「むかーしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが……」
「むかしっていつごろなのー?」
「ああ? 500年くらい前じゃねえか?」
「あるところってどこー?」
「埼玉の奥秩父あたり」
「い、痛いよ〜。やめてってば〜」

ガキの質問に適当に答えてやっていたら、髪の毛を引っ張られて悲鳴をあげている弓塚が視界に入ってきた。

「……あの髪は引っ張ってくれと言わんばかりだからなあ」

オレだって引っ張りたくなる。ガキなら尚更だろう。

「なんでおじいさんとおばあさんなのー?」
「……ああもう」

どうしてガキってのは大人しく話を聞けないんだ。

「それは大人じゃないから……と、ああ面白い」
「何が面白いのー?」
「知るか」

今日の仕事は保育園の手伝いである。
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その67







「えー、とにかくおじいさんとおばあさんがだな」

オレはガキどもに紙芝居を読んでやっていた。

だが、さっきからのような反応がほとんどで、まともに聞いている奴なんかいやしなかった。

「乾くーん……助けてー……」

やたらと情けない声でオレを呼ぶ弓塚。

「……しょうがねえなあ」

紙芝居を置いて立ち上がる。

「おじいさんとおばあさんはどうなったのー?」
「末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「そんなのつまらないよー」
「ぶーぶー」
「それが現実ってやつだ」

文句をいうガキを適当にあしらいつつ弓塚の元へ。

「るー、るーくー、るーくーん」
「や、止めてよー。そんな強く引っ張っちゃ駄目ー!」
「うーむ」

このまま見てるだけというのも面白そうだけど。

「はーいカットそこまでー」

髪の毛を引っ張っているガキの背中を指でなぞる。

「わあっ?」

驚いて手を離すガキ。

「おしまいおしまい」

そのまま弓塚から引っぺがしてしまう。

「るー、るーくーん!」
「……ぬぅ」

オレの腕の中でじたばた暴れだすガキ。

「そのるーくんってのは何なんだ?」
「るーくーん、るーくー!」

てんで話にならなかった。

「取り合えず弓塚。おまえその髪型止めろ」
「言われなくてもやってるよぅ」

涙目で髪の毛を解いている弓塚。

「……ふう」
「だ、誰だおまえは」
「乾くん。その反応は前にもやったからね?」
「いやまあお約束ってことで」

髪下ろすと丸っきり別人に見えるからなあ、弓塚は。

「あれ……るーくんいない……」

さっきまで弓塚の髪を引っ張ってたガキがきょろきょろしていた。

「……やっぱりあの髪の毛がるーくんなのか」

一体何者なんだろうか。

「やっぱり何かの生き物なんじゃないかなぁ」
「うーん」

とすると猫か犬とか?

「るーくん……ぐすっ……」
「げっ」

そのガキはるーくんが見つからない事でしゃくりはじめていた。

「ゆ、弓塚! 今すぐ髪の毛戻せ!」

子供ってもんは、自分と他人の区別が出来ていないから異常なほどシンクロしやすいのである。

一人が泣きだした瞬間、それがあっという間に部屋全体に感染してしまう。

そうなったらもう手がつけられたもんじゃない。

「……ほ、ほら〜? るーくんだよ〜?」

苦笑いしながらガキに手招きする弓塚。

「るーくんだーっ!」
「あ、あはは……」

ガキは満面の笑顔で弓塚の髪の毛を引っ張っていた。

「さて、帰るか」
「み、見捨てていかないでよー」

腕を掴まれてしまった。

「おまえはるーくん役という大事な使命がある。オレにはない」
「そんな事言ってると一子さんに言いつけちゃうんだから」
「……それは怖い」

仕方なく腰を落ち着けるオレ。

「るーくんとやらの正体を探るしかないなあ」

それ以外に弓塚が開放される方法はなさそうだった。

「何なんだろうね?」
「まあ、ガキの事はガキに聞くのが一番だ」

手っ取り早く傍に居た生意気そうなヤツを呼び寄せる。

「なに? ボク、ザンガイオーごっこで忙しいんだけど」
「おまえ、るーくんってのが何だか知ってるか?」

オレが尋ねるとそのガキは呆れたような顔をした。

「るーくんを知らないの? おっくれてるー」
「いいから教えてくれないか」
「教えたら何かくれる?」
「……調子のいいガキだな」

最近の子供はみんなこうなのだろうか。

「よし、教えてくれたらこれをあげよう」

オレはポケットからアメ玉を取り出した。

「えー? それだけー?」
「ふっふっふ。このアメはただのアメじゃない。100万円もするアメなんだぞ」
「ほんとにー?」

疑いの目線を向けてくるガキ。

保育園ってのははいる子供の年齢が上から下までピンキリである。

簡単に騙されないところを見ると、こいつは割と年長者のようだ。

「コウケンジャーのシール付でどうだ?」
「るーくんってのは、クールをさかさまにしてるーくんなんだぜ」

さすがに五人戦隊はどの時代でも子供に強かった。

「いや、そんな無駄知識はいいから、正体を教えてくれ」
「キラメとかなんとか、そんなのなんだよ」
「キラ……キメラか」

つまりは合成獣の事である。

「尻尾がふさふさだとか?」
「そうそう。よくカズミ姉ちゃんがふわふわーっていじってるんだぜ」
「ふーん。それって何かの新キャラか?」
「ザンガイオーの仲間なんだよ」
「ほうほう」

ってことはどこかでぬいぐるみが売ってる可能性はあるな。

「よし探しに行こう」
「わ、わたしを一人にしないで〜」

いつの間にやら弓塚の髪の毛を引っ張るガキが二人に増えていた。

「……弓塚、おまえは立派な戦士だった」
「殺さないでよ〜!」
「ぬう」

弓塚を見捨てて出かけるのは無理か。

さてどうしたもんか。

「ねえねえ、アメとコウケンジャーのシールは?」
「ん、ああ」

るーくんの正体を教えてくれたガキがオレの腕を引っ張っていた。

そういえばそれを渡しておかなきゃな。

約束をしておいて何も渡さないじゃずるい大人になってしまう。

100万円のアメとか言ってる時点でもう駄目な気がするけど、そこはまあ気にしない。

「これがアメとシールだ」
「うわ、レアものだ!」
「ほう。そうなのか」

ガキの心を掴むにはこれが一番だと姉貴が何枚かくれたものなのだが。

「100枚買っても出て来ないんだぜ!」
「ほー」

一体どこから入手してきたんだろう、あいつ。

「……その手のルートで高く売れるんじゃ」

とかよからぬ事を考えてしまう。

「どれ……」

適当に何枚か眺めてみる。

「あ」
 
 
 
 
 

「いやー、ホント疲れたな」

ガキの相手ってのは普通の仕事の何百倍も疲れる気がする。

「もうヘトヘト……」

弓塚はふらふらしながら歩いていた。

「まあいいじゃねえか。るーくん事件も解決したんだしよ」
「よかったはよかったけど……」

姉貴の渡してくれたシールの中に、るーくんのものが入っていたのだ。

これ幸いとガキに配ってやったら完全にそっちに夢中になってくれた。

「急にみんな離れちゃったのはちょっと寂しかったかなぁ」
「何言ってんだよ」

肘で弓塚をつつく。

「あはは、でも子供っていいよねえ。元気で」
「そうかぁ?」
「うん」
「赤ちゃんが欲しいならいつでも協力するぞ」

冗談めかしていうと弓塚は笑って。

「うん」

頷いた。

「……マジで?」
「冗談」
「るーくんー、るーくーん」

ぐいぐいぐい。

「い、痛いってばー! 乾くんやめてよー!」
「はっはっはっは」

やはり弓塚はいじられてこその弓塚である。

そう実感するオレであった。

続く



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