「あははシオンってば……」

それを聞いてまた笑う弓塚。

「さつきっ……!」
「わ、シオンが怒った〜」

笑いながら逃げていく弓塚を、シオンさんが追いかけていく。

「……平和だねえ」
「ですねえ」
 

今日はのんびりまったりとした一日になりそうであった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その57










「ふいー」

部屋に戻ってしばしの休息。

「有彦さーん」

しばらくしてななこが部屋に入ってきた。

「どうした?」
「せっかくお休みなんだから、ゲームでもして遊びませんか?」
「……ゲームねえ」

こいつゲーム好きだけど滅茶苦茶に弱いんだよなあ。

「まあ別に構わんぞ」

どうせ他にやる事もないし。

「ほんとですか? じゃあこの間やったレースゲー……むおっ?」
「なんだ、どうした」

言葉の途中で頭を押さえるななこ。

「……えー」

それからやたらと情けない顔を上げる。

「なんか、マスターが呼んでまして……」
「仕事か?」
「ええ。多分雑用だと思うんですけど、行かないわけにもいきませんし」
「む……そうか」

何気に仕事かけもち状態なんだよな、こいつ。

「せっかくのお休みなのに」
「帰ってきたら遊んでやるよ」
「……はーい」

ななこは壁をすり抜け出掛けていった。

「むぅ」

一人になってしまった。

「一人でゲームっつーのもなあ」

対戦するならともかく、一人でやるって気分ではない。

シオンさんはもう出かけてるだろうし、姉貴は寝てるだろうし。

「……そうだ。弓塚を呼ぼう」

ああ見えて意外とゲーム強かったりするかも。

「そうと決まれば早速」

弓塚たちの部屋へ向かう。

「おーい」

そのままドアを開けようとして。

「……っと」

止めた。

「一応女の子の部屋だからな」

取りあえずノックをする。

こんこん。

「……ん」

返事がない。

「まだ下にいるのか?」

ノブを回すとあっさりと開く。

「おーい」

ドアを開けてぎょっとした。

「んー……」

弓塚が無防備な姿で寝転がっていたのだ。

「そういやさっき寝ようかなとか言ってたっけ」

まさか本当だったとは。

「うーむ」

やたらと幸せそうな寝顔。

ドアの位置からだと見えそうで見えないなんともアレなアングルである。

「もうちょっと左にずれてくれればなぁ」

ころん。

弓塚がオレの言葉に従ったかのように寝返りを打った。

「……白か」

さすがに二度も三度も履いてないわけがなかった。

「……」

こう無防備な姿を晒されてしまうと、なんだか妙な気分になってしまう。

「ここで襲うほどオレはオオカミじゃないぜ」

などと自分に言い聞かせるように呟いて踵を返した。

「……ん……はあっ……」
「うぐ」

やたらと艶かしい弓塚の吐息。

「おいおい、勘弁してくれよ」

そんなんされたら去るに去れないじゃねえか。

「あ……ん……っ」

むしろアレか?

弓塚は実は起きていてオレを誘ってるとか?

「……ふ」

まあそんなわけないよな。

と思いつつも振り返ってしまうオレ。

「……く……うっ」
「……弓塚?」

さっきまでの表情と違い、何か辛そうな感じの弓塚。

「あ……はぅ……」

そして額には汗がにじんでいた。

「お、おいっ。大丈夫か弓塚っ!」

慌てて駆け寄るオレ。

「あ……はぁっ」

弓塚はなおもうなされていた。

額を押さえてみる。

熱はないようだった。

「……くそっ」

もしかして、吸血鬼特有の何かの症状なんだろうか。

「おい、弓塚! 弓塚!」

体を揺する。

「……ん……うう……」

弓塚の目がうっすらと開いた。

「大丈夫かっ? おいっ?」
「……あれ……いぬい……くん?」

目線の焦点が合わないまま体を起こす。

「どっか体の具合でも悪いんじゃないか?」
「……えー、あー、んー」

ぱちぱちとゆっくりまばたきをする。

「なんか……巨大な肉まんに押しつぶされる夢見てた……」

がく。

「あのなあ……」

そんな下らない夢でうなされてたんかい。

「って! 乾くんどうしてここにっ!」

弓塚が今更のように叫んだ。

「いや、ゲームでもやろうかと思って呼んだらさ。なんかうなされてたから」
「……あ、そ、そうなんだ」
「他は別に何もしてないぞ」

先に寝顔やらなんやらを観察した事は端折っておいた。

「そっか……ごめん」
「いやいや」

こっちもアホな事想像してたしな。

「えっと……ゲームだっけ?」

スカートの裾を直しながら尋ねてくる弓塚。

「おう。ヒマだったらやろうぜ」
「どんなのがあるのかな?」
「格ゲーなら大抵のもんはあるぞ」
「……パズルゲームとかない?」

どうやら格ゲーは苦手らしい。

「古いのでよければ」
「じゃあそれで」
「わかった」

立ち上がるオレ。

「そうそう。顔洗ってから来いよ。よだれの跡があるぞ」
「うそっ!」

慌てて口元を触る弓塚。

「冗談」
「も、もうっ!」
「はっはっは」

どうやらいつもの弓塚の調子に戻ったようだ。

よかったよかった。

「じゃあ待ってるからな」
「うん」

先に部屋へと戻るオレ。

取りあえずゲームを起動して待つ。

「おまたせー」

すぐに弓塚が現れた。

「おう」
「……あれ? ななこちゃんは?」

きょろきょろと周囲を見回す。

「いや、なんか用事だとさ」
「ふーん」

ちょこんと座る弓塚。

「そっかー」
「いや、何が?」
「ううん。それじゃ対戦しよっ」
「ああ、うん」

一瞬何か違和感を感じたけれど、取りあえず気にせずにゲームをやることにした。
 
 
 
 
 

「……なかなかやるな」
「乾くんこそ」

何戦か行ったが、オレと弓塚の腕はほぼ互角だった。

オレが勝てば弓塚が勝ち、弓塚が勝てばオレが再び勝つ。

久々に熱い対戦である。

「ちょっと休憩しよっか」
「ん、そうだな」

コントローラーを置く。

「いつもはななこちゃんと対戦したりしてるの?」
「まあな。あいつ弱いけど」
「じゃあ、わざと負けてあげたり?」
「んー。時と状況と相手による」

遊びでやってる時はわざと負けたりもするが、向こうが真剣な時は真剣勝負だ。

「乾くんって実は結構真面目だよね」
「興味がある事だけな」

勉強とかは本当に必要最低限しかやってないし。

「あはは、確かに」

くすくす笑う弓塚。

「優しいところもあるし」
「……そうか?」
「そうだよ。さっきだってわたしを助けようとしてくれたでしょ?」
「あれは……まあ」

多少後ろめたいところもあったわけで。

「あれを見て放置するわけにもいかんだろう」
「そんなことないよー。路地裏に隠れ住んでた時なんて、苦しくて倒れてても誰も助けてくれなかったもん」

弓塚はどこか遠い目をしていた。

「……弓塚」

やっぱりさっきのは本当に苦しんでたんじゃないのか?

「乾くんは優しいよ」

弓塚は断言するように言った。

「だから勘違いしてもいいかな」
「な……何をだ?」

一瞬視線を下に向けて、それから上目遣いでオレを見る。
 

「わたしの事、助けてくれるよね?」
 

そう言って笑う弓塚の口には、長く尖った牙があった。
 

続く



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