「あ、ねえななこちゃん。シオンは一緒にいなかったの?」
「あ、はい。一緒にいました……けど」

何故か目線を泳がせるななこ。

「けど何だ?」
「……何も言わずに飛んできてしまったので、今頃戸惑っているかもしれません」
「アホ」
 

相変わらずの駄馬にオレはムチを与えるのであった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その50





「うー、有彦さんに呼ばれたから来たのに」

頭を押さえているななこ。

「まあ、それはそうなんだけどさ」
「だいたい、はぐれたのは有彦さんたちのほうじゃないですかっ」
「……うぃ、すいません」

今のオレはななこのミスをどうこう言える立場じゃなかった。

「どうしましょう? わたし一度戻ってみましょうか?」
「うーむ」

ななこに探させても見つけられる気がしないんだよなあ。

「はぐれたのはついさっきなんだから、すぐ傍にいるかもしれないよ」
「だといいけどな」

周囲を見回してみる。

シオンさんの普段着だったら目だって見つけやすかったかもしれない。

だがあいにく今は浴衣姿。

「……ウォーリーを探せみたいだな」

集団内のたった一人を探すというのは結構難しいものなのだ。

歩いている人はほとんど浴衣姿だし。

何か他にインパクトのある特徴がないと。

「あ」

あった。

「弓塚。ななこ。シオンさんを探そうと考えるんじゃない」
「え?」
「じゃあどうやって探すんです?」
「もっとわかりやすいもんがあるだろう」

あんなもんを抱えて歩いているのはまず一人しかいない。
 
 
 
 
 

「シオンさん」
「……ああ。有彦」

シオンさんはオレたちの姿を見るとにこりと笑った。

「ごめんなさい。急にいなくなってびっくりしましたか?」

ななこが申し訳なさそうな顔をして尋ねる。

「いえ。有彦たちもいませんでしたし、おそらくそちらへ呼ばれたんだろうと思っていました」

さすがにシオンさんは冷静だった。

「これが弓塚だったら大変だったろうなあ」

なんせ生粋の不幸娘だし。

「ど、どういう意味っ?」
「乾くーんとか半泣きで呼んでるに違いない」

それで変な男に絡まれたりとか。

「そんな事ないもんっ!」
「そうですよ。さつきだったらはぐれた事に気付かず食べ物に目を奪われていたに違いありません」
「……シオン」

弓塚は落ち込んでいた。

「いえ、冗談ですよ?」
「なんだかシオンが前にも増して毒舌になった気がする」
「そんな事はありません。わたしの言葉は有彦に比べればとても甘いですよ」

どうやらシオンさんはオレの弓塚へのからかいぶりを参考にしているようである。

「乾くんっ! シオンが悪い事覚えちゃったじゃないっ! どうしてくれるのっ?」
「いや、どうしろと言われてもなあ」

元々シオンさんがいぢめっ子なんじゃないか?

「まあまあ、そんな事よりも」
「そ、そんな事とか言われた……」

いや、弓塚がいぢめられっ子なだけか。

「シオンさん、わたしたちがすぐ見つけた事を全然驚いてませんね」

ななこが不思議そうな顔をしている。

「ああ、はい。あなたの索敵能力を使ったんでしょう?」
「え? いや、そんなもの使ってませんが」

そもそもそんな大層な能力あるのかこいつ?

「違うのですか?」

今度はシオンさんが不思議そうな顔をしていた。

「ああ、もっと簡単な理由」

シオンさんの持っているモノを指差す。

「そのマンボウを探したんだ」

そう。シオンさんの持っているぬいぐるみのマンボウだ。

子供ならともかく、シオンさんくらいの年でそんなものを持って歩いている人間はほとんどいない。

その奇妙なマンボウの外見のおかげですぐに発見できたというわけだ。

「……なるほど」

シオンさんは複雑そうな表情であった。

「つーかさ、それ持ってると歩きづらいだろ」
「まあ、それは仕方の無い事ですよ」

でかいぬいぐるみを抱えているせいで、どうしても視界が下向きになってしまうのだ。

「いや、だからオレが持ってるよ、それ」

女の子の体だと大変だろうが、男のガタイならまあ余裕って感じだ。

「有彦が……ですか?」

いぶかしげな顔をするシオンさん。

「いや、別に取ったりしないから。家でちゃんと返すよ」
「しかし」
「オレは純粋にもっと祭りを楽しんで貰いたいんだ」

荷物のせいで祭りを楽しめなかったなんて事になったらもったいないからな。

「……わかりました。ならば」

オレにぬいぐるみを渡してくれるシオンさん。

「サンキュー」

取りあえず抱え込むオレ。

「……っ」

シオンさんはオレを見てなんともいえない表情をしていた。
「な、なに?」
「いえ、その……」
「い、乾くん、駄目……それっ……」

弓塚もなんだか変だった。

「なんだよ、どうしたんだ?」

ななこのほうを見る。

「こ、こっち見ないで下さいーっ! あ、有彦さんがマンボウを……マンボウ有彦……あはっ、あははははっ」

ななこはわけのわからない事を言って爆笑していた。

「あ、あはは、駄目……限界っ……あはははははっ」

弓塚もつられて笑い出す。

いや、我慢していたものが堪えられなくなったというのが正しいだろう。

「なんだぁ?」

つまりあれか? 

オレがマンボウのぬいぐるみを抱えている姿が面白いと?

「……」

自分で自分の姿を想像してみる。

「ブッ」

いかん、ちょっと想像しただけでヤバイ。

はっきり言ってただの変な人だ。

「……くっ、くくく……」
「シオンさんまで……」

自分でやったこととはいえ、なんだか急に恥ずかしくなってきてしまった。

「……むん」

片手でマンボウを掴み、カバンを背負うように後ろへ回す。

これならまあ、変には見えないだろう。

「あ、や、止めちゃうんですか?」
「当たり前だ」

仕込んだネタならともかく、こういう突発的なもので笑われるのは面白くない。

「残念……」

さっきは駄目駄目言ってたくせに、残念そうな弓塚。

「いや、予想外のアクシデントでしたね」
「うるせいやい」

くそう、オレはマンボウのぬいぐるみなんか作った奴を恨むぞ。

「まあ、でもこれではぐれても安心だとわかったわけだ」
「そうだね。はぐれたらマンボウに集合」
「そういう事」

背中に抱えているおかげで高い位置になったから、よく見えるだろう。

「マンボウ有彦……」

ななこはまだ笑っている。

どうやら余程ツボにはまってしまったようだ。
 

「だあ、もうテメエの行きたいところいかねえぞっ?」
 

オレは苦笑しながらななこにそう叫ぶのであった。
 

続く



あとがき
気付いたらもう50話です。なんだかあっという間ですね(汗
その記念(?)の話がマンボウとは……
いや、わたしは北杜夫氏好きなんでいいんですが(謎
ななこSGKはネタの続く限り続く予定です。
気長にお付き合い頂ければ嬉しいです。
この作品的なノリで有弓小説を妄想してるけど需要がなさそうな罠(w;


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