「じゃあ歩きながら食うか」
「無作法ではありませんか?」
「それが祭り流なんだよっ」

いや、正しいかどうかは知らんけど。

「わかりました。では従うとしましょう」
 

そんなわけで俺たちはわたあめをほおばりながら歩き出すのであった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その45




「このとろけるような甘さがいいんだよねー」

にこにこと笑っている弓塚。

やはり女の子は甘いものに弱いんだなあ。

「このふわふわ感が美味しさを倍増させてますよ」

ななこも頬を緩ませていた。

「わたあめがふわふわしてなかったらただの砂糖の塊だからな」

わたあめはずっと放置してると硬くなってしまうのだが、そうなるともう美味しさは半減してしまう。

「でも、不思議だよねこれって。どうしてこんな風になるのかな?」
「さあ」

オレにそんな事を聞かれてもなあ。

「熱で溶けて液状になった砂糖……まあザラメ糖ですね、これは。それを遠心力で細く糸状に変化させ、まとめたんでしょう」
「し、シオン?」

さすがはシオンさん。少し食べただけで原理がわかってしまうとは。

「これなら簡単な機械を作れば自宅でも作成可能だと思いますよ?」
「さすがは錬金術師だな」
「……錬金術と呼べるほどの技術ではありませんが」

と言いつつまんざらでもなさそうな顔をしているシオンさん。

「自宅で作るのは止めておいたほうが無難でしょう」
「え? どうして?」

弓塚が尋ねる。

「わたあめとは夢のようなものですから」

シオンさんはそう言って笑った。

「……いや、自分でネタばれしておいてそれはどうかと」
「や、やかましいです有彦っ! 疑問に答えただけではないですかっ!」
「あ、あはは、そうだよね。わたあめって夢のある食べ物だもんね」

さりげなくシオンさんのフォローに入る弓塚。

「美味しければなんでもいいですよ」

ななこは一人ご満悦だった。

「……まさに馬だな」
「何か言いました?」
「いや、甘いもん食ったら喉渇いたなと」

オレはとっくの昔にわたあめを食い終わってしまっていた。

「麦茶とか欲しいよね」

甘いもんを食った後はやはり苦いものか辛いものだ。

「……お」

『極美味! 納涼三咲ビール』

目線にそんな文字が飛び込んできた。

「いいねえ」

思いっきり冷えたやつをきゅーっと。

「お酒は駄目ですよ有彦さん」
「そうだよ乾くん」
「……へいへい」

お節介な馬と委員長がいるこの状況では無理そうだった。

「なんかないかね」

きょろきょろと辺りを見回してみる。

「お?」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもねえ。取りあえず適当に飲み物探してきてやるからさ。あそこで座って待ってろよ」

オレは少し先にあるベンチを指差した。

丁度先客がいなくなって席が空いたところである。

「わっかりましたー。行きましょう、シオンさん、弓塚さん」
「わたしはお茶がいいな」
「炭酸お願いしますー」
「へいへい」

弓塚とななこはさっさと歩いていく。

「……わたしは柑橘系で」

シオンさんは気付いたようだったけれど、それについては特に何も言ってこなかった。

「了解」
「では」

そして弓塚たちのところへ向かっていく。

「さてと」

オレは逆方向へ歩いていった。
 
 
 
 

「見えた……っ!」

すっと線をなぞるそいつ。

すると一瞬でそれがバラバラになった。

「ああっ! なんてこった!」
「……何やってんだおまえ」

オレは後ろからそいつに声をかけた。

「うん? 有彦?」
「彼女連れで祭りたあいいご身分だな」

隣でにこにこ笑っているのは浴衣姿のアルクェイドさん。

「彼女だって。えへへ」
「……強引に連れて来られたんだよ」

そう言って苦笑いしているのは遠野だ。

こんな美人に誘われて来て、なんでそんな顔が出来るのかねこいつは。

「しかし型抜きとは懐かしいなオイ」

遠野のやっていたそれに目を向ける。

「なんかやってみたくなってさ」
「志貴、線なぞるのとか得意だもんねー」

そんな特技あったっけこいつ?

「そう上手くはいかないみたいだ」
「だな」

なんせ形も残らないほど粉々になっちまってるし。

並の不器用さじゃこんな事出来ねえぞ。

「っていうか男ならちゃんと彼女をエスコートしてやれ。自分が楽しんでどうするんだよ」
「……有彦。それはアルクェイドの身に着けているものを見てから言ってくれ」
「あん?」

再びアルクェイドさんを見る。

右手にはお馴染みゴムヨーヨー。

左手には金魚の入った袋。

頭にはさっき弓塚もつけていた謎のばけねこっぽいお面。

「なるほど」

もう既に遊びまくった後ってわけね。

「もう金が無いから帰ろうかなと思ってる」

そう言ってため息をつく遠野。

「……おまえも大変なんだなあ」

遠野の家に行ってからますます貧乏になってしまったんじゃないだろうか。

「妹さんとかは来てないのか?」
「秋葉は人ごみが嫌だってさ。翡翠と琥珀さんは来てるかもしれない」
「ふーん」

秋葉ちゃんなら浴衣を着ると様になる気がするんだがなあ。

いや、身体的特徴がどうのとか関係なくて。

「志貴ー。早く次のところ行こうよー」
「はいはい。わかってるよ。……じゃ、またな有彦」
「おう」

遠野たちは入り口のほうへと戻っていった。

「よし」

これなら弓塚たちと遭遇する心配はないだろう。

さすがに祭りで他の女の子と一緒にいるとこ見せるのはまずいだろうからなあ。

こういう気遣いするのもなかなか大変である。

「……ジュースを買っていかんとな」

ちょうど缶ジュースを安く売ってる出店を見つけ、人数分揃えてベンチのほうへと向かうのであった。
 
 
 
 
 

「ほい、お待たせっと」
「あ。有彦さんおかえりなさーい」
「む」

戻ると三人は巨大なたこやきを突いていた。

「タコが通常の三倍入ってる彗星たこ焼きだって」
「……」

タコの赤がやけにまぶしかった。

「祭りは美人だとサービスしてくれるからいいよな」

おそらくそのたこ焼きは通常の客に渡す分よりも多くたこ焼きが入っていた。

「そ、そんなことないってば」
「お姉さん美人だねと言われて照れていたではありませんか」

くすくすと笑っているシオンさん。

「し、シオンだってまんざらでもなさそうだった癖に」
「……目の錯覚です」
「あ、あはは……」

ななこはやたらと落ち込んでいた。

どうやらこいつはサービスして貰えなかったらしい。

「あ……えと」

気まずそうな顔をする弓塚。

「ほれ、ななこ」

オレは冷たい缶をななこに放り投げた。

「あ、ありがとうございます」
「そっちもほれほれ」

弓塚とシオンさんにも。

「うわ、すっごい冷たいね」
「氷の中に投げ入れてあったんだよ」

底のほうのを選んだのでキンキンに冷えてるはずである。

「で、これはオマケっと」

ななこにあるものを投げる。

「これは?」
「スーパーボールだ」

ジュースの入った水の中に沈んでいたのである。

多分どこかの子供が落としたんだろう。

「……ふーん」

地面にそれを投げると、勢いよく跳ね返っていた。

「と、取りあえず貰っておきますね」
「おう」
 

ななこはそれを嬉しそうに見つめているのであった。
 

続く



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