適当にまとめてみるオレであった。
「つ、次はわたしのっ……」
「有彦さんっ! わたしですよねっ?」
「……へいへい」
つーかさ、オレの行きたい場所に行くって選択肢はないのかね?
『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その49
「こっちですよ〜。みなさ〜ん」
ななこがにこにこ笑いながら走っていく。
「うう、やっぱり……」
一方、ななこ代理のオレにじゃんけんで負けた弓塚は落ち込んでいた。
こいつはオレが親切にパーを出すと言ってやったのにグーを出して負けたのだ。
「人を信用しない罰だな」
「……だって乾くんだもん」
「なるほど」
実に納得できる理由であった。
「こっちですよー」
ななこはさらに先へと進んでいく。
「こらこら、人ごみで走るんじゃないの」
人を掻き分け進んでいくので結構大変だ。
「はぐれないようにしないとな」
オレは全員がはぐれないようしっかり顔を確認した。
ななこは少し先を進んでいる。
「〜♪」
シオンさんを抱えて上機嫌のマンボウ。
違う。マンボウのぬいぐるみを抱えて上機嫌なシオンさん。
美人がそんなヘンテコなもんを抱えているもんだから、周囲の視線が集まりまくっていた。
まあ、本人はまるで気にしてないみたいだったけど。
「はて」
誰か足りない。
「弓塚、どこに行ったんだ?」
なんと、弓塚の姿が見当たらないじゃないか。
「乾くん?」
「あいつドジだからな。どっかですっ転んで置きあがろうとしているうちにはぐれたか、食い物につられて……」
「乾くんってばあ」
「ぬおおっ? 声はすれども姿は見えずっ」
どこへ行ってしまったんだ弓塚っ。
「あのツインテールはどこにっ?」
「人をそこしか特徴ないみたいに言わないでよ〜」
左右の髪を手で握っていつもの髪型を再現する弓塚。
「おお。そこにいたのか」
いや、もちろん最初から知ってたけど。
弓塚はむっとした顔をしていた。
「酷いよ。乾くんが下ろしたほうがいいっていうから下ろしたのに」
「いや、でもそのおかげで知り合いに声かけられないだろう?」
むしろ会ってすらいない気もするけど。
「戻そうかなぁ」
うなだれる弓塚。
「いやいや、髪下ろしてたほうがスゲエ美人に見えるぞ?」
「え? そ、そう?」
「まあ冗談だけどな」
「もうーっ!」
「はっはっは」
やっぱり弓塚をからかうのは面白いなあ。
ななこと互角かそれ以上かもしれない。
「いや悪かった悪かった。でも美人ってのはホントだからな」
「そんな軽口ばっかり言ってるから乾くんはもてないんだよ」
ぐさっ。
「な……何気に酷い事言うな」
「仕返し」
にこっと笑う弓塚。
「コノヤロウ」
げんこつでこめかみを押さえグリグリしてやる。
「い、痛いよ、止めってってばー」
「ふっふっふ、誰も助けに来ないぜっ」
さて、そろそろここいらでシオンさんかななこのツッコミが来るだろう。
むしろ今まで来ないのが不思議なくらいである。
「……あれ?」
誰も来ない?
「っていうか誰もいない?」
いつの間にか、シオンさんもななこもいなくなってしまっていた。
「えっ? えっ? ま、まさかはぐれちゃったの?」
きょろきょろと周囲を見回す弓塚。
「……しまった。バカなことやってたからだ」
「乾くんのせいだよ」
「うぬ」
実にまったくその通りである。
オレとした事が迂闊だった。
「ど、どうしよう?」
「うーむ」
さてどうしたもんか。
「二人とも美人だからナンパとかされてるんじゃないかなぁ」
「それは心配ないだろ」
シオンさんだったらナンパされても突っぱねるだろうし。
「ななこにいたっては心配する必要すらないからな」
「そう?」
「ああ」
断言してもいいだろう。
「……うーん?」
首を傾げている弓塚。
いや、そんなら真面目に考えられてもなあ。
「やっぱり心配だよ。探しに行こう?」
「まあちょっと待て」
こういう場合、探そうとして下手に動くから余計に遭遇しにくくなってしまうのだ。
「こういう時の便利な技がある」
「そうなの?」
「ああ。オレは実は召喚術を使えるんだ」
どんと胸を叩く。
「ふーん……」
「あ。その顔はまるで信用してないな」
「だって、さっきから嘘ばっかり言うんだもん」
どうやらさっきのを根に持ってるらしい。
「今度のは本当だ。まあ見てろ」
取りあえず出店から少し離れた藪のほうへ移動する。
「アブ・ドル・ダム・ラル、オム・ニス・ノム・ニス、ベル・エス・ホリマク! 来たれ青きななこ!」
「……」
数秒の間。
「はーい、呼びましたー?」
「わあっ?」
オレと弓塚の間に入るようにななこが現れた。
「び、びっくりしたぁ……」
よっぽど驚いたのか、尻もちをついてしまっている弓塚。
普段の制服姿だったらパンツ丸見えだっただろう。
実に惜しい。
「有彦さん、今の意味不明の呪文はなんですか?」
「いや気にしないでくれ」
適当にマンガのやつを真似しただけである。
「えと……今のってホントに乾くんがななこちゃんを召喚したの?」
「当然だ」
「厳密に言うと違うんですが、わかりやすく言えばそうですね」
「へえ……」
なんだか知らないが弓塚の目が輝いていた。
「じゃあ、カボチャの馬車とか出せるの?」
「いやいや何でも呼べるわけじゃないから」
しかも何故にカボチャの馬車。
「……ああ、シンデレラか」
理由を言われる前に納得出来てしまった。
「ふ、深い意味はないんだからね?」
弓塚は苦笑いしていた。
「残念だがオレが呼べるのはななこだけだ」
「そうなんだ」
「ああ。こいつは精霊だからな」
こういう時じゃないと思い出さないけど。
「そんな事より。急にいなくなってびっくりしましたよ、有彦さん」
むっとした顔をしているななこ。
「ああ、悪い。すまなかった」
オレは大人しく謝った。
「……え、いや、そんな普通に謝られても」
「い、乾くん、何かヘンなものでも食べた?」
「だあ、おまえらオレをなんだと思ってやがる」
自分が悪いと思った時は素直に謝るのが一番。
オレの場合こういう反応をされる時のほうが多いけどさ。
「あはは、ごめんごめん」
「まあいいさ」
こういうのは身内同士でよくやる悪ノリである。
「あ、ねえななこちゃん。シオンは一緒にいなかったの?」
「あ、はい。一緒にいました……けど」
何故か目線を泳がせるななこ。
「けど何だ?」
「……何も言わずに飛んできてしまったので、今頃戸惑っているかもしれません」
「アホ」
相変わらずの駄馬にオレはムチを与えるのであった。
続く