「ってわけで今日の仕事なんだが」
「おう」

もはや朝の恒例となりつつある姉貴の仕事発表のコーナー。

ななこSGKを初めて思うことだが、世の中ほんとに色んな仕事があるもんである。

果たして今日はどんな仕事になるやら。

「チラシ配りという仕事があるだろう?」
「そりゃあるな」

街頭でやる場合もあるし、店頭、店内、気ぐるみ着用などやり方は様々である。

これは配るだけだから楽そうに見えるかもしれないが、案外しんどい仕事なのだ。

「……まさか?」

今日の仕事はそれなのか?
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その87





「それってノルマとかあるんですかね?」

ななこが姉貴に尋ねる。

確かにこういう仕事はダンボールいくつ分とかのノルマがあるのが普通だ。

「いやいや早とちりせんでくれ」

何故か苦笑いしている姉貴。

「違うのか?」
「そのチラシってのは折られてるもんだろう?」
「……まさかそのチラシを折る仕事だとか言うんじゃないだろうな」

普通それは機械でやるものだと思うのだが。

「いやいや、だからその折ったチラシはダンボールに入ってるだろ?」
「ま、まさか……」
「そのまさか」
「チラシの束をダンボールに入れる仕事ってことかな」

弓塚が憂鬱そうな顔をしていた。

「ご名答。ま、これも誰かがやらなきゃいかん仕事だろう?」
「地球の平和には何の関係もないぞ」

そういうのはバイトかパートにやらせておけばいいのに。

……いや、だからこそオレたちなのか。

「そうとは限らんさ。世の中には因果というものがあってな……」
「あー、はいはいわかったわかりましたよ」

どうせこっちに拒否権なんかないのだ。

「いかんね有彦。もうちょっとやる気を見せてくれないと」
「オレは今モーレツに熱血してる!」
「うるさい。暑苦しい。黙れ」
「……どないせいっちゅうんだ」

オレと姉貴のやり取りを見てシオンさんがくすくす笑っていた。

「ほら弓塚のせいで笑われちまったじゃねえか」
「ええっ? なんでわたしなのっ?」

急に責任転嫁され戸惑った様子の弓塚。

「有彦。あんまり弓塚さんをいじめるんじゃないよ」
「へーい」
「そうですよ、有彦さんってば子供なんですから」
「……」

ぼこっ。

これも馴染みとなりつつあるななこへのツッコミが炸裂するのであった。
 
 
 
 
 

「……」

ぽい。

「……」

右から左へチラシを運び。

「……」

ただひたすら永遠とダンボールの中に詰める。

「……」

いくら入れても終わらない。

エンドレスエンドレス。

気がおかしくなってしまいそうだった。

「……だああっ!」

堪え切れずに叫ぶオレ。

「うるさいですよ有彦」

シオンさんに睨まれてしまった。

「だってさぁ、いくらなんでもこりゃねえよ」

本当にただひたすらダンボールにチラシを入れ続ける仕事。

それ以上でも以下でもなかった。

面白い事なんぞ何一つありゃしない。

これが面白いやつは神になれると思う。

「誰かがやらなきゃいけない仕事だと一子が言っていたではありませんか」
「こんなの機械でどうにかなるんじゃねえか?」
「きっと色々事情があるんだよ」
「……事情ねえ」

それは具体的に言うと仕事スペースとかだろう。

オレたちの入る場所は四人とダンボール、チラシでぎゅうぎゅうであった。

とても機械なんぞ入れられる余裕がない。

「……そういうのはどうでもいいんだがな」

こういう単純作業は苦手だ。

力を使うとか、多少でもいいから頭を使うとなるといいのだが。

「黙って作業やってるとバカになりそうでさ」
「しかし以前のツル折りの仕事では会話に夢中になって失敗したではありませんか」
「ぬ……」

確かにあの時はそっちに夢中になってしまって仕事が遅れてしまった。

「わたしのように分割思考を用いれば退屈など感じずに済みますが?」
「いや普通の人間じゃ出来ないから」
「ええ。わかって言ってます」

くすりと笑うシオンさん。

「なんか性格悪くなってない?」
「シオンは元々こんなだよ」

オレが苦笑していると弓塚がそんな事を言った。

「さつき、余計な事を言わないで下さい」

つまり地が出てきたって事か。

最初はそれこそクールビューティなイメージだったんだけどなぁ。

「有彦。何か失礼な事を考えてませんか」
「いや全然」

逆にくっくっくと笑い返してやる。

「あはははは」

弓塚もつられて笑っていた。

「……全く」

ぶすっとした顔で作業を続けるシオンさん。

「最初は別の事考えながらでも手が動くけど、そのうち何にも考えられなくなっちゃうよね」
「脳が麻痺しちまうのかもな」

集中力が低下するともう何を考えるのもおっくうになっちまうもんだ。

「何も考えなくても出来るんだから楽じゃないですかー」

ななこはこんな場所でもにこにこ楽しそうだった。

「頭空っぽのやつはいいよなぁ」
「有彦さんは雑念が多すぎるんです」
「じゃあ何か? 坊さんとかはこういう仕事が上手いと?」
「ええ、上手いと思います。お坊さんではないんですけど……」

オレの屁理屈に対してなんだか複雑そうな顔をしているななこ。

「……なるほど。良く理解出来ます」
「だね」
「はぁ?」

そして弓塚とシオンはその言葉の意味がわかったようだった。

「なんか深い意味があるのか?」
「いえ別に」
「そういう事もあるかなって思っただけだよ」
「……ふーん」

まああまり深く突っ込まないでおこう。

「おーい、誰かこっちの仕事を手伝ってくれないかー」
「お?」

声のした方を見ると、ここの主任がオレたちを呼んでいるようだった。

「乾くん、こっちの仕事がつまらないなら行って来たら?」
「気分転換になるでしょうしね」
「そうだな……そうするか」

どんな仕事だろうが多分これよりマシな仕事だろう。

「へいへい今行きまーす」

さっそく主任の元へ向かう。

「これなんだがね」
「あい」

目の前には大量の機械があった。

「これを運ぶんスか?」

なかなかしんどそうだが力仕事のほうが気が紛れてよさそうだ。

「いや、この機械なんだが。電池切れのようでね」
「……電池」

なんだかものすごく嫌な予感がした。

「電池を取り替えて欲しいんだ」
「マジですか?」

この数を全部?

「誰かがやらなくちゃいけない仕事だからね」
「……」

世の中ほんと色んな仕事があるもんである。

「すいません、ちょっとそれ専門のやつがいるんで連れて来ます」
 

オレは大急ぎでななこを呼びに向かうのであった。
 

続く


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