「ああっ!」
驚いた顔をする弓塚。
「うん、美味い!」
オレは爽やかに笑ってみせた。
「ひ、酷いよ乾くん」
いや、オレは正しい事をしたと信じてるぞ。
「……何をやってるんだか。まったく」
シオンさんはあきれ返っていた。
『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その47
「いや、軽いジョークだって。ほら、シオンさん。お好み焼き食べる?」
箸でお好み焼きを上手く四分割させるオレ。
「お好み……なるほど、話には聞いていましたがこれが」
それを見て興味深そうな表情に変わるシオンさん。
つーかお好み焼きの話って一体どんな話なんだろう。
やたらと気になる。
「キャベツをたくさんいれるのが美味しく作るコツなのでしょう?」
「恐ろしく中途半端な知識っぽいな」
出所は弓塚だろうか。
「あと山芋を入れるといいんだよ」
間違いないようだ。
「マンガとの知識だけで食べ物を語るのは止めろっつーに」
「え? でもホントのことだよ? わたし作った事あるもん」
「……そ、そうなのか」
料理マンガにでてくる知識なんてみんなインチキだと思ってたぞ。
「一般常識だよ」
とするとオレのほうがおかしいらしい。
「お見それしました」
大人しく頭を下げるオレ。
「試しに作って全然美味しくないものも確かにあったけどね」
どこか遠い目をしている弓塚。
「……カップヌードル寿司?」
弓塚の顔が引きつった。
「そ、それよりほら。乾くんも食べなよっ」
「お、おう」
うん、アレの事は忘れる事にしよう。
そして知らない奴は詮索しないほうがきっと幸せだろう。
「何の話ですか?」
ななこが尋ねてくる。
「いやいや全然なんでもないぞ。ほれ、焼きそばをやろう」
「あ、どうも」
そんなこんなで無駄話をしつつ、色々な料理を食べていく。
容器からはみ出るほどに詰められた焼きそば。
直径15センチはあろうかという巨大今川焼き。
最近流行らしいシシカバブなどなど。
「む。この歯ごたえがなかなか……」
シオンさんは涼しい顔をして焼きイカを食べていた。
なんだか妙にそれが美味そうに見える。
「いいな。オレにもちょっとくれ」
オレはシオンさんにそう尋ねてみた。
「……と言われましても。どう分ければ」
「少しかじらせてくれ」
「わたしの食べかけですよ?」
オレとイカを見比べて戸惑った顔をするシオンさん。
「シオンさんなら問題なし」
美人と間接キスならそりゃもう大歓迎だ。
「まあ、そちらが構わないなら別に構いませんが」
イカが差し出される。
「よっしゃ。いっただきま……」
「はむっ」
「……あん?」
横からななこが顔を出してイカをかじっていた。
「あ。ほんとだ。これ美味しいですよ有彦さんっ」
そしてオレに向けてにこっと笑う。
「それはよかったな」
取りあえず叩いておいた。
「つ……つい野生の本能が目覚めて……」
「馬なら馬らしくにんじんに突貫しておけ」
「美味しそうだったんだからしょうがないじゃないですかー」
まったく食い気しかないのかこいつは。
「仲の宜しい事で」
くすくすと笑うシオンさん。
「いや、今のどのへんを見たらそんな意見が?」
「さあ」
「……」
もしやななこはオレとシオンさんが間接キスをするのを邪魔しようとして?
とか考えると急に恥ずかしくなるので意識から外しておいた。
いや、だから考えちゃ駄目だっつーに。
「このぅ」
取りあえずイカを食らう。
シオンさんとななこの言う通り、それは美味かった。
「どうです? 美味しいでしょう」
笑顔で尋ねてくるななこ。
「……そりゃまあな」
「えへへ」
無駄に嬉しそうだった。
「し、しかし、こうやって色んな物を分け合うのは祭りの醍醐味のひとつだよな」
ななこから目線を逸らし話題変換をするオレ。
オレは負けてない。負けてないぞ。
いや、そもそも何と勝負してるんだかよくわからないが。
「そうだねー。交換ことか楽しいよね」
ひとつのものをみんなで分けあう。
それはすなわち感動の共有である。
「買ったのは全てさつきですけど」
くすりと笑って弓塚を見るシオンさん。
「だ、だからー。わたしはみんなで食べるつもりでー」
「はいはい」
弓塚のいう事は適当に受け流しておいた。
「うう、なんだか乾くんが冷たい」
「弓塚が幸せそうだとなんかいじめたくなるんだよな」
それこそ無条件でななこをいじめたくなるみたいに。
「確かに同意します」
シオンさんの言葉が弓塚にさらに追い討ちをかける。
「……いいもん。どうせわたしなんか」
弓塚は拗ねてしまった。
「いや冗談。悪かったって」
と言いつつも、弓塚はこうじゃないとなあと思う自分もどこかにいたりして。
「ほら、これでも食って元気出せ」
取りあえずオレは傍にあった食べ物を差し出した。
「フランクフルト?」
「そうだ。こんなでかいのは祭りじゃないと買えないぞ」
バーベキューで食べるものもあるが、祭りのものはやはりなんとなく別物って感じがするからな。
「ありがと」
オレからそれを受け取る弓塚。
少し機嫌を直してくれたようだ。
「いっただきまーす」
弓塚は嬉しそうな顔で熱くたぎった太い肉棒を口に。
「……乾くん、何か変な事考えてない?」
「いや、そんな事は全然」
明後日の方向を向いて誤魔化すオレ。
「つーか、もうほとんどなくなっちまったな」
弓塚が一人で囲まれてたときはたくさんあるように見えたけど、四人で食べたらあっという間に無くなってしまった。
「そうですねー。もうちょっと食べられそうな感じです」
そう言って最後のたこ焼きを口へ運ぶななこ。
「まあ食べ物はそろそろいいだろ。そろそろ姉貴のところへ戻ろう」
なんだかんだで結構時間は過ぎていた。
「あ。そうだね。手伝いやらなくちゃ」
「うっかり本業を忘れるところでしたよー」
それはななこだけだろう。
「……そういえばそんな事もありましたね」
おいおい。
「ご、ごほん。しかし、祭りの食べ物というのは普段より美味しく感じました」
誤魔化すようにそんな事を言うシオンさん。
「それはありますねー。プラシーポ効果でしょうか」
「さ、さすがにそれは違うと思うなぁ」
「うーむ」
多分なんか正式な名称があるんだろうが、よくわからん。
「まあ、お祭り効果でしょうね」
「そうだな。うん。それでいいだろ」
難しい事気にしちゃ駄目だ。
祭りってのは大らかな気持ちでいなきゃ。
シオンさんもすっかり祭りのノリにはまってしまったようであった。
続く