「何故こんなに貰えたのでしょう? わたしはほとんど何もしていなかったのに……」

結局仕事時間まるまる眠っていたシオンさんは不思議そうな顔をしていたけれど。

きっとオレは永久にこの事をシオンさんには話せないんだろうなぁ。

「有彦は何か心当たりがありますか?」
「え? いや、えーと、その、なんだ」

急に尋ねられて戸惑ったオレは、仕方なくこう答えるのであった。
 

「まあ、夏だからな!」
 
 





『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その43





「ところで、さつきたちのほうはどんな仕事をしてるんでしょうね?」

帰り道、シオンさんがそんな事を尋ねてきた。

「さあなあ……」

あいつらに出来る仕事ってどんなものがあるんだろう。

「こちらがうまくいったぶん、不安ですね」
「確かに」

全てがうまくいくなんて事、世の中にはそうそうない。

何かむこうではとんでもないミスをやらかしているんじゃないだろうか。

「まあ姉貴がいりゃ大抵の事は大丈夫だと思うけどさ」
「それも確かに」

などと笑いあっていると。

どんどん、どん。

ちゃんちきちゃんちき。

「何の音でしょう?」

やたらと軽快な音が響いてくる。

「何って……囃子の音だろ? って囃子?」

オレは自分の顔がにやけていくのを感じた。

「そうか。あの女め。はめやがったな!」
「……はめられたと言いながら何故嬉しそうなのです?」
「いいから行くぞシオンさんっ。弓塚たちもそこにいるっ」
「え? ちょ、ちょっとっ?」

シオンさんの手を握って走り出した。

オレの考えが正しければおそらく……いや、間違いなく。
 
 
 
 
 

「福引っ! お面っ! わたがし! 焼きそば! 金魚ーっ!」

長い階段を上った先の神社の境内は、出店と客でごった返していた。

「これは一体?」
「祭りだ祭り! 決まってるだろ!」

そうだ。今日は祭りの日だったのである。

夏といえば夏祭り。

祭りといえば夏。

こんな重要な事をオレは何故忘れていたんだろうか。

最近色々あってうっかりしていた。

「ここにさつきたちがいるんですか?」
「当然だっ!」

あの姉貴が祭りに参加していないわけないからな。

「間違いなく最高の位置で出店をやっているはずだっ」

おおよその位置を検討し、そこへ向けて歩いていこうとすると。

「あ、有彦っ」

シオンさんがオレを呼び止めた。

「あんだよ」
「……その、手を離して頂けると」
「あ、悪い」

そういえばずっと握りっぱなしだったな。

「……」

シオンさんはゆでだこみたいに顔を真っ赤にしている。

「いえ、その……あまり男友達というものがいなかったので、こういう経験が少ないのです」
「そ、そうなのか」

いかん、急にドキドキしてきたぞ。

「……じゃあ、取りあえずオレが前歩いていくけど、はぐれないようにな」

それを誤魔化すようにオレは正面を向いた。

「ええ。心配しないで下さい。わたしはさつきとは違いますから」

その口調はすっかりいつものシオンさんに戻っていた。
 
 
 
 

「しかし混んでいますね」

シオンさんの言う通り、人はかなり多い。

「まだまだこれからだって」

しかしまだ日も完全に暮れていない時間帯だ。

祭りの本番はやはり夜である。

これからさらに人は増えていくんだろう。

「ほう……」

後ろからついてくるシオンさんは時々興味深そうな声をあげていた。

「……姉貴のとこ行く前に何か買っていく?」
「ああ、いえ、気になさらず」
「そうか」

まあ屋台は逃げやしないしな。

「……お」

とか言っているうちに目的のものを発見した。

「あれだ。行くぞ」
「あ、はい」

特に人ごみの出来ている場所。

そこの後ろへ回るように歩いて行った。

「おいこら姉貴」

発見。

出店の裏で悠々と佇んでいる姉貴にオレは声をかけた。

「ああ。仕事は終わったのか?」
「当然だ。つーかオレをハめやがったな?」
「イヤだったら働かなくていいぞ?」

にやりと笑う姉貴。

「ばっかおめー何ワケわかんねえ事言ってるんだよ。ハッピあんだろ。貸してくれ」
「はいはい」

そしてオレに向けて青いハッピを投げつけてきた。

「あれ? 有彦さんじゃないですかー」

出店のほうからななこが顔を出した。

「お」

淡いピンク色の浴衣姿。

金魚のような魚がところどころにデザインされている。

普段が青一色だから、その姿はかなり斬新に見えた。

「なかなか似合ってるじゃないか」
「そ、そうですか? えへへ、ありがとうございます」

にへらーっと笑うななこ。

「乾くんたちが来てるの?」
「うおっ」

次に現れたのは謎の猫っぽいお面をつけたヤツだった。

「……って弓塚かよ」

お面の横からはみ出ている特徴的な髪型でわかった。

「あはは、変かな?」

苦笑しながらお面を横にスライドさせる弓塚。

「いや、普通に変だろう」

こっちは青色の浴衣である。

黄色いうちわと黒いうちわの模様が描かれていて割と可愛いかんじだ。

「せっかく見た目いいんだからさ。なんでお面なんてつけるんだよ」
「え、だって知り合いとかに会ったら恥ずかしいし……」
「それならお面なんぞつけるより髪下ろしたほうが効果的だぞ。大丈夫。誰もおまえがさっちんだとは思わないから」
「さっちんって呼ばないでよう」

一時期弓塚の事をさっちんって呼んでいぢめるのが(オレ限定で)流行ってたんだよなあ。

そんな懐かしい事をつい思い出してしまった。

「っていうか乾くんテンション高くない?」
「先ほどからそうなのですよ」
「はっはっは。祭りでテンション上がらない男はいないぜ! 特にオレは祭りの乾と呼ばれた男っ!」
「いや、誰も呼んでない」

冷静なツッコミを入れる姉貴。

こっちはいつでもクレバーである。

「シーット。こいつは手厳しいぜ。ところでマイシスター。弓塚たちのぶんがあるなら当然シオンさんのもあるよな?」
「当然だろ。どうする? 拉致って着替えさせてこようか?」
「ああ頼む。店はオレが見ててやるからさ」
「……本人の承諾を得ないまま妙な会話をしないでくれませんか」

シオンさんは渋い顔をしていた。

「まあまあ。いいから一子さんに任せてみてよ」

そんなシオンさんに向かってにこりと笑う弓塚。

「まあ、さつきがそう言うのであれば……」
「オッケーかい? じゃあちょっち行ってくるわ」
「え、ちょ、ちょっとっ?」

シオンさんは姉貴に連れ去られていった。

「さて、店のほうはどうだ?」
「すごい人来てますよ。びっくりしちゃいました」

ななこと共に出店のほうを覗く。

ぱーんっ。

「ちっ……何故だ! 何故倒れない!」
「もう一回だ! こっちに弾くれっ!」
「へいへーい。毎度っ」

姉貴の出している出店はテキ屋。

……っても怪しい意味じゃなくて、要するに射的屋である。

おもちゃの鉄砲で撃って落としたら景品が貰えるというアレだ。

最近の祭りではめっきり見なくなってしまったものの、コレの人気はやはり健在であった。

「さーいらっしゃいいらっしゃい。射的屋だよっ! 倒せばどれでもあなたのものにっ!」

大声で客寄せを始めるオレ。

祭りはまだ始まったばかり。
 

さあ、これから楽しくなるぞおっ!
 

続く



あとがき
そんなわけで(?)しばらくお祭り編になります。
いや、たまたま外出したら近所で祭りやってたので(ぉ
祭りの独特の雰囲気は大好きです。
少しでも雰囲気が出せるよう頑張ります。
色々なゲストにも登場予定w


感想用フォーム 励みになるので宜しければ感想を送って下さいませ。
名前【HN】

メールアドレス

更新して欲しいSS

出番希望キャラ
ななこ  有彦  某カレーの人   琥珀  一子    さっちん   シオン  その他
感想対象SS【SS名を記入してください】

感想【良い所でも悪い所でもOKです】



続きを読む

戻る