「無駄ですよ」

だが体は動かない。

「な……」
「エーテライトで体の動きは制限してあります。いえ、ご安心を。肝心の部分は機能しますので」

どさっ。

オレはそのままシオンさんへ押し倒されてしまった。

シオンさんの柔らかくて暖かい体の感触がモロに伝わってくる。
 

「さて……美味しいランチタイムの始まりです」
 

シオンさんがぺろりと舌なめずりをした。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その62











「ふふふふふふ」

シオンさんがゆっくりとオレのシャツのボタンを外していく。

「し……シオンさん」
「いい体つきをしていますね」

すべすべと胸板を撫でられる。

「……れろ」
「っ!」

電撃のような刺激が走った。

「な、何を……」
「見てわからないのですか?」

シオンさんの桃色の舌が、オレの胸の先端、つまり乳首を舐めていた。

「男性にとってもここは性感帯なのですよ」
「ぐっ……あっ」

その舌が触れるたびに、経験した事のないような刺激と快楽が脳を襲う。

「ふふふ、口でなんと言おうと体は正直です」

下半身をさすられた。

オレのそこがどうなってるかは、言うまでもないだろう。

「シオンさん……どうして、こんな」
「手本を見せると言ったでしょう? まったく、さつきは中途半端でいけません」
「……」

弓塚は戸惑ったような表情でオレたちを見ていた。

「や、止めようよシオン。こんな強引なの……」
「弓……塚」
「おや、では貴方が有彦に迫ったのは強引ではないと」
「……」

俯く弓塚。

「で、でも、やっぱりこういうのは、双方の意思が大事で……」
「これが愛の行為だとか、そういう事を思うからいけないんです」

シオンさんはきっぱりと言った。

「これは生きる為に必要な行為なんです。相手の意思など構っている場合ではないでしょう」
「……」
「それとも」
「っ!」

シオンさんの歯の先端が、オレの首筋に突きたてられた。

「こう一思いに血を吸ってしまいますか? その方が楽ですよ?」
「う……ぐっ」

針で突き刺されたような痛みが首筋に走る。

「や、やめてよシオンっ」

弓塚がシオンさんを引っ張った。

「……はぁっ……はぁっ」

頬に汗が伝う。

体は熱いのに、空気が恐ろしいほど冷たい。

「少しはわかりましたか? 吸血鬼と共にいる限り、貴方には常に危険がつきまとうのですよ」
「そんな事言うんじゃねえっ!」

オレは出来る限りの力を込めて叫んだ。

「……ほう?」
「そんなの知るかっ! オレはあの時の弓塚やシオンさんを見捨てる事なんて出来なかった!」
「ええ。感謝していますよ。だからこそそのお礼を今しているのではないですか」
「シオン、そんな言い方……」
「さつき。言っておきますが、これは最大限の譲歩です。この行為すら拒むというのであれば、わたしは本当に有彦をどうかしてしまうかもしれない」
「……」

シオンさんの目は真剣そのものだった。

「なら……わたしが……わたしが先にするよっ」
「ゆ、弓塚……」
「わたしのほうが先に乾くんに提案したんだもんっ」
「そうですね。それは正論です」

シオンさんはあっさり身を引いた。

代わりに弓塚をオレに押し付けてくる。

「さあどうぞ。ご自由に。逃げる事は許しませんよ、有彦」
「……っ」
「い、乾くん……」

潤んだ目でオレを見つめる弓塚。

「ごめんね。本当にごめん……」
「弓塚は悪くないだろ……」

どこかで歯車が狂ってしまったのだ。

弓塚はそれに巻き込まれてしまっただけ。

オレもまあその一人なんだろう。

「だいたい、有彦は別にこれが初めてというわけでもないでしょう。抵抗する理由がわかりません」
「……これが知らない風俗の女とかだったら遠慮しないだろうけどさ」

弓塚については色々と知りすぎているのだ。

「知ってるからそういうのイヤなんだよ」

吸血鬼になっていなかったら、オレとこんな事になんか絶対ならなかっただろうし。

「吸血鬼になったのは弓塚が悪いんじゃない。なのにこんな事しなくちゃいけない。そういうのは納得出来ないんだ」
「乾くん……何度も言ってるけど」

弓塚はぎゅっとオレに抱きついてきた。

「これはもうしょうがない事だから。わたしは嫌じゃないよ。乾くんがいいの。吸血鬼になったわたしを理解してくれた乾くんが」
「そんな大層なもんじゃ……」
「乾くん」

人差し指で唇を塞がれた。

「もういいの。そういうのは」

弓塚の唇が近づいてくる。

間近ではっきりと聞こえる弓塚の吐息。

「……ん」

弓塚の唇が、オレの頬に軽く触れた。

「あ、あはは、最初はこんなところから……」

そう言って照れくさそうに笑う。

「弓塚っ」
「あっ」

思わず弓塚をぎゅっと抱きしめてしまった。

「乾く……ん……」

弓塚は抵抗しない。

「いいよ……」

その言葉が理性を破壊していく。

「……」

だがそこまでだった。

「……動かない」
「え?」
「体が……」

それ以上はどうにもならなかった。

「シオン?」

弓塚が目線をシオンさんへ向ける。

「ええ。わたしが止めさせて頂きました」

大きく息を吐くシオンさん。

「え?」
「……ていっ」
「あうっ」

シオンさんが体を引くと弓塚はぽてんと転がった。

「その調子で行くと、本番まであと一ヶ月はかかりますね」
「あ、あはは……」
「有彦も一瞬乗り気だったようですが……それが続くかどうかは疑問です」
「……」

確かにそれは言えている。

もしかしたらキスだけでも大丈夫なんじゃないかという甘い考えを抱いていた。

「もう少し有彦の理性を削ぎ取らせて頂きます」
「えっ」

再びシオンさんがオレに覆い被さってくる。

「さて、今度はどこを責めてあげましょうか……」

サディスティックな笑み。

冗談じゃない。

「止めてくれっ」

オレは腕を振り回した。

「無駄ですね」

あっさり腕を掴まれてしまう。

「こんなのはどうですか?」

腕をそのままシオンさんの胸へ持っていかれる。

ふよんしたとマシュマロのような感触。

「ぐっ……」

とろけるようだった。

「ふふふ」

人差し指を引っ張り出され、その先端を舐められる。

「あむ……ちゅ……」

シオンさんは何度も何度も繰り返し指を舐めていた。

「べとべとになってしまいましたね……」
「……っ」

指から腕へと唾液の雫が伝っていく。

「これを指ではなくて……もっと他のもので体験したいと思いませんか?」
「……はぁ、はぁ」

自分の呼吸が荒くなっているのがわかる。

意識が爆発しそうだ。

「……こ、この」

残り少ない理性で腕を動かす。

その指がシオンさんのわき腹に触れた。

「ひぁあっ!」

その瞬間、シオンさんが身を震わせた。

「……?」

もう一度指を触れる。

「あっ……やっ……」

その瞳には困惑と、快楽とが混じっていた。

「もしかして……」
「いえ、その……これは……」

さっきまでやたらと強気だったシオンさんから、急に覇気がなくなってしまっている。

ぷに。

さらに横腹をつつく。

「ひゃうっ……」

どうやらここが弱点らしい。

「そうか。ここが弱いのか」
「そ、そんな事は決して……ふあぁっ!」
「ふっふっふっふふ」

これは別にオレがいぢめっ子だというわけではない。

やられたぶんやり返すだけだ。

両手で脇腹を攻める。

「や……ちょ……あっ!」

指が触れるたびに悶えるシオンさん。

「ふぁっ……止めて……ください………っく……」

うるうると涙目で懇願してくる。

そんな顔を見てしまうと、ますますいぢめたくなってしまった。

「弓塚、おまえも」
「え? あ……」
「や、止めてくださいさつき……」
「……あむ」

弓塚がシオンさんの耳たぶを噛んだ。

「はぁぁぁぁっ……!」

顔を真っ赤に高潮させ、いやいやと首を振るシオンさん。

「……」

さっきまでとの余りのギャップにオレは生唾を飲んだ。

「乾くん……シオンばっかりじゃなくて……わたしも……」

弓塚がしゅるしゅると自らの手で衣服を、下着をはだけさせていた。

「……もっと……もっとお願いします……有彦……」

シオンさんも子犬のような目でオレを見つめている。

「……」

どだい健全な男が美人二人に迫られて、理性をずっと保ち続けるというのは無理な相談だったのだ。

「乾くん……」
「有彦……」

抵抗する事なくオレに身を預けようという二人。

「やっちゃえやっちゃえ」

頭の中でそんな声が聞こえた。

「弓塚……シオンさん……」
 

オレは二人にゆっくりと手を伸ばしていった。
 
 

続く



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