「……はっはっは」

本当に呼ばれると滅茶苦茶恥ずかしかった。

しかしこれで大分オレの株も上がったんじゃないか?

「どうだ見てたかおまえら……」

そう思って後ろを振り返る。

「っていねえし!」
 

妙に静かだと思ったら、三人娘らはどこぞへと姿を消してしまっていたのであった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その52





「あのー、あいつらとは一体?」

不思議そうな顔をしている琥珀さん。

「いたろ? オレの後ろにさ」
「いえ? 乾さんがわたしに声を掛けてきた時には既にお一人だったような……」
「……おいおい」

それじゃ最初っからじゃねえかおい。

「お連れさまがいらしたのですか?」
「ああ。ちょっとな」
「申し訳ありません。足止めをしてしまったのでしょうか」
「いや、全然そんな事はない。あいつらが勝手にいなくなっただけだから」

ヨーヨー吊りをやるって言ってたくせに、どこに行きやがったんだろう。

「くそう、何のためのマンボウなんだ」

目印にならないならば、ただのマヌケな巨大アクセサリーに過ぎなかった。

「探しに行ったほうがよいのでは?」
「そうだなぁ。名残惜しいが」

もうちょっと琥珀さんたちと話したかったんだが。

「行くわ」

オレはマンボウとヨーヨーが五つ入った袋を持って立ち上がった。

「本当にありがとうございました、師匠」

ぺこりと頭を下げる翡翠さん。

「いやいや気にしなくていいから。あと、師匠って呼ばなくて別にいいから」
「そうですか……」

何故か残念そうだった。

「お礼に何かしたかったんですけどねー」
「いや、そういうのを期待してやったわけじゃないしな」
「そのうち何かいたしますよ」
「そうか」

まあ期待しないで待つとするかね。

「チョコバナナでも食べてあげようかなと思ってたんですが」
「そいつはデンジャーだな」

琥珀さんの事だから、きっと凄い事になるんだろう。

「チョコバナナが食べたかったのですか? 姉さん」
「あ、ううん。こっちの話」
「そうそう」

わからないほうがきっと幸せだろう。

「太くて熱いのをちゅぱちゅぱとしゃぶりたかったんですけどねー」

翡翠さんに聞こえないような声で耳打ちしてくる琥珀さん。

「敵わないなあ、ほんと」

遠野のやつも大変だろう。

「まあ、とにかく行くわ」
「はい。どうかお気をつけて」
「どうもありがとうございました〜」

そんなこんなでオレは二人と別れた。
 
 
 

「……さて」

しばらく歩いて立ち止まる。

「このオレを置いて行きやがるとはな」

気付かなかったオレもオレだけどさ。

「見つけたら取りあえずななこのやつを叩いて……」

などと考えていると。

「ん?」

向こうから歩いてくる三人組を発見した。

「おーい」

駆け寄っていくオレ。

「あ……有彦さん……」
「あん?」

なんだか、ななこの様子がおかしかった。

「乾くん……聞いてよぉ〜!」

弓塚もやたらと情けない顔をしていた。

「……」

一方シオンさんは額に皺を寄せて、不機嫌そうな顔をしている。

「なんだなんだ? 何かあったのか?」
「そうなんですよっ。あんなの詐欺です。酷いです」
「……いや、順序を追って話してくれ。まず、おまえらはどこに行ってたんだ?」

それがわからないと話にならない。

「えとですね。ヨーヨー吊りの出店だったんですが、わたしが最初に見つけたのは他の場所のだったんですよ」
「ってことはそっちの出店に移動してたって事か?」
「……それが全ての失敗でした」

ためいきをつくななこ。

「だいたいわかった。紙フックが異様に弱かったりヨーヨーのゴムがやたら引っ掛けにくかったりとかそういうんだろ」
「はい……」

つまりまあ、あんまりタチのよくない店だったわけだ。

「祭りでは店選びというのは重要なポイントなんだ。きちんと店を見極めなかったおまえが悪いな」

置いていかれた恨みもあるのでオレは少しキツイ事を言った。

「……うう」

さらに落ち込むななこ。

「わたしも挑戦したけど駄目だったんだ。シオンも」
「……あれは完全に客の事を考えていない店でした。取れるわけがありません」

シオンさんが駄目だったんじゃ、よっぽど酷かったんだろうなあ。

「姉貴が見つけて次回からはいなくなってるだろうから安心してくれ」

そういう仕事はアレの独壇場だからな。

「残念です……。ヨーヨー欲しかったんですが」
「いや、ヨーヨーならここにあるんだけどな」

持っていた袋を見せる。

「あっ……ほ、ほんとだっ? どうしてっ?」
「置いてかれた店で取ったんだよ」
「……イカサマ?」
「人聞きの悪い事をいうな。技術で手に入れたんだよ」

シオンさんにひとつ投げる。

「よいのですか?」
「いらないならいいけど」
「いえ、頂きます」
「そうか」

少し表情から厳しさが消えた。

「悪い店ばっかりじゃないって事だよ」
「そうだね。乾くんを置いていったバチがあたったのかな」
「きっとそうに違いない」

弓塚にもひとつ。

「……」

にこにこ。

「おまえにはやらん」
「そ、そんなあっ?」

ずがーんとかそういう擬音語が合いそうな表情をしているななこ。

「いや、冗談。やるよ」

まあ置いてかれた恨みは今のでチャラにしてやろうじゃないか。

なんて大人なんだオレ。

「ほれ」

ひとつ差し出す。

「どうもー」

受け取ろうとするななこ。

「……あ」

ななこの表情が曇った。

「あ」

ヨーヨーというのは輪ゴムの先の丸いわっかに指をはめて遊ぶものである。

そして言うまでもないだろうが、ななこの手は蹄なのだ。

「えと……その」
「ちょっと待ってろ」

オレはポケットを探った。

「ん」

さっきみんなで食ったやきそばのパックを止めていた輪ゴムがあった。

「これをこうしてだな」

先端のわっかに輪ゴムを結び、大きなわっかを作ってやる。

「ほれ」

これなら腕を通してでも余裕で入るだろう。

「あ……ありがとうございますっ」

やっとななこの表情が明るいものへと変わった。

「ったく」

こいつが落ち込んでるとらしくないんだよな。

「うふふふふふふふ」
「ふふふふふふふ」
「……そこ、怪しい笑いを立てるんじゃない」

笑っているのはもちろんシオンさんと弓塚である。

「いえ、わたしはただヨーヨーを楽しんでいただけですよ?」

そう言ってぱしぱしと手で弾くシオンさん。

「そうそう。ヨーヨーって楽しいねー」

弓塚も真似してそんな事を言っていた。

「……そいつぁよかったな」

余計な事を言うと墓穴を掘るだけなので、オレはそう言うだけに留めておいた。

「えへへへ……えいっ」

ななこが勢いよくヨーヨーを振る。

ぱぁんっ!

「……そうか、恩を仇で返すってか?」

ヨーヨーはななこの腕からすっぽ抜け、オレの顔面にヒットしていた。

「え? い、いえ、決してそのような事は……ちょ、ちょっとタンマ……うわーん!」
「待てこの!」

逃げ出すななこを追いかけるオレ。

「うふふふふふふ」
「ふふふふふふふ」
「……だからだなぁ」
「ヨーヨーって楽しいねっ」
「ええ、まったくです」
 

シオンさんと弓塚はどこまでも楽しそうであった。
 

続く



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