「はっはっは。これでオマエの運命はまさにオレの手中というわけだな」

今までよりもこいつの弱点に近づいた訳だ。

これさえ持っていればこいつの運命は全てオレが握っているも同然である。

「うわ。有彦さんがサイテーな発言をっ! 鬼畜で外道でコンコンチキですよっ」
「……冗談だっつーに」

そんな言い方する事ないだろいくらなんでも。

「とにかく、姉貴を待たせるわけにはいかねえんだからな。行くぞ」
「あ、ちょっと待ってくださいよ〜」
 

オレはポケットにななこ本体を投げ入れ、再び現場へと自転車を走らせるのであった。
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その6




「とうつきー」
「遅い」

到着したオレたちを向かえたのはタバコをほとんど根元まで吸いかけている姉貴の姿。

「その吸い方は体に悪いぞ」
「これはシガレットだ」

そう言ってバリボリとそれを食べてしまった。

「……何故にシガレット」

こいつはこれでもかってくらいの愛煙家だったはずなのだが。

「工事現場でタバコもアレだろう」
「まあよくわからんが一応頭は使ってるんだな」

すこんっ!

「……チョークじゃねえんだから」

オレの頭にシガレットが突き刺さっていた。

「ったく」

引き抜いてそれを投げ返す。

「いくらでもあるぞ」

両の手にシガレットを構える姉貴。

「やってみろ」
「いい度胸じゃないか」

互いにシガレットを投げつけ、受け止め、避け、投げ合う。

「いてえっ」

たかがシガレットと言っても当たるとそれなりに痛い。

「コノヤロウ!」
「ふん」

何度か受け止めて集めたシガレットを一気に投げつけてやったがあっさり避けられてしまった。

「やるじゃねえか……」
「オマエの攻撃に食らってやるあたしじゃないよ」
「あのう、漫才はいいですからそろそろ仕事を」

そこでななこがそんなツッコミを入れてきた。

「……」
「……」

まさかこいつにつっこまれるとは。

なんたる失態。

「うわ、馬がまともな発言をっ」

とりあえずオレはさらなるボケで返してみた。

「だから馬じゃないですってばー」
「キリがないから止めとけ」
「……そうだな」

これじゃいつまで経っても話が進まないからな。

「で、話を戻すが」
「おう」

えーとなんの話をしてたんだっけ。

「ななこちゃんの本体とやらは持ってきたのかい?」
「おう。そうそう。本体だったな」

そうだ。こいつの本体を持ってきてやったんだ。

「色々苦労したんだ。けどそのおかげで持ってくる事が出来た」

さっそく姉貴へ見せ付けてやろう。

「これがななこの……」

ポケットを探る。

「本体……なんだけど」

手には何も触れない。

「どうした?」
「……えーと」

逆のポケットだったっけ?

「いや、そんなまさか」

このオレがそんなベタな過ちを犯すわけがないじゃないか。

「あ、有彦さん?」
「ままま、まさか。そんなわけねえだろ」

と言いながらも背中には嫌な汗が流れ始めていた。

まさかまさか。

「ウソだろ?」

ななこ本体を……落とした?

ヤバイ。マジでヤバイ。

「おい有彦……」
「わ、悪い。オレちょっと急用を思い出したっ」

慌てて来た道を引き返す。

「やばいぞこれは」

ななこの本体を落としたという事は、オレとななこの繋がりがもはや何もないということなのである。

新しい持ち主が現れるまでは一応オレが仮のマスターという状態になってはいるが。

ななこは本体に血や何かで繋がりの出来た相手が持ち主になるという実に適当な精霊なのだ。

もし誰かが興味本体でその角に触り、うっかり怪我でもしようもんなら。

「……」

多分オレの顔は真っ青になっていることだろう。

「あのー、有彦さん?」
「……なんだよ」

このバカ馬はこの事態に気付いていないらしい。

いや、気付いていないならそれで別に構わないのだが。

「わたしの本体なんですけど」
「ほ、本体がなんだっ? オレは別に落としてないし、探してもねえぞっ」

慌てて誤魔化すオレ。

「いや、あの、ですから」
「やっぱり仕事がやりたくなくなったから引き返してるだけだ」

我ながら胡散臭い言い訳だが、コイツ程度ならなんとか騙せるだろう。

「聞いてくださいよー」
「なんだようるせえな」

こっちゃオマエの事で必死だってのに。

「さっき一子さんとシガレット投げあってたじゃないですか」
「ああ。だからなんだ」
「でですね。有彦さんがポケットに手を入れてたんですよ」
「それがどうした?」
「だからポケットに手を入れてですね……」
「……ポケット?」

さっき姉貴とは無我夢中で投げ合っていた。

もし無意識にポケットに手を入れ、そこにあったななこ本体を掴んでいたとしたら。

「それでビルのほうに飛んでっちゃったんですけど」

姉貴に投げつけてしまった可能性は十分にあったわけで。

「拾っていただけません?」
「な、なんだ。は、ははは。いや、知ってたさ。わざとだよ。わざと」

自転車で走ってる途中で落としたんじゃなかったんだな。

「はぁ。でも、有彦さん」

ななこはくすりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

こいつのこういう表情には時折どきりとさせられてしまう。

「わたしの本体無くしたと思って探してませんでした?」
「そ、そんなことないぞ。何を根拠にそんな事をっ」
「いやー、まあなんとなくなんですけどー」

くそう、こいつわかってやがったのか。

「わたしをちゃんと探そうとしてくれたんですねー。えへへ」
「バ、バッカおめえ、そりゃオマエみたいな厄介モノが他の人間に取り憑いたら厄介だからだよっ!」
「はい。そういうことにしておきますー」
「てめえこのっ!」
「わ、有彦さんが怒ったー。きゃーっ」
「待ちやがれっ!」

逃げるななこを追いかけていくと。

「……何を三流ラブコメっとるんだ貴様ら」

また恐ろしく不機嫌そうな姉貴が立っていた。

手にはななこの本体が持たれている。

「これが本体なんだろう? ならもう仕事は出来るね」
「はい。今の出来事で元気百倍ですし」
「な、何が今の出来事だっ? 何もなかっただろうっ? おいっ?」
「まあ何もありませんでしたけど」

にこりと満面の笑みを浮かべるななこ。

「有彦さんがわたしの事を気にかけて下さってる事が十分わかりましたのでー」
「て、てめえこの……」
「つかあたし帰っていいか? おまえらだけで仕事やれ、もう」
「あ、こら待て姉貴っ! 誤解したまま帰るな!」
「せいぜいイチャイチャしてくれ」

姉貴は呆れた顔をして帰って行ってしまった。

で、この先をオレに語れってのか? アホらしい。

そりゃまあ仕事はうまくいったけどさ。

面白くない。こりゃ面白くないぞ。ああ、全然面白くない。
 

「今日はステキな一日でしたねっ」
「どこがだっ!」
 

続く



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