子供のようにはしゃぐアルクェイド。
「しょうがないな、まったく……」
まあすりすりと頬擦りされたり胸が当たったりなんだりで気持ちいいのでそのままにしておく。
ばたん。
「ばたん?」
なんだろう。
「げっ!」
音のしたほうを見ると、翡翠が顔を真っ赤にして倒れていたのであった。
「屋根裏部屋の姫君」
その12
「あはっ、翡翠ちゃんにはちょっとばかり刺激が強すぎましたかねー」
琥珀さんに抱きつかれるは、おでこにキスされるは、アルクェイドに抱きつかれて頬擦りされるわだからなぁ。
翡翠はそういうのに滅法弱い。
「ど、どうしたの、翡翠」
アルクェイドが驚いた表情で俺に尋ねる。
「おまえのせいだ、ばか」
「え? え?」
不思議そうだった。
まあ無理も無いけど。
「どうしよう琥珀さん」
とりあえず翡翠をこのままにしてはおけないだろう。
「わたしが部屋に連れていきますよー」
「あ、うん。でも下着は……」
「下着がどうかしましたか?」
「う」
既に一枚も無かった。
いつの間に拾い上げたんだろう。
というか、どこに仕舞ったんだ。
……深く考えないでおこう。
「宜しいですか?」
「う、うん。頼むよ」
「わかりましたー」
倒れた翡翠の頭を起こし、ぐっと自分の体に密着させる。
「ふふ、翡翠ちゃんもこんなに成長して……」
セリフはなんだか感動的だが翡翠の胸をむにむにと触ってたりするので台無しである。
「志貴さん。翡翠ちゃんをおぶっていきますから、ちょっと背中に乗せてください」
「あ、うん」
翡翠の体を持ち上げて、琥珀さんの背中に乗せる。
言っておくが変なところは触っていない。
「それから志貴さん。アルクェイドさんが食事を終えたらわたしの部屋に来て下さいな」
「わかった」
何かはわからないが、とりあえず琥珀さんに従っていたほうがいいだろう。
「ではではー」
翡翠をおぶさりながら琥珀さんはゆっくりと歩いていった。
「アルクェイド。ドア開けてくれ」
「うん」
一番ドアに近い位置にいたアルクェイドがドアを開けさせる。
琥珀さんはぺこりと会釈して部屋を出ていった。
「ふう……」
とりあえず一段落だ。
「なんだか騒々しかったね」
「おまえのせいだっつーに」
即座にツッコミを入れる。
「うー。わかってるもん」
アルクェイドは拗ねるような仕草をした。
こういう仕草にも弱い。
「まったく。いいから飯食べちゃえよ。冷めちゃうぞ」
琥珀さんが持ってきたカレーを指差す。
「えー? わたしシエルじゃないよ?」
予想通り不満そうだった。
「文句言うな。嫌ならニンニクチャーハンだぞ」
もうニンニクはないのだがそう言って脅しておく。
「わ、わかったわよ。もう」
ぶつぶつ文句を言いながらもアルクェイドはカレーの皿を手に取った。
「ベットの上で食べていい?」
「おう。汚すなよ?」
「わかってるって」
ぱくりと口に入れる。
「あ、おいしい」
「だろ」
さすがは琥珀さん作のカレーである。
市販のカレーよりも味に深みやらコクがあるのだろう。
シエル先輩が食べたときもものすごく喜んでたからなあ。
「ん〜♪」
アルクェイドは上機嫌でカレーを食べている。
しかしスカートの上にお皿を置いているのでちょっと食べ辛そうだ。
屋根裏部屋にテーブルも用意してやらないとなあ。
それにベッドのこともまだ解決してないし。
まだまだ問題は多い。
「志貴ー」
そんなことを考えているとアルクェイドが声をかけてくる。
「なんだよ」
「お水」
「へいへい」
水差しを取ってコップに注いでやる。
「ありがと」
「おう」
ごくんと水を飲み干すアルクェイド。
「志貴もいる?」
「いや、いいよ」
「いるでしょ?」
「いいって」
「いるったらいるでしょっ」
何故かアルクェイドはムキになっていた。
なんなんだ、まったく。
「わかったよ、いるよ」
「うん」
アルクェイドは俺から水差しを受け取り(奪い取りと言うほうが正しい)コップに水を注ぎ、俺に手渡してきた。
「どうぞ」
「ありがとよ」
出された水をこくりと飲む。
「えへへー」
それだけでアルクェイドは嬉しそうだった。
「なんだよ、気持ち悪いなあ」
そう言うとアルクェイドは恥ずかしそうに「間接キスだもん」とか言った。
「……」
ああ、どうやらコイツはそれがやりたかったらしい。
「回りくどいコトするなぁ」
なんだか照れくさくてそんなことを言ってしまう。
「うー」
拗ねるアルクェイド。
「そんなことしなくたってさ。キスくらいいつだってしてやるぞ」
うわ、なんか俺死ぬほど恥ずかしい事言ってる。
「ホ、ホントッ?」
目を輝かせるアルクェイド。
「ああ、ほんとだよ」
さすがに言いきってしまったので否定することが出来ない。
「じゃ、じゃあ……その……して」
アルクェイドはもじもじしながらそんな事を言った。
ああ、そんな表情は反則的だ。
するなと言われたってしたくなってしまうだろう。
「わかった……」
俺はアルクェイドにそっと近づき、頬に手を触れた。
「アルクェイド……」
名前を呼んでやり、アルクェイドがゆっくりと目を閉じる。
そしてその薄紅色の唇に近づき。
「あ、や、やっぱり駄目っ」
そんな事を言われてぐいと顔を引き離されてしまった。
「な、なんだよ、おい」
アルクェイドのほうからキスしてくれとか言ってきたくせに。
かなりの消化不良である。
「だ、だって」
アルクェイドは凄く複雑な表情をしていた。
「なんだっていうんだよ」
少し苛立ちながら聞く。
「わたし、カレー食べてるんだよ?」
「ああ、それがなんだよ」
「だから、その、キスがカレー味になっちゃうじゃない」
「そ、そうか」
言われてみればそうだよなぁ。
俺が問題無いとしたって、それはアルクェイドとしては嫌なことだろう。
「それじゃあ……駄目だな」
うん、アルクェイドの気持ちを大事にしてやろう。
「カレー味のキスなんか……志貴がシエルに取られるみたいじゃないの」
「そっちかいっ!」
思わずつっこんでしまった。
「だ、だってぇー」
「まあ確かに先輩は時々……いやむにゃむにゃ」
余計なことを言うと酷い目に遭いそうだから黙っておこう。
「とにかく、止めよ」
幸いアルクェイドに俺の呟きは聞こえてないようだった。
「そうだな、うん」
俺もその意見に同意しておく。
こんこん。
そこへノックの音がした。
誰だろう。
翡翠はまだノックダウンしてるだろうし、琥珀さんは部屋に来いと行ったんだから来るわけがない。
……まさか。
とてつもなく嫌な予感がした。
「兄さん。宜しいですか?」
「あ、あ、あきっあきっあきっ、秋葉っ!?」
その人物とは他でもない我が妹、遠野秋葉であった。
続く