「さってと……」
 

これで一方の問題はなんとかなったとして。
 

「後どうすっかねぇ……」
 

この先どうしたもんか、さっぱり検討がつかなかった。
 
 

『ななこ・すーぱーがーるカンパニー』
その98






「……」

オレは夜の街を徘徊していた。

こんな事をしていたって何の解決にもならない。

検討がつかないとは言ったが、方向性はわかっているのだ。

つまりななこを呼び出して話をすればいいだけなのである。

あれは誤解なんだと。

ちゃんと説明すればあいつだって理解してくれるだろう。

「……人には偉そうな事言っといてこれだからなぁ」

それが簡単に出来ないのが不思議なところである。

きっと昔のオレだったら簡単に呼び出す。

それどころかアレは誤解でもなんでもなく事実なんだとウソをかますくらい出来たろう。

「……情は抱かんつもりだっただがなぁ」

それこそ遥か昔の話。

一度心を許してしまった相手を無下には出来なくなってしまっていた。

特にアイツの場合下らない事でもイチイチ誤解してつっかかってきやがるからな。

「めんどくせぇ……」

しーらねと言って放ったらかしにするのが一番楽だ。

楽だけどそれはイヤだ。

「……」

無駄に時間は過ぎていくばかりである。

「あーっ!」

頭を掻きむしるオレ。

「おや乾君じゃありませんか。こんな時間に出歩くなんて不良さんですね」
「ん?」

声のしたほうを向くと見知った人物が立っていた。

「……先輩こそこんな時間に歩いてちゃいけないでしょう」

なんだか会うのがものすごく久しぶりのような気がするシエル先輩である。

「わたしはちょっと野暮用がありまして」
「オレもそうなんですよ」
「それはどんな用事なんですか?」
「そういう先輩のほうはどうなんです?」

オレがオウム返しにすると先輩はくすくすと笑った。

「乾君。時間があったら少しお話しませんか?」
「オレは遠野じゃないですよ?」
「ええ。知ってます」
「む……」

さすがはシエル先輩。

オレのジョークを嫌な顔ひとつせずに流してくれる。

「さっきラーメン食ったんでカレーはキツイですが」

そりゃその気になれば食えるだろうけどさ。

「ええ構いませんよ。スパゲティでも食べましょうか?」
「いや同じですって」
「んー。カラオケにでもしましょうか」
「そうっスね」

と軽く頷いて気がついた。

「これってデートに誘われてます?」
「……ああ」

言われて先輩も気付いたような顔をした。

「じゃあそういうことにしておきましょう」
「敵わないなぁ」

シエル先輩はななこ以上にオレの扱いが上手い気がする。
 
 
 
 

「まあカラオケに来て何も歌わないのもなんなので」

先輩がまず一曲披露してくれた。

カラオケの歌ですらカレーを選ぶシエル先輩のこだわりにはただもう関心するしかなかった。

「乾君もどうです?」
「ええ」

歌うのはストレス解消にもなるしな。

「えひめのみ・か・ぁーん!」

のっけからこんなのを選ぶオレはとことんバカだと思う。

「いいですねえ。みかんに対する情熱が非常に感じられましたよ」
「……そんな真面目なコメントをされても」
「ふふふふ」

こくりとウーロン茶を口へ運ぶシエル先輩。

「ではそろそろ話してくれてもいいんじゃないですかね?」
「ん……?」

一瞬先輩のメガネがきらりと光った気がした。

「ああ、ええ、そうっスね」
「あ、あれ?」
「どうかしました?」
「……ああ、いえナンデモアリマセン」

急に慌てた素振りを見せるシエル先輩。

一体どうしたんだろう。

「トイレに行きたいとか」
「違います」
「……スイマセン」

怖いので謝っておいた。

「まあ大した話じゃないんですよ」

ちょっとした誤解であるやつの機嫌を損ねてしまいましたと。

そのままそいつはどっかに行ってしまったので探している途中です。

さすがに呼べば出てくるとは言えなかった。

「あー。そういう話わたしもつい最近聞いた事がありますよ」
「そうなんですか?」
「はい。といってもちょっと逆の話なんですけどね」
「逆?」
「わたしの友人と誰かがケンカしちゃったって相談されてる最中なんです」
「あー」

なるほど確かにそりゃ逆だわな。

「話を聞くと一方的にそのケンカ相手が悪いような感じなんですが」
「酷い奴もいるもんですねえ。そんなやつは懲らしめてやらんと」
「乾君もそう思いますよね?」

何故かやたら可笑しそうに笑うシエル先輩。

「でもその言い分が100%正しいとは限らないわけじゃないですか」
「……まあ大体は誇張されてるでしょうね」
「ええ。そうだと思います。っていうか確信してます」
「はぁ」

そこまで言い切らせる要因ってのは何なんだろうな。

「ま、人は多かれ少なかれウソはつくし裏表もあるもんですよ。その友人とやらは悪くないでしょう」
「そういうところ大人ですよね、乾君って」
「よしてくださいよ」

先輩みたいな人にそんな事を言われるのはくすぐったかった。

「最近そういう表裏っつーかなんていうかの事で悩んでる相談を受けて。それでそんな事を言ったってだけです」
「乾君も色々大変なんですね」
「そうですね……楽しくやってはいますけどね」

あいつは色んな事を気にしすぎなのである。

オレみたいに気にしなさ過ぎるのもアレだが。

「これは聞いた話なんですけどね」
「ええ」
「友達が少ない人ってそれを失うのを極端に恐れるなんだそうですよ」
「でしょうね」

ただでさえ少ないのに、それがいなくなったら一層孤独を感じてしまうだろう。

「なのに相手には理想の状態を要求してしまう……なかなか難しい問題なんですけど」
「アイツがそんなタマですかねえ」

どんな悪口を言ったって気にしないようなヤツだと思うんだがな。

「人は見かけによらないものですよ。乾君がその最たる例じゃないですか」
「なるほどそりゃ確かに」

思わず笑ってしまった。

「オレみたいに見た目もナイスガイで中身もナイスガイな男はそうはいませんからね」
「そういう人が友達や彼氏だったらきっと楽しんでしょうね」
「どうですか? 先輩?」
「残念ですが対象外ということで」
「……はっはっは」

そこまできっぱり言われてしまうとかえって清々しかった。

「じゃま、もう一曲くらい歌ったら行きますわ」
「おや、いいんですか?」
「ええ。オレも悪いところ……つか全面的にオレが悪いんで。とにかく謝ります」

なるほど、オレはあいつのことを面の皮が厚いヤツとしか考えてなかった。

一応アレもメス……もとい女なわけだ。

繊細な部分なんぞもあるのかもしれない。

ゆっくりと話を聞いてやろうじゃないか。
 
 
 
 

「じゃ、また」
「ええ」

その後シエル先輩の歌をもう一曲だけ聞いて別れる事になった。

「必ず返しますんで」

カラオケを出る時に金を持ってない事を思い出してしまった。

「いいですよ、そんな事。誘ったのはわたしなんですし」

先輩は笑顔で奢ってくれたけれど、今度返しに行かなきゃな。

「……すいません。それじゃあ」
「はい」

そろそろ遠野のやつらもいないだろうし、オレはさっきの公園を目指して駆け出すのであった。
 
 
 
 
 

「聞いていたんでしょう? セブン。行ったほうがいいんじゃないですか?」
「……」
「まったく……強情なんですから。誰に似たんでしょうねえ?」
 

続く



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