「ちなみにさぼったらメシ抜きだからな」
「……」

逆らったらこいつは本気でやるだろう。

それくらい別にどうってことはないのだが、後が怖い。

「わーったよ」

渋々ながらに頷くとななこがぽんと肩を叩いてきた。

「お仲間ですねー」
「じゃかあしい」
 

こんな仲間意識はまっぴらご免であった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その85




「そんなわけでやってきました仕事場へ……と」

途中歩いている時点で嫌な予感はしていたのだが。

いや、むしろ地図を見た時点でわかってはいたのだけど。

「ここって……るーくんの保育園だよね?」
「そ、るーくんの保育園」
「何の話ですか?」
「いや、こっちの話」

そこは以前弓塚と手伝いをしたことがある保育園であった。

「あ、ツインテールのさっちんだ!」

何人かの子供が弓塚の存在に気付いてこっちに向かってくる。

「……ツインテールのさっちんって」

苦笑いしつつ子供のもとへ。

「有彦もいるぜ。どうしたんだー?」
「サンをつけろよデコ助野郎」

生意気な事を言う子供にそんな事を言ってやる。

「うるせいやーい」

子供はアカンベをして走っていった。

「……さすがに通じんか」

むしろ通じたら怖いけど。

「力が勝手に……ですか?」

するとシオンさんがそんな事を言った。

「シオンさん、何で知ってるんです?」
「一子が読ませてくれたのです。なかなか面白い書物でした」
「……そうなのか」
「いずれ語りましょうか?」
「機会があればな」

アレを読んだ事ない人は一度は読むべきである。

影響を受けたマンガ家もかなりいるみたいだからな。

「何の話ですかー?」
「AKIRAっつーマンガの話……つかおまえさっきからそればっかりだな」
「構ってくれないからですよぅ。わたしばっかり仲間外れにしないで下さいー」
「心配するな、今日仕事をやればむしろほっといてくれって気分になるから」
「は……はぁ」

しかし姉貴の分けた仕事区分、意味ねえんじゃないのか?
 
 
 
 
 

「さっちーん! こっちこっちー!」
「ま、待ってよー」

鬼ごっこの鬼として子供に翻弄される弓塚。

「問題。座ってるのに立っているものなーんだ? ……はて、なんでしょうねえ?」
「もんだい出してるのにわからないのー?」
「答えがわからなくても問題は出せるのですよー」

子供相手に微妙な発言をしているななこ。

「……はぁ」

二人は子供のお守りで、オレは専ら道具の片付けなどに徹していた。

なんせ片っ端から散らかっていくのである。

ちなみにこの仕事は本来別の人物がやるべき事であったりもする。

けれどその当人は。

「だから散らかすなと言っているでしょう! 何故そう非効率な事をするのですか!」

子供相手にぎゃーぎゃーわめいていた。

「……シオンさん、子供にリクツとか言っても無駄だからさ」

傍に落ちてたぬいぐるみを拾う。

「そんな事はありません。わたしはこの子たちくらいの年には既に……」
「はいはい、それはよっぽど特殊な例ね」

こんな調子なので片付けはちっともはかどらなかった。

「シオンは言い方が悪いんだよー」

苦笑いしている弓塚。

「優しく言えというのですか?」
「そう。それからちゃんと出来たら褒めてあげる事」
「……弓塚は立派な主婦になれそうだなぁ」
「や、やだぁ乾くんってばぁっ!」

ごっ!

「……さすが超合金ロボ……」

顔面に当たった時のダメージは半端ではなかった。

「わ、わ、ごめんね! ついっ!」
「ついでモノを投げるんじゃない」

まあ変なからかい方した俺にも問題あるんだけど。

「有彦さーん。とってもとっても減らないものってなんですかー?」
「年齢」
「あー」
「あー、じゃねえ。少しは考えろ……っていうかおまえがなぞなぞに挑戦してどうするんだよ」

一緒になぞなぞやってたはずの子供は飽きてしまったのか、スケッチブックに落書きをしていた。

「大丈夫ですよー。ちゃんと見てますからー」
「ちなみにその子供は床にはみ出して落書きしている」
「え? わ、わーっ! だ、駄目ですよーっ!」
「……雑巾持って来よう」

多分姉貴が全部やれと言ったのは、こいつらを監視しろという意味でもあったんだろう。

オレが見てやてやらなきゃ相当危なっかしそうだった。

「……」

シオンさんはもう何をやっても無駄だと悟ったのか、むすっとした顔で粘土をいじっていた。

「って何故に粘土?」
「片付けていなかったものです。踏んだら不愉快になるでしょう」
「……不愉快どころの次元じゃないな」

一瞬別の何かを想像してしまいそうですらある。

「わたしに構わず雑巾を取ってきて下さい」
「ん、あ、ああ」

言われた通りに雑巾を取りに向かう。

「……ふむ」

大雑把に見回すと、弓塚と一緒に遊ぶ活発組、ななこと遊んで……るのかどうかは謎だがおとなしめな組に分かれているようだ。

シオンさんはどっちにも所属しない状態になってしまった。

まあいい、取りあえずは雑巾だ。

ぱっと行ってバケツを用意し、さっと帰ってくる。

つもりだったのだが。

「……雑巾がねえし」

職員室に聞きに行き、あっちに行ってこっちに行って。

そんな事をしている間に結構な時間が過ぎてしまった。
 
 
 
 

「あれ?」

そうして戻ってくると。

さっきまでの状況が一変していた。

「これは……」

弓塚組とななこ組の子供らが、ある一箇所に集まっている。

「すげえ、どうなってるんだー?」
「あんなのつくれないよー!」

その中央にいるのは他でもない、シオンさんである。

「熊」
「かっこいー!」
「ほんものみたーい!」

シオンさんは粘土で動物を模したものを作っていたのだ。

その数や、ざっと十数作品。

「イルカ」
「かっわいー!」
「ねえねえ、これもらってもいいー?」
「ええ。ちゃんと片付けが出来たらですね」
「わかったー!」

子供たちは粘土細工欲しさに片付けを始めた。

「……モノで吊る作戦ってわけか」

子供というものは大人以上に即物的である。

目に見えてわかる見返りがないと嫌なことはしたがらないものだ。

「かたづけたよー」
「結構です。ですが、この粘土細工は固定してないのですぐに崩れてしまいます」

そりゃそうだ。形はすごくても素材は子供でも使える粘土なんだから。

「ちゃんと保管出来ますか?」
「できるもん!」
「いい返事です。片付けをしっかりと行い、他のものとは別に置いて下さい。数日置けばきちんと固まるでしょう」
「わーい!」

粘土細工を貰った子供は大喜び。

「オレはクマがいいー!」
「あたしウサギー!」
「……数を作るのには時間がかかります。それまでさつきやななこと遊んでいて下さい」

わーわーきゃーきゃー。

今やシオンさんは保育園の大スターであった。

「わたしは馬の細工をー」
「テメエはいいんだよ」
「……あう」
「まったく……現金ですね」

シオンさんは顔をしかめていたが、口元はどこか嬉しそうであった。

「これもシオンの計算通りなのかな?」

弓塚が尋ねる。

「当然です」

いつものように答えるシオンさん。
 

「無論、冗談ですけど」
 

次のセリフに、みんなで大爆笑していた。
 

続く


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