「そうか。ならちょっと待っててくれ。今飯を作ってやるから」
「は?」

オレの言葉に呆気に取られたような顔をするシオンさん。

「わたしは吸血鬼なんですよ?」
「ああ、だから何だ?」
「怖いとか……出て行け……とか、行け第七聖典、ヤツをぶっ殺せとかないんですか?」
「いや、別に」

そういう怪異な連中はななこで見飽きてるし。

「吸血しなくても食料を取っていればある程度生活出来るんだろ? なら血を吸われない為に飯を作るって理屈は間違ってないはずなんだが?」

さっきのシオンさんの言葉を引用して意見を求める。

「……貴方が志貴の親友である理由がなんとなくわかった気がします」
 

すると怒るとか睨むとかそんな顔ばっかりだったシオンさんがようやく笑ってくれたのであった。
 
 


『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その9









「なんだよ。いい顔できんじゃねえか」
「なっ……」

オレがそう言うとシオンさんは顔を真っ赤にして慌てていた。

「ういのう、ういのう……」

そういう顔はとても新鮮である。

クールなねえちゃんかと思っていたけど。結構可愛いかもしれないな。

「うー……」
「ん」

などと考えていると背中にななこの視線を感じた。

「なんだよ」
「別に」

ななこはぷいとそっぽを向いてしまった。

「妬いてんのか? おい」
「知りませーん」
「……はぁ」

まあいい。どうせほっときゃすぐ元に戻るだろう。

「じゃあさっそく作ってくるわ」
「あ、ちょっと待ってください……えと」

オレの名前を呼ぼうとして躊躇するシオンさん。

そう言えばまだ名乗ってなかったっけな。

「有彦だ」

さっそく名乗っておく。

「有彦。ひとつお願いがあるんです」
「何だ?」

いきなり呼び捨てとは。

ひょっとしてオレに惚れてしまったとか?

だから付き合ってくださいと?

いやでも吸血鬼の彼女ってのもアレだよなあ。

「ニンニクだけは抜いてくださいね。それと、出来ればお土産も作って頂きたいのですが」
「……なんか急に作りたくなくなってきた」

色気より食い気ってわけですが。

「す、すいません。ですが吸血鬼にニンニクが駄目なのは知っているでしょう」
「まあそこまではいい。が、土産っつーのはなんだ? 帰ってから食うってか?」

親切を行ってくれる相手に対してはもっと謙虚でなくちゃなぁ。

「いえ……その」

渋い顔をするシオンさん。

「路地裏に隠れ住んでいる同居人がいるものでして」
「同居人? まさかそいつも?」
「ええ、吸血鬼なんです。彼女も人前に出る事は出来ません」

彼女ってことはそいつも女なのか。

「……妖怪が暮らすのも楽じゃないんだなぁ」

せちがらい世の中になったもんである。

「妖怪という呼び方は勘弁してください」

苦笑いするシオンさん。

「いや、悪い。まあそういう事情だったらいいだろう」
「すいません。恩にきます」
「なーに。お礼はちょいとその体で支払ってもらえば……」

めきょ、どげし。

「……シオンさんはまだ理解してやるが、テメエがオレを蹴り飛ばす通りはねえだろう」
「知りません、有彦さんなんかっ」

前方からシオンさんのパンチ、後方からななこの蹴りをモロに食らい、オレは一瞬で昇天してしまうのであった。
 
 
 
 

「ってことで商談成立かな」
「ええ、構いません」
「……あん」

気がつくと姉貴とシオンさんが謎の交渉をやらかしている最中だった。

「あ、あのぅ、一子さん、本気なんですか? お酒飲んでるみたいだし、冷静な判断が出来ないんじゃ?」
「この程度の酒、どうってこたないさ。で、そのあんたの相方にも宜しく言っておいてくれよ」
「了解しました」
「あうぅ……」

そしてやたらと落ち込んでいるななこ。

「あー……ちょっとこれはどういう展開なんだ?」

オレは起き上がって尋ねた。

「ん? いや、バイトの交渉をちょっとな」
「バイト?」
「ななこSGKのバイトだよ。次の仕事は人が多いほうがやりやすいんでね」
「……おいおいマジか? だってシオンさんは……」

吸血鬼と言いかけ慌てて口を塞ぐ。

「ん? 吸血鬼だって言うんだろ?」
「は? な、なんで知ってるんだ?」
「ななこちゃんが吸血鬼のくせにーと叫んでいるのが聞こえてね」
「……」

オレが顔を見るとななこは露骨に顔をそらしていた。

「で、ものは試しと薔薇を持たせてみたら枯れたわけだ」
「……どっから薔薇なんて持ってきたんだよ」
「突っ込むべきところはそこではないと思うのですが」

呆れた顔をしているシオンさん。

「つまりななこのせいで姉貴にシオンさんの正体がばれてしまったってことか」

ななこを睨み付ける。

「い、いいじゃないですかっ。遅かれ早かればれる運命だったんですよっ」
「最初は有彦が女を連れ込んだせいでの痴話喧嘩かと思ったんだけどね。それより面白い展開だったとは驚きだ」

姉貴はくっくっくと笑っていた。

「人の事言えたもんじゃねえけど姉貴の適応力って異常だよな」

天変地異とか起こってもこいつは平然としていそうな気さえする。

「ほざけ。んでまあシオンちゃんに詳しく話を聞いたらかなり苦労してるみたいだったからね。ひとつ仕事でもしてみないかと持ちかけたわけだ」
「本当にありがとうございます。吸血鬼となって以来まともな仕事など出来た立場ではありませんので」
「そりゃそうだろうなあ」

吸血鬼ということは昼間はまったく働けないだろうし、万が一正体がばれたら大変な騒ぎになってしまうことだろう。

オレたちみたいなのは相当変な部類に入るわけである。

「吸血鬼が働く必要なんてないんですよー。大人しく社会の底辺でネズミの血でもすすってればいいんですっ」
「……オマエやけにシオンさんにつっかかるのな」

第七聖典としての本能とかいうやつなんだろうか。

「女心ってのは複雑なもんでね」
「アホらしい」

ななことシオンさんじゃ比較対象にならねえっつーの。

「はいはい。ケンカしないケンカしない。明日から同僚なんだからね。仲良くする事」
「却下です。第七聖典と仲良くなど出来ません」
「ほう。働く前からクビになりたいわけか」
「……出来る限り善処します」

吸血鬼を視線と言葉だけで威圧する姉。

なんだか嫌な構図である。

「でまあ明日は相方も連れて来てもらって、一緒に仕事をするとそういう話だったわけだ」
「なるほど」
「で、まずあんたは弁当を作ってくると」
「へーいへいへい」

まあ美人と一緒に仕事が出来るっつーのは悪い気しない。

相方さんも美人だったらいいんだけど。

いや、きっとこの展開なら美人に決まっている。

「楽しみだなあ」

なんだかわくわくしてきてしたぞ。

「ああ……吸血鬼と一緒に仕事だなんて……もしマスターにばれたら……ああああ」

一方、ななこは部屋の隅でガタガタ震えていた。

「テメエ嫌がってた本音はそっちかよ!」
 

オレは苦笑しながら叫ぶのであった。
 

続く



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