視線の先では下着を拾い上げている翡翠。

「う」

つまり拾っている下着イコール翡翠のものなわけだ。

うーん、そうか、翡翠はあんな下着を着てるのか、うーむ。

「……うう」

くそ、どっちを見ても駄目じゃないか。

一体俺にどうしろって言うんだ。

ああ困ったなあ。

翡翠か琥珀さん。

どっちを見ても天国。
 

「……なに、にやけてるのよ」
「うわっ!」
 

気付いたらアルクェイドがかなり不満そうに俺を睨んでいるのであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
その11









「な、なんだよ。元はといえばおまえのせいでこんな騒動になったんだからな……」

そうだ、ここはアルクェイドに説教をしてやらなきゃ。

俺はアルクェイドに向き直り、近づいていった。

「っ!」
「?」

するとばっと身を引くアルクェイド。

「どうしたんだ?」
「こ、来ないでっ」
「?」

なんだか知らないが嫌がられている。

「どうしたんだよ、おい」
「い、いやっ……どうして……」
「何がどうしてなんだよ?」
「し、志貴からニンニクの匂いが……」
「あ」

そうか、しまった。

あれだけニンニクを食べた後だ。

ニンニクの匂いがしないほうがおかしい。

「……あはっ」

すると琥珀さんが謎の笑みを浮かべていた。

「実はですね、アルクェイドさん」

そう言いながら俺とアルクェイドの間に割って入る。

「何よ」

琥珀さんを睨みつけるアルクェイド。

しかしそんなことでは琥珀さんは動じない。

「アルクェイドさんが悪いことをしたから魔法をかけたんですよー」
「え、ええっ!」

驚愕の声を上げるアルクェイド。

声を上げたいのは俺も同じだ。

琥珀さん、なんのつもりなんだろう。

「ど、どういうことなの?」
「つまり志貴さんがニンニクの匂いを出している限りアルクェイドさんは近寄ることも出来ません」

それは確かにそうだ。

アルクェイドはかなり嫌がっている。

「アルクェイドさんのあまりの悪事に見かねこの琥珀、禁断の秘術を使わせてもらいましたっ!」

びしぃっ!

変な決めポーズまで取っている琥珀さん。

いや、秘術もへったくれも、ただ俺がニンニクを大量に食べただけでしょうに。

「琥珀さん。そんなのアルクェイドが信じるわけないよ」

そう言いかけたとき。

「な、なんて恐ろしいコトをしたのっ……」
「……おいおい」

アルクェイドは本気で信じ込んでいた。

コイツ本当に真祖の姫君なんだろうか。

「それじゃあ志貴に抱きつくこともキスすることもできないじゃないっ!」

そんなこと大声で叫ぶな。

「そうですねー。出来ませんねー」

琥珀さんはにっこりと笑いながら俺のほうへ向き直った。

「でもわたしは平気ですよ」

言うなり琥珀さんは俺に抱き着いてきた。

「ちょ、ちょっと! 志貴になにするのよ!」

アルクェイドが叫ぶ。

だがニンニクの匂いのせいで近づきたくないようだ。

「こ、琥珀さん、何を」
「もう少しお付き合い下さいな。悪いようにはいたしませんから」

ね、とおねーさんっぽい笑みを浮かべる。

うーん、こういう表情には弱いんだよなあ、俺。

「わ、わかったよ」

しょうがないので琥珀さんのなすがままにされることにした。

「んーっ」

おでこにキスをされてしまった。

「こ、琥珀さん……」

なんだか凄くドキドキしてしまう。

「アルクェイドさんが罪を反省して悔い改めるのであれば、魔法を解いて差し上げますけれど?」

琥珀さんはなでなでと俺の頭を撫でる。

やたら滅法恥ずかしいけど、なかなか心地よい。

「……」

うわあ、アルクェイドが凄い顔してる。

なんというか、驚きと嫉妬と羨ましさとが混ざった感じだ。

「いかがですか?」

琥珀さんが尋ねる。

「あ、あ、謝るっ。ごめん、もうしない、許して、ねえっ」

アルクェイドは必死だった。

「あはっ、しょうがないですねー」

琥珀さんはひょいと俺から離れ、ごそごそと裾から何かを取り出して俺に渡した。

「これは……」

ガムだ。

しかも大量の。

「まとめて食べちゃってください」
「あ、うん」

口臭消しの基本である。

大量にニンニクを食べたからこっちも大量に取らなきゃならない。

もぐもぐ。

7、8枚をまとめて口に入れる。

「ねえっ、謝ったんだから早く志貴を戻してよっ」
「そうあせらないで下さいな。いいですか。人のものを勝手に持ち出してはいけません」
「わたしちゃんと書置きしたもんっ」

ムキになって反論するアルクェイド。

「その書置きも大問題ですっ。借りるならちゃんと借りると書く。名前もです。なんですかあれは。泥棒そのものの書置きじゃないですかっ!」

めっ、と子供をしかるように指を立てる琥珀さん。

「うー、わ、悪かったわよ。ごめんなさい、もうしないから」
「本当ですか?」
「ホントよ。絶対しない」

まるでお母さんと子供を見てるようなやりとりである。

「うーん、それならいいでしょう。今回は許して差し上げます」
「ほ、ほんとっ」
「ええ。志貴さん?」

紙を差し出す琥珀さん。

「あ、うん」

噛んでいたガムをそれに包む。

「はぁー」

息はもうすっかりクールミントだ。

「ほら、もう大丈夫だぞアルクェイド」

くいくいと手招きをする。

「……」

アルクェイドはまだ疑ってるのかなかなか近づいてこようとしない。

「しょうがないなぁ」

自分から近づいていってやる。

「あ、ほんとだ、平気……」
「だろ」

するとアルクェイドは満面の笑みを浮かべ。

「志貴、志貴志貴志貴ーっ」
「こ、こらっ!」

俺に向かって思いっきり飛びついてきた。

「わーい、わーい」

子供のようにはしゃぐアルクェイド。

「しょうがないな、まったく……」

まあすりすりと頬擦りされたり胸が当たったりなんだりで気持ちいいのでそのままにしておく。
 

ばたん。
 

「ばたん?」

なんだろう。

「げっ!」

音のしたほうを見ると、翡翠が顔を真っ赤にして倒れていたのであった。
 

続く



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