「これもシオンの計算通りなのかな?」

弓塚が尋ねる。

「当然です」

いつものように答えるシオンさん。
 

「無論、冗談ですけど」
 

次のセリフに、みんなで大爆笑していた。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その86





「帰ったぞー」
「おう」

勤務時間が過ぎて、保育園から戻ると姉貴が玄関で迎えてくれた。

「どうだったい? 仕事は」
「意外とちゃんとしてたぞ。つーか仕事の区分けが完全に無意味だった」

あれじゃみんなでまとまって仕事をしてたのと同じだからな。

「そんな事はないさ。テキトーにやるのと担当が決まってるのじゃ大きな違いがある」
「意識の違いか?」
「まあ、それもあるけどね」

姉貴はなんともいえない表情をしていた。

「あるけど?」
「担当でギャラが全然違う」
「……切実だなぁ」

リアルすぎてまるで笑えなかった。

全く同じ仕事をやっても給料が違う不思議。

天は人の上に云々という言葉は誰の物だったろうか。

「ま、四人分集めて等分してもいいけどね」
「そうしてくれると助かる」

メンバーがメンバーだから喧嘩はしないだろうけど、今回みたいな共同作業ではそのほうがいいだろう。

「そしてその一部をあたしがピンハネ……と」
「すんなっ!」
「冗談だって。ところで他のみんなは?」

ひとしきり笑った後、周囲を見回して尋ねてくる姉貴。

「勤務時間は終わったんだが、子供がみんな帰るまでいるんだってさ」
「仕事熱心な事だね」
「なんか変に懐かれちまったみたいでな」

弓塚はもちろんの事、シオンさんとななこにもファンがついていたみたいだった。

「なるほど。おまえは不人気だったって事か」
「バカ言え。オレも有彦にいちゃーんと懐かれてたんだぞ」

適当なところで上手く切り上げて帰ってきただけなのだ。

「けどあんまり長居すると情が移っちまうからな。こっちがそうなるのはいいが、向こうがそうなったらかわいそうだろ」

なんせ日雇いバイトのオレたちなのだ。

次はいつ行くかわからないし、もしかしたら永久に行かない可能性だってある。

「なんだ。わかってるじゃないか」

すると妙に意味ありげな事を言い出す姉貴。

「あん?」
「いや……」

姉貴はポケットからタバコを取り出しながら、こんな事を言った。

「その言葉、自分でよく噛み締めるんだね」
「……?」
「いかん、ライター忘れた……」

火のついてないタバコを咥えたまま歩いていく姉貴。

「ここ最近禁煙してるんじゃなかったのか?」

タバコを咥えてる姿なんて久々に見た気がする。

「ん? ああ、そういやそうだったかもね」
「は?」
「なんでもないよ」

姉貴はひらひら手を振って去っていった。

「何がしたいんだあいつ……?」

さっぱりわけがわからなかった。
 
 
 
 

「戻りましたー」
「……おう」

部屋でごろごろしていると、ななこのやつが壁を抜けて戻ってきた。

「どうしたんですか? 電気も点けずに」

ぱちんと壁のスイッチをつけるななこ。

「いやちょっとな」

仕事で疲れて休みたかったというのもある。

けれどそれ以上に姉貴の奇妙な行動が引っかかっていた。

あいつは無意味な行動をするやつじゃない。

仕事の後にあんな言葉を言ったという事は仕事内容に何かしらの意味があったという事だ。

「何か悩み事でも?」
「……ん」

ななこが不思議そうな顔でオレを見つめていた。

「ああ、いや別に」

こいつがいたら考える事なんて出来なさそうだ。

「大した事じゃねえからさ。で、仕事はどうだった?」
「いや、大変でしたよ。帰るって言ってるのになかなか離してくれなくてー」
「ガキは欲しいモン離さないからなあ」

欲しいモノを見つけたが最後、買ってやるまで離さないというやつだ。

「最後は泣きながら連れてかれちゃいました。アレはちょっと心が痛みましたね」
「甘やかしすぎも駄目って事だよ」

といっても子供との距離感ってのは大人より難しいもんなんだが。

「おまえなんかガキそのものだからシンクロしやすかっただろうしな」
「そんな事はありませんよー。わたしは自立した立派な精霊ですから」

オレの言葉に対してえへんと無い胸を張るななこ。

「……そうかぁ?」
「もちろんです」
「……」
「あ、なんですかその沈黙はー」
「いやいや」

マスターから離れても行動出来るんだから、そういう意味では自立してるのか。

「でもいつかはマスターんとこにちゃんと帰んなきゃ駄目なんだろ?」

やっぱりこいつが存在するには魔力とやらが必要なんだろうし。

「そりゃまあそうですけど。マスターが遠出するならついてかなきゃいけないですし」
「……あ」

それで気がついた。

そうか。姉貴の言いたかったのはこれか。

「どうしました?」
「あー。だからなんつーか」

こういう事を考えるのは苦手だ。

大体こいつはいて欲しくなくたっているんだから。

「そのままマスターのところから戻ってこない可能性もあるわけだろ?」
「あー」

そう、いつかななこは持ち主であるマスターとやらのところにきちんと帰らなくてはいけない。

その時辛いのは誰かって事だ。

つまり情を抱きすぎちまった奴。

本音を言えばオレだ。

そして多分ななこも辛いだろうと。

「……あ、もしかして有彦さんも子供みたいに行っちゃやだって泣いちゃうんですか?」

ななこはにやにや笑いながらそう尋ねてきた。

「するかアホ」

泣きはしないだろうけど寂しく感じる時はあるかもしれない。

「いかんなぁ……」

こういう事は考えてしまうときりがなくなってしまう。

どうも相当ななこに毒されてるようだ。

「もしわたしが遠くに行ったとしても、すぐに会えますよ」

そう言ってにへらと笑っているななこ。

「適当だなあ」

オレはバカだった。

この単細胞のななこが辛いとか思うはずがないじゃないか。

「だってほらわたし精霊ですし」
「……ああ、そうだったな」

人間の常識で考えるのが間違いだったのである。

「ったく……」

心配して損した。

「そもそも今ここにいるわたしが一度いなくなって帰ってきた立場ですから」
「……ああ」

何もかも今更だったのだ。

「姉貴の心配は完全に手遅れだったわけか」
「一子さんが何か言ってたんですか?」
「いや」

こいつは一度いなくなって帰ってきた身。

姉貴はそれを知らないからずっと居着いてるもんだと勘違いしたんだろう。

ただ正直に言えば、オレは一度いなくなったこいつが帰ってくるとは思ってなかった。

まさかそんなに好かれてるとは思わなかったのである。

要するにだ。

情を抱かない距離に戻るのはもう無理って事。

別れが辛いもなにも、ななこはそれを既に乗り越えてきてしまったわけで。

とするとやるべき事はむしろ逆なのである。

「なんでもねえよ」

そう言ってななこを抱き寄せる。

「わ、わ、いきなりなんですか?」
「いやなんとなく」

こういつもいると忘れがちだけど。

一緒にいられるってのは結構大切な事なんだよな。

「は、離してくださいよー」
「やだよ」
 

そんなこんなでななこの頭をぐりぐりしてやるオレであった。
 

その後、何にも知らない弓塚たちに「ラブラブだねー」とかおちょくられた事は無かった事にしておく。
 

続く


感想用フォーム 励みになるので宜しければ感想を送って下さいませ。

名前【HN】

メールアドレス

更新して欲しいSS

出番希望キャラ
ななこ  有彦  某カレーの人   琥珀 一子    さっちん   シオン  その他
感想対象SS【SS名を記入してください】

感想【良い所でも悪い所でもOKです】



続きを読む

戻る