないのか?
「どうしたのですか、有彦」
「し、シオンさんは普段のアレに戻るんだよな? また」
「当然です。あれはアトラシアの錬金術師の正装ですから」
「……そ、そうかっ?」
よかった。本当によかった。
「何故そこで喜ぶのですか」
「アホだからだよ」
即ツッコミを入れる姉貴。
「なるほど」
「納得するんじゃねえ」
「だが否定は出来ないだろう?」
「うむ」
「……」
シオンさんは呆れた顔をしていた。
「さーて、飯飯っと」
何事もなかったかのように炊飯器を開けるオレ。
「ん? 炊けてる?」
「それはもう用意しておいた。後はおまえの腕次第だ」
「そうか。それはありがたい」
これは素直に感謝しておいた。
ただメシを炊くったって、といだりなんだりで面倒だからな。
「とすると後は」
カレーのルーを温めればおしまいである。
「……あれ?」
実はオレがやるべき事って全然ないんじゃないのか?
「どうかしたのか?」
「あ、ああ、いやなんでもない」
まあたまには楽したっていいだろ。
「……さて」
カレーに火をつけたらいよいよ本格的にやる事が無くなってしまった。
弱火だし、でかい鍋だから焦げる心配もないし。
「後は待つだけなんだが、どうするよ?」
姉貴に呼びかける。
「どうするかね。ななこちゃんも帰って来ないし、さつきちゃんもまだ上にいるし……」
「ではまずさつきを呼んできましょうか?」
するとシオンさんがそう提案をした。
「ああ、それくらいオレがやるよ」
「とか何とか言って着替えを覗くのが目的だろ。おまえ」
「そ、そんな事は決してないぞ」
「……私も同行します」
「へーい」
そんなわけでシオンさんと一緒に弓塚を呼びに行く事になった。
「おーい弓塚」
「あ、い、乾くんっ? ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って……うわあっ!」
びったーん。
「……すげえ音がしたけど、中見てくんない?」
「了解しました」
オレは後ろを向いて、シオンさんが中へと入る。
「何をやっているのですかさつき……というか何をやっていたのですか?」
「あん?」
意味のわからない事をいうシオンさん。
「どうしたんだ?」
中を覗いてみる。
「……あれ?」
色々新しい服を貰ったはずの弓塚は、何故かいつもの制服姿だった。
「なんでまた、その服?」
「あはは、色々着てみたんだけど、なんだかしっくりこなくて。結局これに戻っちゃったの」
「……なるほど。確かにそれが一番無難な気がする」
制服姿の弓塚が一番見慣れてるしなあ。
「シオンだってそうでしょ? やっぱりあの服が落ち着くって言ってたじゃない」
「まあ……それはそうなんですが」
やっぱり慣れ親しんでる服が一番って事なのかな。
「下着は新しいモノをつけていますよ」
などと言った後、シオンさんは慌てた顔をして口を押さえていた。
「はぁ。二人の下着姿見たかったなあ」
ため息をつくオレ。
「思っていても口にするべきではないと思いますが? それは」
「いや、だってさ。それのおかげで結局オレは炎天下の中で過ごす羽目になったわけじゃん? しかも最後には雨まで降ってきて」
「……それは申し訳なかったと思ってますが」
「悪い事しちゃったよね。わたしたちのほうが居候なのに」
「まあ、二人が悪いわけじゃないから別に構わないけどさ」
あくまでこういうのは冗談で言ってるだけなのだ。
パフォーマンスに過ぎない。
「だ、だったらあの、乾くん」
弓塚はなんだかよくわからないが顔を真っ赤にしていた。
「なんだ?」
「こ、ここでわたしの下着を見て、帳消しってのはどうかな?」
「は?」
続く