全てお見通しとばかりに壮大な誤解をしているシオンさんと、本当に何もわかってないという感じの弓塚のコンビ。
「いや別に何にもなかったんだけどさ」
オレは怪しく笑うシオンさんに大雑把な事情の説明を始めるのであった。
『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その96
「つーわけでアルクェイドさんの愚痴を聞いてあげただけなの。わかる? ドゥユーアンダスタン?」
「ええ、大体の事は」
「……ほんとかよ」
まずその怪しい笑いを止めて欲しいんですけど。
「ほとんど面識もない女性を部屋に入れるのはどうかと思うなあ」
弓塚は苦笑いをしていた。
「だから強引にあがりこまれたんだってば」
「ええ、彼女ならやりかねませんね」
くすくすと笑うシオンさん。
「つーかシオンさんはアルクェイドさんの事を知ってるんだな」
さっきから妙に理解があるような気がするけど。
「ええ。彼女は真……」
「あーストップストップ」
「なんですか?」
シオンさんが何か妙な事を言い出しそうだったので慌てて止めた。
「知り合いだってんならそれでいいんだ。それ以上の情報はいらない。詮索もしない」
「……とすると、有彦は彼女が何者だかもわからずに家に招きいれたと?」
「だからさっきも言ったように強引にあがられたの。全くの他人ってわけでもないんだからさ」
「驚いた。志貴以外の人間に彼女が気を許すとは」
目を見開くシオンさん。
「いや、アルクェイドさんは誰にでもあんな感じじゃねえか?」
「……彼女も人によって対応をわきまえているという事なのですかね……」
「いや何が?」
「詮索はしないのでしょう?」
「……う」
それはそうだけど、そういう言い方をされると気になってしまう。
「何故、有彦は真……アルクェイドについて知ろうとしないのです?」
「必要ないからだ。もうアルクェイドさんには遠野がいるんだし、興味が移るって事もねえだろ」
アルクェイドさんは誰にでも親友のように接しているが、遠野の奴に対しては別格である。
それこそ彼女と言っても間違いじゃないだろうってくらいに。
遠野の奴はどう思ってるんだか知らんが。
「有彦。それは」
「……あ」
しまった、つい。
「あ、あはははははは」
なんともぎこちない笑みを浮かべている弓塚。
つまりまあ、アルクェイドさんがいる時点で弓塚が遠野とどうにかなる確率なんてそれこそ絶望的なのである。
万が一アルクェイドさんに心移りがあったとしても、秋葉ちゃんや翡翠ちゃん、琥珀さんといった強敵が待ち構えている。
とんでもない茨の道なのだ。
なんであんな野郎の競争倍率が高いんだかねえ。
オレのほうがよっぽどいい男だっつーのに。
そう思わないか?
そんな冗談を言って場を和ませたかった。
「べ、別に気にしてないよ? 誰が誰を好きだって自由だもんねっ? あは、あはははは」
「……」
「……」
のだがそんな空気ではなかった。
「こ、こほん。彼女についての話はこれで終わりにしましょう。わたしが心配だったのは貴方が何かの事件に巻き込まれたのではという事でしたから」
「オレが?」
「はい。そういった事はないようですので安心しました」
「なんだ、心配してくれたの?」
「……有彦がいなくなったら、また路頭に迷うことになってしまいますからね」
「はっはっはっはっは」
所詮オレは家のオマケですかい。
「ところで有彦。ななこの姿がないようですが」
「ああ、アイツどっか行った」
オレとアルクェイドさんの関係を勘違いしたままで。
「探しに行かなくていいのですか?」
「いいだろ別に」
放っておけばそのうち帰ってくるだろ。
「そうではなくてですね……」
ちらちらと弓塚を見るシオンさん。
「……ああ」
そういうことね。
「わーった。ちょいと探しに行ってくらあ」
女同士のほうが話しやすい事もあるだろうしな。
「んじゃま弓塚」
背中をぽんと叩く。
「あ、うん、なに?」
「弓塚のゆはゆんゆんのゆだ!」
「……ごめん、どこが面白いのかわからないな」
なんともいえない表情をしている弓塚。
「……オレもわからん」
一体何がしたかったんだか。
「ありがと」
「いや悪かった」
「ううん」
短い会話を交わして部屋の外へ。
「姉貴ー。弓塚たちなんか用事あるみたいだからメシとか適当に用意しろよー」
姉貴の部屋に向かって声だけかけておいて町をぶらつくことにした。
「……せめて金を持って来るべきだった」
気付いたのはゲーセンの中に入ってからであった。
「失敗したな……」
外はもう半分星空が見えていた。
「図書館も空いてねえだろうし」
どこでヒマを潰したもんか。
「めんどくせえ……」
もうアレだ。近所の公園で寝るとしよう。
不思議とあの公園にはアベックとかも来ねえから静かだろうしな。
急いでもしょうもないのでのんびりと公園に向かう。
昼は蒸し暑かったが今は涼しくてちょうど過ごしやすい感じだった。
「おー」
公園では変わりばえのない噴水がひたすらに水を吹き出していた。
「……ん?」
ところがその噴水の脇に見覚えのある人物が。
これがななこだったら楽だったんだけど。
「アルクェイドさん?」
「あ」
厄介な事にそれはさっき別れたはずのアルクェイドさんだった。
こんなところにいるってことは。
「まだ遠野のヤツと会ってないんですか?」
「ん……ちょっとね」
「はあ。なんて謝ったらいいかわからないとか?」
仕方なくアルクェイドさんの隣に座るオレ。
「謝るっていうか……別に悪い事したわけじゃないし」
「なら別に会う事を躊躇する必要はないでしょう」
「……」
会いに行けないって事は、アルクェイドさんは悪い事をしたと考えているわけである。
ただそれを認めたくないというだけであって。
「なんつーか、アルクェイドさんは遠野の前では完璧な自分でありたいんですよね」
「……」
誰だって多かれ少なかれそうだろう。
人に弱みなんて見せたくはない。
「アルクェイドさんって何でも出来る感じがするし」
格ゲーの時もそうだったけど、一言で言うなら彼女は天才なのだろう。
「逆に遠野はなんでもフツーっていうか……あいつ弱みをあんまり隠さないんですよね」
例えば体が弱いということもそうだったけど。
あいつはアルクェイドさんと別の意味で素直なヤツである。
「まー、人の問題にあれこれ口出すつもりはありません」
何度も言うがオレは厄介ごとは嫌いなんだ。
首を突っ込むのは本当に親しいヤツとの事だけである。
まあこの場合、遠野のアホという悪友の問題でもあるわけだから、一応は付き合ってるわけだけど。
「……どうしよっかな」
「さあ」
オレもどうしたもんかねえ。
「はぁ……」
「……ふう」
二人のため息が空しく響くのであった。
続く