何話してるんだよオレら。
などと自分にツッコミを入れてみる。
オレもかなりアホだ。
ひゅるるるる……どーん!
とにもかくにも、オレたちは心ゆくまで花火を堪能したのであった。
『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その55
「おーい」
花火が終わりしばらくした後、オレは一人で姉貴の出店へ戻っていた。
「ん、みんなはどうした?」
姉貴は一人で出店を片付けていたようだ。
「先に帰らせた。荷物も結構あったからな」
オレの言葉を聞いて大きくため息をつく姉貴。
「そこでちゃんと送ってやるのがオマエの役目だろう?」
「途中までは送ってやったさ。あいつらならオレがいなくたって大丈夫だって」
「……で、何しに戻ってきたんだい? 余った景品ならやらないぞ」
ダンボールに余った景品を仕舞う。
「いや、片付けを手伝おうかと思って」
「またずいぶんとらしくないねえ」
「ほとんど仕事しなかったからな」
結局オレはみんなを連れて遊んでただけだったし。
「別に構わんのに」
「気分の問題だ。遠足は帰るまでが遠足っていうだろ」
その理屈で、祭りも片付けが終わるまでが祭りと言えるんじゃないだろうか。
「……好きにしな」
「おう」
オレは出店の鉄柱を解体し始めた。
他の出店も同じように片付けられていき、賑やかだった光景がみるみるうちに寂しくなっていく。
「この喪失感がなんともいえん」
夢の終わる瞬間というかなんというか。
「なら手伝わなきゃいいだろうに」
「いや、別に嫌いじゃないんだよ。こういうのは」
終わりがあるからこそ始まりがある。
明日からまた、日常が始まるのだ。
「いつまでの夢の中じゃいられないって感じ?」
「意味がわからんぞ」
「オレもそう思う」
自分で言っててよくわからなかった。
「まあ、つまらん話はいいさ。今日の祭りはどうだ? 楽しかったか?」
「ん」
思い出してみる。
「ななこはやたらとはしゃいでたな」
いつも落ち着きないやつだけど、今日は特にそうだった。
けどまあ、はしゃいでたからこそ祭りを堪能出来たと言えなくもない。
「弓塚とシオンさんも満足してたみたいだし」
弓塚は祭り特有の食べ物を。
シオンさんは景品を。
「みんな楽しんでたんじゃないかな」
最後まで笑顔だった気がする。
「それはおまえも含めてかい?」
「まあな」
オレ自身がどこかに行きたいと主張はしなかったが、みんなに付き合っていただけで結構楽しめた。
「あいつらといると退屈しねえから」
アクの強いのばっかだしな。
「そりゃよかった」
姉貴は妙に嬉しそうだった。
「なんだよ気持ち悪いな」
「いや深い意味はないさ」
「そうか」
そんな事を話しているうちに、出店の解体はほとんど終わった。
「後はどうするんだ?」
「置いておけば明日町内会で片付けてくれるさ」
「了解」
立ち上がるオレ。
「帰るか」
「おう」
神社の長い階段を二人で降りて行く。
「つーかさ、姉貴はずっと店番でよかったのか?」
「まあはしゃいで回るってキャラじゃないしねえ」
「確かに」
姉貴がそんな事してたら引くぞ思いっきり。
「あたしはあんたらが何やってるか想像してただけで面白かったさ」
「想像ねえ」
「例えばおまえだけ置いてきぼりにされるとか」
「……」
いかん、当たってる。
「そんな事別になかったぜ。はは、ははははは」
自分で言っててなんだが、滅茶苦茶胡散臭かった。
「……おいおい、ホントに置いてかれたのか?」
「いや、あいつらのほうが勝手にいなくなったんだって」
「自覚のない迷子は厄介だなぁ」
「うるせえな」
「ふふふふふふ」
姉貴はオレをからかうように笑っていた。
「そのはぐれている間にちょっとした親切を行ってきたんだぞ」
「ほう?」
「ヨーヨーが取れなくて困っている美少女に有彦式取得法を伝授してやった」
「男だったら見捨ててただろう?」
「そりゃ当然だ。誰だってそーする」
「そうだな。あたしもそうする」
今度は二人揃って笑う。
「おまえはヨーヨー取らなかったのか?」
「みんなに配ってやった。……そういやまだ余ってるな」
手に持っていた袋から残りのヨーヨーを取り出すオレ。
「いるか?」
「貰っておこう」
「よっと」
赤い色のヨーヨーを投げてやった。
「ひとつくらいはミヤゲモノが欲しかったから丁度いいな」
「そりゃよかった」
オレも残った最後のひとつを指につける。
ぱしぱし、ぱしぱし。
ヨーヨーを弾きながら歩いていく。
「ああそうだ。花火すげえよく見れたぜ。サンキュー」
ふと思い出して礼を言っておいた。
「おまえ一人だったらどうでもいいが、他のみんなには是非見て貰いたかったからね」
「へいへい」
ぱし。
ヨーヨーを手の甲へと移動させ、ころころと転がすオレ。
「そうやさぐれるなって」
「別にやさぐれちゃいねえさ」
姉貴の毒舌なんていつもの事だし。
「おまえってななこたちに甘いよな」
オレに対する態度と明らかに違う気がする。
「そりゃまあ女の子だからね。おまえがヨーヨーの子を助けたのと一緒だよ」
「そうか?」
「後はまあ……あたしが出来ない分、可愛い格好してもらったりはしゃいだりして貰いたいってとこかね」
姉貴もヨーヨーを弾く手を止めていた。
「可愛い格好はともかく、はしゃぐくらいしたっていいだろ?」
「まあ、なんつーかね、自分より他の誰かが楽しんでるのを見てるほうが嬉しいわけだよ。あたしももう年かね」
「そこまで差はないだろ?」
オレがそう言うと姉貴はくっくっくと笑った。
「なんだ? 面白い事言ったつもりはないぞ?」
「まさかおまえがあたしを擁護してくれるとは思わなかった」
「そんな大したもんじゃねえって」
いつものツッコミの延長線なのに。
「おまえにも感謝してるよ。有彦」
「……ばか。なにらしくねえ事言ってるんだ」
と、そこで気付いた。
姉貴の息が妙に酒臭い事に。
「そうか。飲んでたんだな?」
多分源さんたちとの付き合いで飲まざるを得なかったんだろう。
こいつは外見の割には酒に強くない。
見た目がそんなに変わらないので周囲からは酒豪と思われているみたいだが。
実際は普段口走らないような事を言い出す、まさに酔っ払い状態なのである。
「何だよ。飲んじゃ悪いってのか? あたしゃ立派な大人だぞ?」
「……あーも駄目だこりゃ」
よくよく見てみれば、目の焦点も合ってないし、足元もやたら危なっかしかった。
「片付け手伝いに来て良かったな」
下手すりゃそのへんの道路で寝入ってしまってただろう。
「ほれ、おぶってやるから背中乗れ」
「何をワケのわからん事を。あたしを誰だと……」
「てりゃ」
足払いをかける。
ただでさえ危なっかしい足取りなので、簡単にバランスを崩す事が出来た。
「よっと」
オレはそのまま背中を向け、姉貴を乗っけてしまう。
「こら……有彦」
「たまにはオレの言う事を聞け」
ぱしっとヨーヨーを顔に当ててやる。
「……わかったよ」
そう言って姉貴は目を閉じた。
「つーか滅茶苦茶重いんだけど。太ったかおまえ?」
「殺すぞ?」
「……いや、冗談です、はい……」
そうして二人、帰路を辿る。
「……しまった」
姉貴をおぶった状態なので玄関を開けるのも大変そうだ。
「どうしたもんかなあ」
などと思案していると、玄関のほうが勝手に開いた。
いつからウチは自動ドアになったんだ?
「おかえりなさい有彦さん〜」
「ななこか」
「はい。気配を感じたので開けてみました」
「そうか。感謝する」
この行動はとてもありがたかった。
「一子さん、どうしたんです?」
「ん? ああちょっと酔っ払っててな」
「乾くーん。お風呂沸いてるよー。入るー?」
「祭りで買ったものの残りもありますよ。食べてはいかがですか?」
弓塚とシオンさんも玄関へ向かってくる。
「ん〜……」
姉貴が薄く目を開き、しぱしぱさせていた。
「いいから寝てろ。部屋に連れてってやるから」
靴を脱ぎ捨て姉貴の部屋へと向かう。
「なあ、有彦」
ほとんど寝言のように姉貴が言った。
「家族ってのは……いいもんだなぁ」
オレは玄関にいるみんなの姿を見てから答えた。
「そうだな。いいもんだ」
続く
もちろんまだななこSGK続きますけども。
しばらくの日常のあと何かやりたいですねー。
1 ななこの話
2 シオンさんの話
3 さっちんの話
どれにしようかなーと適当に↓やWEB拍手で答えていただけると嬉しいですw