「さーいらっしゃいいらっしゃい。射的屋だよっ! 倒せばどれでもあなたのものにっ!」

大声で客寄せを始めるオレ。

祭りはまだ始まったばかり。
 

さあ、これから楽しくなるぞおっ!
 
 






『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その44



「出店ってすっごい忙しいんだね。わたしびっくりしちゃった」

オレの言葉に従ってか、髪を下ろした浴衣姿の弓塚。

「弓塚としての特徴が何一つ存在しなくなっちまったな」
「そ、そんな事ないよー」

ぱこん。

「……いったぁ」

コルクの流れ弾が弓塚のおでこに直撃していた。

「なるほど。よくわかった」
「そこで納得されるのも嫌なんだけど……」
「いや冗談だって」

半分本気だけど。

「まあ、ここが忙しいのは特殊なんだよ」

元々一番人が集まるような一等地に配置されてるってのもあるし。

「景品があり得ないくらい豪華だからな」

どっから手に入れてきたんだか、景品にはゲーム機やら高級ブランドバックやらが並んでいた。

「うん、確かに凄いよね、これ」

もちろん撃ち落したらそれを景品として渡すのである。

「本当に落ちるんですかね? これ?」

店員としては最も言ってはならないセリフを平気でほざくななこ。

取りあえず頭を叩いておいて。

「オレはこの仕事を去年やってたが、執念で景品を手に入れた猛者を何人も知っている」

まあ、大抵買ったほうが安いんじゃってくらいの金を使ってくれるんだけど。

「そ、そうなんですか」

頭をさすっているななこ。

「おまえも武器なんだから射撃は得意なんじゃないか? やってみたらどうだ?」
「あからさまに失敗を期待されてるので嫌です」
「ちっ」

こいつ最近鋭くなりやがったかな。

ぱこん。

「……っと」

下らない事を考えていたら景品が足元に転がってきた。

「落としたねっ。おめでとうお譲ちゃん」

子供などは小さなおかしやマスコットを狙い、確実に手に入れているのだ。

オレは落とした女の子に景品を手渡してやった。

「おかーさん、取れた取れたっ」
「そう。よかったわね」

そんな会話をしているのを見ると気分が和む。

「ねー。まだ取れないのー? ダッサーイ」
「なんだと! おまえの為に俺は頑張っているんじゃないかっ!」

こっちのヤツみたいに喧嘩を始めるバカは言語道断である。

「はいはーい。飴玉あげますから帰ってね」

睨みをきかせてご退場願った。

「すごい手際いいね、乾くん」

弓塚が感心したような顔をしている。

「慣れてるからな」

どんなに忙しかろうがこの祭りの仕事だけは必ず参加している。

男なら祭りに参加せずに何に参加しろというのかっ!

「おおあたり〜! おめでとうございま〜す!」
「あん?」

ななこが金色の鐘をからんからん鳴らしていた。

「……フッ」

どうやら腕の立つスナイパーが高額商品を落としたらしい。

「おおおお〜!」

観客から歓声があがる。

「こっちもお願いっ!」
「三回分一気にいいかっ?」
「順番があるから一人一度までねー」

次は自分も手に入れてやるぞと参加者がさらに増加しはじめた。

「すごいですね今の人」

ななこが目を丸くしている。

「何者なんだろうなあ」

大抵一人か二人、ああいう得体の知れないスナイパーが登場するのだ。

まあ、他の人がそのぶんお金を使ってくれるから問題ないんだけど。

「おーい。調子はどうだい?」
「ん」

姉貴が戻ってきたようだ。

「一人高額持ってかれた。後はまあ普通」
「そうか。取りあえずこっちは割と上手く出来たぞ」
「ほう?」

それはつまりシオンさんの事だろう。

オレは姉貴の横から後ろを覗いた。

「……」

シオンさんの浴衣はいつも着ているものと近い紫色のものであった。

紫という色は着る人間を選ぶ色である。

普段からそれを着こなしているシオンさんにその浴衣はとても良く似合ってみえた。

「ビューテフル! 素晴らしいね!」
「や、止めてください有彦。見世物ではないのですから」

シオンさんは恥ずかしそうに顔を背けてしまう。

「あはは、乾くんほんとハイテンション過ぎ。でもうん、似合ってるよシオン」
「……それはどうも」
「有彦さん、普段から変な人なのにもっと変な人になっちゃってます」

何故かシオンさんでなくオレにツッコミを入れるななこ。

「はっはっは。手厳しい事を言うなあ、ななこちゃん」
「……う、うわ、有彦さんがホントに変ですよ」

ななこは目を丸くしていた。

「祭りの場のオレは寛大なんだ」
「……さっきは叩いたくせに」
「それはそれ、これはこれ」
「都合いいんですから……」
「つーか全員こっちに来ちゃ駄目だろ」

ななこに弓塚、シオンさんにオレと。

「店番はどうなってるんだ?」

と思ったら既に姉貴がいない。

「はーい終わった人はさっさと撤収しろよー」

いつの間にやら姉貴は出店の中に入ってしまっていた。

「おまえらは金やるから遊んできな。ずっと仕事ってのもつまらんだろ」

シュッと畳んだ札束を投げてくる姉貴。

「いいのか?」
「なに、いざとなったら隣の人を借りてくるさ」

知り合いの多い姉貴のことだ。助けてくれる人間も多いんだろう。

「じゃあいいか。よし。みんなで遊びに行くぞっ!」
「ほんとですか有彦さんっ? じゃあ行ってみたいところがあるんですけどっ」
「あ。実はわたしもちょっと……」
「まあ待て、落ち着けおまえら」

弓塚たちの意見は取り合えず置いといて。

「シオンさんはどっかないの?」

オレはシオンさんに意見を求めた。

「……まあ、あることはありますが」
「じゃあそこから行こう。どこだ?」

シオンさんは祭りなんて初めてだろうからな。

優先してやろうじゃないか。

ななこ? そんなヤツは知らん。

「入り口の傍にあった……」
「うんうん」

シオンさんを先頭に、みんなで移動していく。
 
 
 
 
 
 

「これです」
「なるほど。これか」

ほとんど祭りの場所でしか見ないアイテムというのは結構あるが、これもそのひとつである。

「先ほど子供が美味しそうにほおばっていました」
「それで興味持ったのか」
「ええ……まあ」

一見それは食べ物に見えないものだ。

ふわふわしていて、白い雲のような。

口に入れると甘いもの。

「わたあめだね」

シオンさんに連れて来られたのは、わたあめの出店であった。

「食べられるんですか? これ」

ななこも興味ありげな顔をしている。

「まあ試してみろや。おっちゃん。わたあめ三つね」
「あいよー」

おっちゃんは機械に割り箸を入れてくるくると回していく。

するとその割り箸に白い糸が集まっていった。

「わあ……凄いです」

ななこはその様子を目を輝かせてみていた。

こいつ精霊のくせにこんなのに驚いてどうするんだ。

「錬金術のようですね」

シオンさんもまた独特な意見であった。

「あいよ。お待たせ」

まず一本目が完成。

「ほれ」

これはシオンさんに渡した。

「……ありがとうございます」

現物を目の前にしてどこか嬉しそうなシオンさん。

「これも完成」
「よっと」

二本目はななこに。

「うわ、ほんと美味しそうですねー」

ななこは等身が低いので、そんなもんを持ってると丸っきり子供そのものに見えた。

「おまちどうさん」
「へーい」

三本目は弓塚のぶんだ。

「……あれ? 乾くんのは?」

それを受け取りながら首をかしげている弓塚。

「オレはいいんだよ」

このクールでワイルドなイメージのオレがわたあめなんて。

「にーちゃん。おまけだ。一本やるぜ」
「……くれるなら貰うけどさ」

おっちゃんは変なところでサービス精神旺盛だった。

「そのかわり連れの誰でもいいからスリーサイズを……」
「100、83、95」
「ワ、ワンダホー!」

ちなみにオレの知り合いの野郎のスリーサイズである。

どうやって知ったかは聞くな。

「……何を話していたんですか? 有彦さん」
「いや、つまらん話」

本当につまらない話である。

「じゃあ歩きながら食うか」
「無作法ではありませんか?」
「それが祭り流なんだよっ」

いや、正しいかどうかは知らんけど。

「わかりました。では従うとしましょう」
 

そんなわけで俺たちはわたあめをほおばりながら歩き出すのであった。
 

続く



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