「こっちもOKだ」
「ばしっとやっちゃいますよー!」

こっちはオレが前でななこが後ろ。

「了解。じゃあ……」

姉貴はぱんと手を合わせて叫んだ。
 

「路地裏同盟VS馬小屋同盟……はじめ!」
 

向こうのチームはひっくり返っていた。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その79





「てい」

その隙を狙って弾を放つオレ。

こんっ。

「はーい1点ね」

 姉貴が得点をめくる。

 「ちょ、一子! 今のは反則でしょう?」

 起き上がったシオンさんが姉貴に抗議していた。

「んー、この場合有彦の作戦勝ちかな」
「そんな……」
「こういうインチキ技も温泉卓球の醍醐味ってね」

 ちゃんとした試合じゃ絶対出来ないようなこともここではOKなのである。

無論それは審判によるけれども、姉貴の場合はそういうネタを歓迎するタイプだからな。

「つーか相方までひっくり返ってるんだけどいいのかい?」

姉貴がニヤニヤ笑いながらそんな事を言った。

「相方?」

 振り返ってみると、確かにななこまでひっくり返っていた。

「……なにやってんだ?」
「なにやってんだじゃないですよー!」

ななこは一回転して浮き上がってきた。

「有彦さん、たった一度だけのつまらない作戦のためにそんなへっぽこなチーム名にしたんですかっ?」
「何を言う。オレたちをよく現したチーム名じゃないか」

つまり小屋というのがオレの部屋を現し、馬は言わずもがな、ななこを現すのである。

「わたし馬じゃないですもん」
「イメージの問題だ」
「なお悪いですよー」
「はいはい」

まあこいつの意見は無視だ。

「もう決まったことなんだからいちいち……」

こんっ。

「……は?」

オレのすぐ横を球が通り過ぎていった。

「はーい、1対1ー」
「な、なんだとおっ?」
「乾くーん。油断大敵だよー」

弓塚がそんな事を言ってにこにこ笑っていた。

「ひ、卑怯だぞ!」
「……有彦さんが言ってもまるで説得力ないですよ」
「ああ、わかってるけど一応」

悪役はこうやって自分を省みない台詞をほざくものなのである。

「つーかさ」

姉貴を見る。

「サーブは1点交代制なのか?」
「ん、そうだな。そうしよう」
「……」

審判のくせに恐ろしいほど適当だった。

「これで借りは返しましたよ」

不敵に笑うシオンさん。

「くそう」

卑怯者の汚名を被ってまで得た1点が無駄になってしまったじゃないか。

「おまえのせいだぞ」
「有彦さんがー」
「はいはい、喧嘩してると向こうに点増やすぞ?」
「……へーい」

変に逆らうと即負けにされてしまいそうなので大人しく従うことにする。

「じゃあこっちのサーブだな……」

1点交代だとサーブのコツが掴みづらいのが難点だ。

けどまあそれは向こうも同じ条件。

ならば。

「必殺技を使わせてもらう!」
「ひ、必殺技ですか?」

ななこがやたらと嬉しそうな声をあげた。

「わたしそういうのにあこがれてたんですよー。どんなのですか? 消える魔球とか?」

「い、いや、そんな期待されるようなもんじゃないけど」

これもまた人間の心理を突いた必殺技である。

「食らえ!」

まずは高めにボールを上げて。

「必殺馬小屋サーブ!」

打つ。

「……普通ではありませんか」

余裕で打ち返すシオンさん。

「ふふふ」

この馬小屋サーブの真の恐怖は他にあるのだ。

「ほれななこ」
「は、はいっ」

来たボールをななこが打ち返す。

「馬小屋レシーブ!」

それに合わせて叫ぶオレ。

「さつき」
「うん、わかってる!」

ぱこんっ!

「おおっと!」

勢いのあるレシーブが返ってきた。

そういえば弓塚のやつ昔はバトミントンやってたんだよなぁ。

競技は違うが感覚は同じようなもんだ。

「だがこっちだって!」

しばらく点を取りつつ取られつつな展開が続く。

 足を引っ張るだけと思っていたななこも。

 「てりゃー!」
「な、そんなところからっ!」

精霊という特性を生かし、ボールが飛んでいったところに瞬間移動するという技でシオンさんたちを圧倒していた。

っていうかあいつはオレよりも全然ずるい事やってる気がする。
 
 
 

「さあ行くぞ」

そんなこんなで得点は8対7でオレたちの若干リード。

そろそろシオンさんたちの頭の中にも馬小屋サーブとレシーブが記憶されただろう。

「また馬小屋サーブかな?」

弓塚は余裕の表情をしていた。

「……ふっ」

 全てはこの伏線のため。

 馬小屋シリーズは単体では威力を発揮しない技なのだ。

「見ろっ! これが……」

見ろという言葉で二人の視線がオレに集まった。

そこでオレがやるべきことはひとつ。

「必殺!」

ギリギリまでシリアスな表情を続け、そして。

「ウマヅラサーブ!」

ボールを放った。

「……っ!」

二人の目が大きく見開かれる。

「あはっ、あははははは!」
「あ、有彦、それはずるい、ずるいです……」

腹を抱えて笑い転げる二人。

当然ボールを打ち返せるはずがない。

「9点ね」
「よし」

これでオレたちの2点リードだ。

「あ、有彦さん何をやったんですかっ?」

後ろにいたななこは何が起こったのか理解出来ていないだろう。

「ふふふふふ……」

ウマヅラサーブ。それは読んで名の如くの技だ。

「乾くん、今の顔……あは、あははは……」

そう、オレがやったのはただ変な顔で球を打っただけである。

何故この技がこんなに効果を発しているのか。

それはオレが散々打ってきた馬小屋サーブのおかげであった。

簡単に打てる技だと油断していたところへ別次元からの攻撃。

まさに必殺といえよう。

「ほらそっちの番だぞ」
「わ、わかってるよ……ふふっ」

笑いを堪えながらの弓塚のサーブ。

今までのキレはまったくなく、へなちょこそのものである。

「おりゃー!」

オレはそれを普通に打ち返すだけでよかった。

「……っ」

この普通の球ですらシオンさんも打ち返すことは出来ない。

 何故ならもうオレの顔を見ることが出来ないからだ。

「馬小屋……!」
「や、止めてっ、あは、あはは……」

もはやこの単語だけで二人は笑いを堪えられなくなっていた。

「ウマヅラ!」
「ご、ごほ、有彦、苦し……」

一度ツボにはまってしまった笑いはそう易々と堪えることは出来ない。

「11てーん。試合終了」
「いよっしゃあ!」

そしてついにオレたちの勝利が決まった。

「やったな。ななこ」

健闘を称え肩を叩く。

「うう、わたしもあっちのチームにいたかったです。有彦さんの変な顔、見たかったのに……」

「あはははは! もう駄目、わたし死んじゃう……!」
「お、落ち着くんです。さつき、ふ、くっ……くくくく……」
「……うーむ」

笑いの耐えない敗者と、複雑な表情の勝者。
 

奇妙な構図であった。
 

続く


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