「ドア開けて差し上げますねー」
「どうも」

来た時と同じように琥珀さんがドアを開けてくれる。

「俺が先に出るぞ」
「うん」

後ろ向きに下がっていき、琥珀さんの部屋から出る。

続いてアルクェイド。

「では、また何か問題がありましたらいらしてくださいねー」
 

そう言って手を振る琥珀さんに見送られ、俺たちは部屋を後にするのであった。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
その15













「じゃ、俺どんどん物を持ってくるからおまえが上に運んでくれよ」
「うん、わかった」

部屋に椅子チェンジ型ベッドを運び、俺は廊下の隅に置いてあったその他諸々を取りに行くことにした。

アルクェイドは一度目の跳躍で屋根裏部屋の入り口を開け、二度目の跳躍で椅子ベッドごと上へ入りこんでいく。

アレが通るかどうかは少し心配だったが、どこかにぶつかることもなく運べたようだ。

意外とあの入り口でかいんだなあ。
 
 

部屋の外に出る。

廊下の端まではすぐだ。

「何から運ぶかな……」

テーブルはもとより、ランプ、蛍光灯、本棚にタンス、奇妙な置物まで置かれていた。

「テーブルからにするか」

確かタンスは最初から屋根裏部屋に置かれていたはずだ。

それを使わせればいいだろう。

「んしょ……と」

円形のテーブルの下の部分を持ち上げ、部屋へと運んでいく。
 

「おそーい」

アルクェイドはご立腹だった。

「おまえの作業が早すぎるんだよ」

俺が部屋の外に出る前に上へ昇ってたくらいだからな。

「わたしも一緒に運んだほうが早そうだね」
「いや、でも俺だけでもなんとかなるからいいよ」
「そう? ならいいけど」

あまりアルクェイドばかりを働かせるのも気が引ける。

俺だって少しは頼りになるところを見せてやらなきゃな。

「よし」

テーブルを置いてすぐに外に出る。

ダッシュで壁際に。

ええと次は……蛍光灯だ。

屋根裏部屋には蛍光灯をはめる部分はあったがそのもの自体はついていなかった。

使われてなかったんだから当たり前だけど。

これさえつければ夜も明るい。

もう8時を過ぎたんだから、屋根裏はだいぶ暗いというかほとんどまっくらになってしまっているだろう。

先にこっちを持っていけばよかったかもな。

「と、そんなことを考えてるより動く動く」

3つほどをまとめて掴み、急いで部屋に戻る。
 

「おそーい」

やっぱりご立腹だった。

「これでも急いだんだぞ」

苦笑しながら蛍光灯を渡す。

「? なにこれ」
「蛍光灯だよ。電気無くちゃ暗いだろ」
「そっか。天井でちかちかしてるやつね。これ、どうやって光るの?」
「あー。おまえ付け方なんか知らないよな。無理も無いけど」

俺だって居候していた有間の家で取り替えたことが無かったら付け方を知らなかったままだったろう。

「じゃあ俺がやるよ。アルクェイド、はしご上から降ろしてくれ」
「あ、うん」

アルクェイドはひょいと昇ってなわばしごを降ろしてくる。

それを掴んで上へあがる。
 

「……まっくらくらのけ」

そこは漆黒の世界だった。

「志貴、ひょっとして何も見えない?」
「見えるわけが無い」
「不便ねー。わたしはちゃんと見えるよ?」

さすがは真祖。

「まいったな。これじゃ蛍光灯つけるにつけられないぞ」
「それじゃあ不便よね。わたしは平気でも志貴が困るもん」

姿は見えないが、きっとアルクェイドは腕組でもしてるだろう。

「下にランプがあったんだよな。アルクェイド、取ってきてくれよ」

油で点くものではなく、スイッチひとつで明かりが点く電池のやつである。

見た目は洋風だけど。

「うん、わかった」

アルクェイドは俺の部屋から僅かに入ってくる光の中へと消えていく。

「……」

暗闇の中にいると神経が剥き出しにされたような感じだ。

自分の呼吸音や心臓の音がはっきりと聞き取れる。

そしてなんとなく心細い。

「どこー?」

アルクェイドの声が聞こえる。

それで少し安心した。

「ベッドの頭の上辺りだ」
「あ、これかな」
「多分そうだ。持ってきてくれ」
「うんー」

しゅたっと着地する音。

「貸して」

少しは目が慣れてきたが、ほとんど何も見えないので暗闇に向かって手を差し出す。

「はい」

手にかかるランプの重量と、アルクェイドの手の体温。

他のものが見えないだけに、その体温はなんだか心強かった。

「よし、と」

ランプの横を探り、スイッチをつける。

ぽう、とその周辺が明るくなった。

光の中、すぐに目に入ったのはアルクェイドの顔。

「アルクェイド」
「ん、なに?」
「いや、呼んでみただけ」
「なによ、ヘンなの」

ああ、コイツといると落ち着く自分を実感してしまった。

だけどそんなことを言うのもなんだか照れくさいので黙っておこう。

「じゃあ志貴が蛍光灯つけてる間、わたしが物を運んであげるね」
「おう、そうしてくれ」

アルクェイドはまたいなくなってしまった。

「……まあすぐ帰ってくるしな」

さっさと電気をつけてしまおう。

「えーと」

ランプの光を頼りに天井を探す。

「お、あれだ」

この家にしては珍しい、普通に天井につけるタイプのものだ。

「えーと」

そのへんにアルクェイドが持ってきた椅子ベッドがあるはずだ。

「お、これこれ」

ぺしぺしと柔らかさを確認してみる。

「へえ、意外と柔らかいじゃないか」

例えて言うならばアルクェイドの太もも。

「……訳わからんな」

自分で自分につっこみつつ、蛍光灯をつける場所の下へと移動する。

「よっと……」

さすがに屋根裏部屋だけあって天井は低い。

椅子ベッドの上から手を伸ばすだけで簡単に天井に手が届いた。

「えーと」

蛍光灯を箱から取り出し、ぱち、ぱちとはめていく。

二つでワンセットなのでもうひとつ。

「うし、次」

部屋の右側と左側にそれぞれつける場所があったので両方にはめる。

「後はスイッチを探して、と」

大抵スイッチは壁際にあるもんだ。

「発見。とりゃ」

スイッチを押すとぱっと部屋に光が満ちた。

「おお、いいねえ……」

光があるだけでやはり全然感じが違う。

装飾品などはまるっきりないが、部屋はとても鮮やかに見えた。

「……にしてもアルクェイドのやつ、遅いな」

俺が電気をつけている間、まるっきり現れなかった。

何かあったんだろうか。

「うおーい、アルクェイド」

下を覗き込む。

「あ、志貴」

するとアルクェイドは普通に下にいた。

だが何やら紙切れと……なんと札束を持っていた。

「ア、アルクェイドっ? なんだその札束。どっから持ってきたっ」

危うく落下してしまうところであった。

「誤解しないでよ。琥珀がわたしにくれたんだからね」

アルクェイドは酷いなーと言いながらむくれている。

「くれた……って何で?」
「そんなのわたしにもわからないわよ。だからどうしようかなあって考えてたの」
「ん、ちょっと待ってろ」

札束と一緒に持っている紙に何か手がかりがありそうだ。

俺ははしごを伝って下へと降りていく。
 

「アルクェイド、それ見せてみな」
「あ、うん。これ志貴に見せてくれって言われたの」

四つ折りにされた紙を開く。
 

『先ほどのような事件がまた起きては困ります。ですからこれで必要なものを購入してあげてください 琥珀』
 

「む……」

先ほどの事件とはつまり。

下着泥棒アルクェイド事件である。

そしてその事件を起こさないために必要なものと言えば。

アルクェイドの着る下着である。
 

ようするに、それを買って来い、と。
 

「……マジ?」
 

どうやら俺は禁断の花園へのチケットを手に入れてしまったようであった。

続く



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