「……どうしよっかな」
「さあ」

オレもどうしたもんかねえ。

「はぁ……」
「……ふう」
 

二人のため息が空しく響くのであった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その97








「んー……」

話題もなく、ただ無為な時間だけが過ぎていく。

ぐきゅるるるるる……

「……腹減ったな」

そういえば今日はマトモに何かを食べていない気がする。

腹をさすってみたらすっからかんであった。

「何か食べに行く?」
「そうっスね……」

そのへんの牛丼屋で軽く済ませるとしようか。

「じゃあどこ行こっか?」
「ん?」
「……ん? じゃなくて。食べに行くんでしょ?」
「アルクェイドさんも来るんですか?」
「駄目なの?」
「駄目ってわけじゃないですけど」

アルクェイドさんと一緒に牛丼屋じゃなあ。

とてもイメージに合わない。

「ここでこうしてたってしょうがないし」

なら遠野のところへ行けばいいじゃないですか……とは言わない。

そんな事をほざくのは空気の読めないヤツだ。

だいたいこんな美人の誘いを断る理由なんてどこにもないわけで。

「じゃあ、オレの知ってるとこで美味い店あるんですけど、行きます?」
「ええ。期待させてもらうわね?」
「きっと気に入りますよ」

オレはその店目指してアルクェイドさんと一緒に歩き出した。

ちゃんといればいいけどな。
 
 
 
 
 

「よっと」
「へぇ……」

アルクェイドさんはちょこんと椅子に座って店の道具を興味深そうに見ていた。

「面白いでしょう」
「こういうところで食べるのは初めてね」

そりゃそうだろう。

この店で誰かが食ってるところを見た事があるのはオレと遠野くらいだからな。

「ニンニクラーメンチャーシュー抜きのタマゴ入りで。アルクェイドさんは何を?」
「……ニンニクは嫌いなのよ」

オレの注文を聞いてアルクェイドさんは心底嫌そうな顔をしていた。

「ああ、さっきの訂正。ニンニクラーメンニンニク抜き……ってそれじゃただのラーメンじゃねえか」

ひっひっひと笑って見せるオレ。

「……チャーシューメンのニンニク抜きで」
「心配しなくても頼まなきゃ入れませんって」

ここは機動屋台、中華反転マークII。

クラスメートの高田の兄が道楽でやってる屋台だ。

基本的には神出鬼没なので捕まえるのが難しい。

ただし名前の通りの機動屋台なので、気か向けば電話一本である程度の距離までは移動して来てくれるという素敵なシステムがあったりする。

あくまで気が向いたらというのがネックなのだが、美人がいるぞという一言のおかげで公園から徒歩数分の位置に屋台を設置してくれたのである。

知り合いなのでツケもオッケー。

財布を忘れたオレでも美味しくラーメンが食べられるわけだ。

「……」

そうこうしているうちにオレの前にドンブリが差し出される。

「お、来た来た……」

沸き上がる湯気、鼻をくすぐる香ばしい匂い。

「先に食べていいわよ?」
「そうっスか? じゃあ遠慮なく」

ずぞぞぞぞとメンをすする。

「かあーっ! うめえっ!」

もちろん空腹効果もあるんだろうが、ここのラーメンはいつ食ってもクオリティが高い。

「そんなに美味しいんだ?」
「ええ」
「ふーん……」

待ち遠しそうに高田兄の動向を見守るアルクェイドさん。

「ラーメン好きでした?」
「志貴がたまーに作ってくれるの」
「へぇ」

あいつがねえ。

「……あ」
「ん?」

アルクェイドさんは思い出したかのように目を見開いた。

「でもね、わたしはニンニクが嫌いなのにニンニクが入ってたのよ。酷い話よね」
「そうなんスか」

そんな無理やりにケンカしてる状態を復活させなくてもいいだろうに。

「……」
「お」

そうしている間にアルクェイドさんの前にもラーメンが差し出された。

「うわ、すっげえサービス。ちょっとずるくないですか?」

確かにチャーシューメンと頼んだけれど、どう考えてもありすぎだろってくらいに肉が詰め込まれていた。

「……」

何も言わずにぐっと親指を立てる高田兄。

「ありがとう」

アルクェイドさんはにこりと微笑んだ。

「美人は得ですね」
「褒めても何も出ないわよ」

と言いつつオレのドンブリにチャーシューを入れてくれる。

「あざーっす」

ありがたくそれを頂戴するオレ。

「へぇ……」

アルクェイドさんはラーメンを食べて感嘆の声を漏らしていた。

「どうです?」
「志貴のラーメンと似てる気がするわ」
「似てるつーかまあ、師匠みたいなモンですから」
「そうなの?」
「ええ。昔二人で作り方を教わった事がありまして」

オレはホントにかじった程度だけど、遠野のヤツはクソ真面目だから何度か通って作り方を教わったみたいだった。

「ふーん」

そんな話を興味深そうに聞いているアルクェイドさん。

「これ食べたら遠野に会いに行きましょうね」

オレはつゆをすすりながらそう言ってあげた。

「……なんでそういう話になるのよ」
「遠野の話ばっかりしてるからです」

結局アルクェイドさんの関心はアイツの事にあるわけである。

「……それは」
「謝りにいきましょうよ」
「だって……」

なんでも出来るっていう人に限って謝るのは下手だったりする。

それはプライドのせいかもしれないし、失敗の経験が少ないせいだろう。

「別に遠野だって本気で怒ってるわけじゃないんだから」
「そうなのかしら」
「そうですって」

だいたいアレは人を嫌いになろうったってなれないヤツである。

それがこれだけ好意を持たれてるんだから、悪く思ってるはずがない。

「……」
「ま、人生なんてこのラーメンみたいなもんですから」
「何それ?」
「遠野にも一度言った事あるんですけどね」

熱いうちが美味い、冷めればゴミ。

「そうやって青春やってるうちは上手く行きますよ」

失敗だろうがなんだろうが、後できっといい思い出になるはずである。

「変わってるわね、貴方」
「よく言われます」

そして彼女はオレ以上に変わり者だと思う。

「そうね。食べ終わったら謝りに行きましょうか」

アルクェイドさんはスープをれんげで飲んだ後にそんな事を呟いた。

「ずいぶんな心境の変化ですね」

あれだけ会うのを渋ってたのに。

「貴方の言う事ももっともだと思って。楽しめるうちに楽しまなきゃ損だもの」
「さいですか」

どうやらオレの言葉が効いたらしい。

遠野のやつもこれで妙に納得してやがったんだよな。

案外そういう感性みたいなもんが似ているのかもしれない。

「まあ、程々にしといてやって下さいな」
「そうね。程々にね」

にぱっと笑うアルクェイドさん。

「ははは……」

こっから先はオレがいなくても大丈夫だろう。

「んじゃオレはちょっとヤボ用があるんで行きますわ」
「そう? 悪かったわね、色々」
「いやいや」

ホント幸せもんだよアイツは。

「サービスでデザートがあるんでそれでも食べて下さいな」
「ありがと」

相変わらず無言でデザートのケーキを差し出す高田兄。

ラーメン屋でケーキってのもどうかと思うが、その甘ったるさがラーメンの味と相反してなかなかいけたりする。

「……さてと」

オレは暖簾をくぐって歩き出した。

「友人思いのオレに感謝しろよ」

曲がり角。

中華反転マークIIを呼ぶついでに電話しといてやった遠野のヤツがなんともいえない顔をしてオレを待っていた。

「恩に着る」
「おう」

軽く頭を下げて屋台へ向かって行く遠野。

「あ……有彦!」
「ん?」

確認して歩き出そうとすると、振り返ってオレの名を呼んだ。

「あいつ、何か変な事言ってなかったか?」
「んー? 別に? 何か言ってた気もしないでもないけど忘れた」
「……そっか」

これは嘘偽りなく正直な答えである。

シオンさんからも詳しい事は聞かなかったからな。

「つくづくすまない」
「なぁに」

オレは手でしっしと遠野を追っ払う仕草をした。

「さってと……」
 

これで一方の問題はなんとかなったとして。
 

「後どうすっかねぇ……」
 

この先どうしたもんか、さっぱり検討がつかなかった。
 

続く



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