「まあ、お祭り効果でしょうね」
「そうだな。うん。それでいいだろ」

難しい事気にしちゃ駄目だ。

祭りってのは大らかな気持ちでいなきゃ。
 

シオンさんもすっかり祭りのノリにはまってしまったようであった。
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その48





「……混んでるな」
「ですねえ」

相変わらず姉貴のテキ屋には客がごった返していた。

「取りあえずオレが様子見て来るわ」
「あ、はーい」

店の裏に回り込んで中を覗く。

「調子はどうだー?」
「ん」

姉貴は隅の椅子に座っていた。

「まあぼちぼちかね」
「大盛況じゃねえか」
「なに、まだまだこれからだよ」
「そうか」

態度はいつも通りだが、心は熱血しているのかもしれない。

「手伝わなくて平気か?」
「ああ。取りあえずヘルプが来てくれたからね」
「……お。シゲさんとゲンさんじゃねえか」

店を手伝っているのは町内でも有名な祭り好きの二人であった。

「二人とも自分の店のほうはいいのか?」
「いや、もう完売だとさ」
「ふーん」

一体何を売ってたんだろう。

「水着美女の販売」
「マジかっ?」

そんなんオレだって欲しいぞ?

「いや冗談。超高級和牛の安売りをしたんだと」
「……なんだ」
「なんだとはなんだ。滅多に食えるシロモノじゃないんだぞ?」
「まあ、完売したってだけで凄さはわかるけどさ」

やはり食い気より色気である。

「じゃあオレたちはどうする? 時間経ったら交代するか?」
「んー……」

姉貴は少し思案した後。

「いや、もう十分だわ。おまえらはもう好きに遊んできな」

と言った。

「いいのか?」
「ああ。せっかくの祭りだ。楽しんで来たらいい」
「姉貴……」
「ま、せいぜい上手くエスコートしてやるこったね」
「おう。サンキュなっ!」

普段は鬼みたいな姉貴も、この時ばかりは女神のように見えた。
 
 
 
 
 

「ウィース」

再びななこたちと合流。

「どうだった?」
「店は気にせず遊んで来いとさ」
「……よいのですか?」
「ああ」
「……」

顔を見合わせる三人。

「じゃ、じゃあどこに行きましょうかっ? やっぱり端から順に制覇ですかっ?」
「落ち着けななこ」

遊んで構わないとわかった途端にななこがはしゃぎ出した。

まあ気持ちはわからなくもないが。

「わたしも行きたいところあったんだー」
「おまえは散々食べ物買ってきただろ」
「た、食べ物じゃなくて。いいでしょ?」

弓塚もにこにこしている。

「まったく子供ですね」

シオンさんは冷静な様子だったけど。

「ここは的確な判断の下せるわたしの行きたい場所から……」

割とちゃっかりしていた。

「はいはい。じゃんけんで決めようぜ」

オレが判断を下してもいいが、それだと文句出そうだし。

「じゃんけんって時点でイジメなんですが」

ななこは渋い顔をしている。

こいつはグーしか出せないからなぁ。

「じゃあオレが代理でやろう」

勝つ気はまるで無いけど。

「じゃあ、行くぞ。じゃーんけーん……」
 
 
 
 
 

「当然の結果です」

シオンさんが珍しく嬉しそうだった。

「やっぱり負けたぁ……」
「まあしょうがないわな」

やる気のないオレと弓塚じゃなあ。

シオンさんに勝てそうな要素が何一つ存在しない。

「で、どこ行くのさ」
「すぐそこですよ」

言葉通り少し歩いた先で足を止めるシオンさん。

『ハズレなし 500円』

「……まさか、これ?」
「ええ」
「シ、シオン……」
「え? えと、皆さん何をそんなに驚いているんですか?」

連れて来られた出店は紐くじ屋。

名前の通り紐を引いて、その先にくっついている景品が貰えるというやつだ。

姉貴の出店には劣るがなかなか豪華な景品が並べられていた。

「こういうのってハズレなしって言いながらヘンなのしか当たらないんだよね……」

渋い顔をしている弓塚。

「そりゃおまえだからだろう」
「そ、そんな事ないもん。……多分」

運の事に関してはとことん弱気な弓塚であった。

「でもいい噂は聞かないよな」

高額景品には紐が結ばれてないとか。

「いらっしゃ〜い。よっといで〜。ヒッヒッヒッヒ……」

おまけに店を運営してるのは祭りの場よりもお化け屋敷が似合いそうなオッサンだった。

「止めたほうがいいんじゃないか?」
「いえ、問題はありません。目的の物は必ず手に入れます」

シオンさんはきりっとした表情をしてオッサンに近づいていく。

「一回お願いします」
「あいよ〜。いいのが出るといいねぇ。ヒッヒッヒ……」

金を支払った以上、もう後戻りは出来ない。

「では……」

紐を一本一本触っていくシオンさん。

「何か攻略法みたいのあるんですかね?」

ななこが尋ねてくる。

「さあ」

こんなもん運に頼るしかないと思うんだがな。

「シオンだったら勝算もなしにやらないと思うけど」
「それも確かに」

もしかしてあれか。

紐を触っただけで先についている商品がわかってしまうとか。

エーテライトみたいな細い糸でも色々出来るんだから、こんな紐だったら簡単なのかもしれない。

「む」

何本目かの紐に触れた時、シオンさんの顔色が変わった。

「――読めました」

そうして不敵に笑う。

「おおっ?」

もしかして高額商品を引き当てたのかっ?

「この程度の絡みでわたしの思考を妨げるのは不可能ですっ!」

一気に紐を引っ張るシオンさん。

がくんと商品が揺れた。

「どれだ……?」

引き当てただろう景品の周囲のものも揺れているので判別がつかない。

「……ふっ」

さらに紐を引っ張るシオンさん。

がくん。

その景品がころげ落ちてきた。

「おめでとう〜。いいモノを当てたねえ〜。ヒッヒッヒ」

オッサンが紐を外してシオンさんにそれを渡す。

「……えーと」

色々言いたい事はあったけど、まずオレはこう聞いた。

「それが欲しいものだったの?」
「ええ」

頷くシオンさん。

それをぎゅっと胸に抱きしめていた。

「そうか……」

くそう、オレもああなりたい。

じゃなくて、まさかシオンさんがそんなもんを欲しがるとは。

「意外ですねえ」
「思ってても口に出すな」

ななこの頭を叩く。

「うー」
「な、なんですかっ! わたしがぬいぐるみを欲しがっては可笑しいと言いたいのですかっ?」
「いや」

シオンさんも女の子なんだから、別にぬいぐるみが好きでも悪くはないと思うけど。

「マンボウってのが……」

そう。そのぬいぐるみは、ぼーっとした顔をしているマンボウのものであった。

しかも無駄にでかい。

「え? 可愛いじゃない。マンボウ」

弓塚はシオンさんの趣味に理解を示していた。

「可愛いですよね?」

ななこまでそんな事を言う始末である。

「……わからん」

これが女の子の世界というやつだろうか。

「まあ、とにかく目的のものが手に入ってよかったよかったと」

適当にまとめてみるオレであった。

「つ、次はわたしのっ……」
「有彦さんっ! わたしですよねっ?」
「……へいへい」
 

つーかさ、オレの行きたい場所に行くって選択肢はないのかね?
 

続く



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