「ガ、ガード不能連携……」
「慣れると面白いわね、これー」

果たしてオレはアルクェイドさんに勝つことが出来るのか?

そして姉貴たちはアルクェイドさんがいる間に帰ってきてしまうのか?

乾有彦の繰り広げる大スペクタル巨編!
 

「……期待できんのかねえ」
 

なんつーか色々とヤバそうだった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その94






KO!
 

「はい、わたしの勝ちー」
「……ぬぐぅ」

その後何度か挑戦してみたものの、結果は散々であった。

連続技をミスらないという事が、どれほど恐ろしい事なのかオレは深く実感していた。

「さ、次いってみよ」
「あい」

連続技を食らうと負ける。

ということは、相手に手を出させないほどの攻めをしろという事である。

そして攻めを防ぐ鉄壁の守り。

「……」

まあ待て。最後の手段を使うのはまだ早いだろう。

「リスクを背負わないから駄目なのかもな」

まずは心の問題からだ。

「リスク?」
「そうです。アルクェイドさんが負けたら脱ぐって言ってるんだから、オレも負けたら一枚脱ぐとか」

負けても平気だという気持ちがあるから駄目なのかもしれない。

「あは、あはははっ」

それを聞いてやたらおかしそうに笑うアルクェイドさん。

「な、なんスか?」
「だってそれじゃすぐハダカになっちゃうわよ?」
「……」

ちょっとかちんときた。

「やってみようじゃありませんか」
「いいわよ?」

ラウンド、ワン。
 
 
 
 

「けん制刺さって鳳翼……っと」

ボロ負けだった。

「なんか弱くなってない?」
「気のせいでしょう」

いさぎよく上着を脱ぐオレ。

「あれ? ほんとにやるの?」
「そりゃもう。二言はありませんから。もう一回いきますよ」
「……ま、いいけど」

オレがあっさり負けた事には意味がある。

それはある行為をずっと試していたからだ。

「じゃあ次はこっちでー」
「……リープ当たって疾風……」

やる前から結果が見えてるのが嫌である。

「……?」

この勝負の結果もやはりオレの敗北だった。

「ふっふっふっふ」

だがオレは大いに満足していた。

「なんかおかしいわねえ」

首を傾げているアルクェイドさん。

「何もおかしくはありませんって」

ズボンを脱ぐ……とまあトランクス一丁になっちまうわけだが。

「そこまでは許すけど、それ脱いだら怒るわよ?」
「いや、これで負けたら土下座して謝りますから」
「じゃあ土下座確定ね」
「はっはっはっは」

アルクェイドさんは完全に油断し切っていた。

「そこで条件があるんですが」

つけいる隙は、そこだ。

「なに?」
「こいつを使って欲しいんですよ」

オレはアルクェイドさんにあるキャラを使って貰うように頼んだ。

「これでいいの?」
「ええ、構いません」

もちろんそのキャラの技や連携は教えてある。

だから使いこなせないということはない。

「わかったわ。最後の望みだもんね」
「最後になるかどうかはわかりませんよ……」

そんなわけで勝負開始。
 
 
 
 
 

「なかなかやるじゃないの」
「はっはっは」

ラウンド2回終わって1-1。

最初のラウンドをアルクェイドさんが取り、2ラウンド目をオレがかろうじて取った。

「でも、逃げ回ってばっかりじゃ勝てないわよ?」
「それはわかってますって」

ちなみにこの会話中、互いに挑発のような行為をして無駄に遊んでいた。

時間は無制限にしてあるのでこんなことも出来るわけだ。

「ちなみにこれやると攻撃力があがるんですよ」
「そうなんだ。じゃあすっごい強くなってるのかな」
「そうっすね。即死とかあるかもしれませんよ?」
「それはいくらなんでもないってー」

あははと笑うアルクェイドさん。

「……じゃ……そろそろいいッスかね?」
「ええ、いつでもいいわよ?」

お互い画面の中央に。

「はじめっ!」

そして最終ラウンドだ。

「ふふーん」

アルクェイドさんのキャラがじりじりと接近してくる。

「……」

オレはじっと後退しながらその動作を眺めていた。

ふんっ!

そして画面端を背負った瞬間、アルクェイドさんのキャラがけん制攻撃を放ってきた。

がっ!

「あっ?」

それをギリギリで防御……ブロッキングするオレ。

キャラクターが赤く光る。

油断したところでひょいとジャンプ。

やっ!

攻撃がヒット。

せいっ!

おりゃ!

着地して2ヒット、3ヒット。

「ちょ……!」

アルクェイドさんが信じられないといった声をあげた。

それはそうだろう。

たった3度の攻撃で半分近い体力を持っていかれたのだから。

必殺!

しかもオレの攻撃は終わらない。

おりゃー! やっ! せいっ! チェストー!

「こ、これって……!」

そう、オレがアルクェイドさんにやられたのとまったく同じ連続技。

違うのは、その尋常じゃないダメージだ。

うりゃ! やあっ! チェストー!

そしてオレの時と同じようにピヨって。

うりゃ! チェストー!

KO!

「ジ、エンドですね」

この瞬間オレの勝ちが決定した。

「ちょ、ちょっと今のなにっ? 減り方がおかしかったんだけどっ!」

未だに信じられないといった顔をしているアルクェイドさん。

「いや、だから説明したでしょう?」

これやってると攻撃力があがるんですよと。

「そ、それにしたってこんなの……」
「そのキャラを選んでもらったのには理由があるんですよ」

そう、この異様なダメージにはアルクェイドさんの選んだキャラも絡んでいたのだ。

「……もしかして」
「そいつ、防御力全キャラで一番ないんです」

さらにオレはチャンスを狙うためにブロッキングの練習をしていた。

ブロッキングという防御テクニックの直後には相手のキャラに一瞬の隙が出来る。

たとえどんな連続技の出来るプレイヤーだろうがだ。

高等攻撃テクニックに対しての、高等防御テクニックといたっところか。

その練習の成果がこの最終ラウンドで爆発したということである。

「してやられたってわけね……」
「戦略ってやつですよ」

他のキャラでもある程度のダメージを与える事は出来たが、やはりこの組み合わせでこそ真価を発揮するものだったからな。

「ただ、今のは負けに含めなくてもいいっスよ」

今の連続技が成立したのは、お互いの会話の途中で攻撃力をあげていたおかげなのだ。

そういう意味ではアルクェイドさんの協力無くてはありえない展開だったのである。

しかもアルクェイドさんと違って連続技精度が高くないオレが、もう一度アレをやれと言われても無理だと思うし。

「負けに含めなくていいのにやったの?」
「まあ、ちょっと驚かせたかったっつーか」

さすがに負け続けじゃかっこ悪いからな。

一度くらいは凄いところを見せたかった訳だ。

「ううん……いいわ。わたしの負けで」
「は?」

ところがアルクェイドさんはにこりと笑ってそんな事を言いだした。

「本気ですか?」
「どんな理由があったって負けは負けよ。それに」
「……それに?」
「わたしの知り合いに正義を振りかざしてるくせにずるっこい人がいるのよ。その人より全然マトモだもん」
「そ、そうなんですか」

一体どんなヤツなんだろうなあ、そいつ。

すごい自分勝手なヤツなのかも。

「まあ別にアレも嫌いじゃないんだけど……って関係ない話ね」

アルクェイドさんは再びオレに向けて笑ってみせ、上着の裾に手をかけた。

「え、ちょ、マジで脱ぐんスか?」

あれは冗談だとばかり思ってたのに。

「だってあなたも脱いだじゃないの」

まあそれはそうなんだけどさ。

オレのはまあネタってやつで。

「いや……なんでもないです」

オレに止める理由なんぞない。

むこうがいいと言っているのだ。

「あ、そういえば今日つけてなかったっけ……」
「な、なななな何ですと!」

上着を脱ぎかけてつけてないと言ったらアレですか?

豊胸パット!

じゃなくて。アルクェイドさんのは天然モノだろう。

「……」

思わず生唾を飲んでしまう。

待っているのは夢の世界?

ドリームオブドリーム?

意味がわからない。いや意味なんかなくたっていい!

ああ、だがしかしこれでキャンセルされてしまうんじゃないだろうか?

それだけが心配だ!

「んー……ま、いいか」

アルクェイドさんバンザイ!

神様ありがとう!
 

すすす……
 

アルクェイドさんの上着があがっていく。

女の人の衣服を脱ぐ姿というのは実に艶っぽい。

まっ白い肌と、小さなおへそ。

なんて美しさだ。

くらくらしてしまう。

安っぽいグラビアなんぞ目じゃなかった。

そして……そして、この先には!
 
 
 

「……何をしてやがるんですか?」
「ぎくり」
 
 

思わず自分で擬音を発してしまった。

「いや、あの、これは、だな」

振り返らずに言い訳を始めるオレ。

さて冷静に状況を分析してみようか。

オレは今トランクス一丁だ。

周囲にはオレが脱ぎ散らかした衣服が。

で、目の前には今まさに上着を脱ごうとしているアルクェイドさんと。

この状況を覆せる言い訳を思いついたらきっとそいつは神になれるだろう。

「……神様ありがとう」
 

オレはやっぱりテメエの事が大嫌いです。
 

「有彦さんの……ばかああああっ!」
 

ぱっかあああん!
 

ななこの全力パンチを顔面に食らって一瞬で気絶してしまうオレであった。
 

続く



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