不意に。

よく知った声が聞こえた。

「あ……」

顔を上げる。

赤い髪を束ねたポニーテール。

全てを悟ったような不思議な瞳。

「……イチゴさん」

そう、それは有彦の姉、乾一子さんだ。

そして。
 

「よお……遠野」

大量の包みを両手に抱えて、疲れきった表情を浮かべる男。

「有彦……」
 

そこには、同志の姿があったのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
その18














「おまえは秋葉ちゃんの付き添いか?」

同志有彦はそんなことを尋ねてくる。

「いや、そういうわけじゃないんだけど」
「大変だよなあ、お互い。男は辛いよ」

俺の言葉なんか聞いちゃいない。

有彦は自分の苦労をぶつぶつと言い続けている。

「何言ってんだ。美人の姉の付き添いが出来るだけ有りがたく思いなよ」

イチゴさんがそんなことを言って有彦の頭を小突いた。

「イテ、イテエ! おい遠野。弟虐待だぞ。この酷い姉になんとか言ってくれ」

有彦は両手がふさがっているのでイチゴさんにされるがままであった。

「そんなこと言われてもなあ」

イチゴさんの言葉を借りるならば、これはイチゴさんの有彦に対する愛情表現らしいのである。

弟である有彦が可愛いからこそ、敢えて苦難を与えるということだ。

まあそれは方便だということは分かりきってるけど。

有彦もなんだかんだで姉思いであり、滅多に頼まないイチゴさんのお願いには愚痴を言いながらでも従うのだ。

そのたまの頼みごとって言うのが、こういう大量の荷物持ちとかの仕事なわけである。

そういうことがわかっているので俺は特に言うことが無かったりする。
 

「有間はあたしの味方だってさ」

俺が言葉を言う前にイチゴさんがそんなことを言った。

「くぅ……」

それで有彦も文句を言うのを諦めたようだ。

「妹さんは下着でも試着してるのかい?」

イチゴさんが尋ねてくる。

「あ、いや。今日は秋葉の付き添いじゃないんですよ」
「なんだ、秋葉ちゃんいないのかよ」

いかにも残念そうな顔をする有彦。

が、すぐに怪しい笑みを浮かべる。

「あ、じゃああれだろ。メイドさんだな? 憎いね、このこのっ」
「いや、それでもないんだけど」

そこまで言って俺は今の状況が非常に好ましくないことに気がついた。

さっきまでは同志を求めていた。

だがその同志、有彦が非常に問題なのである。

「イ、イチゴさんっ。こんなところで立ち話もなんですよっ。どっか場所変えましょうっ」

ここにいたらアルクェイドが帰ってくる。

つまり有彦と遭遇してしまう。

そんなことになったらどうなってしまうことか――
 

「志貴ーっ、おまたせーっ」
 

――遅かった。
 

アルクェイドは、俺向かって一直線に駆けてきて。

その豊満な胸を、俺の顔に押し当てた。
 

「は、離せ、ばかっ」

無理やりアルクェイドを引き剥がず。

「えー? 一人で待っててさみしかったでしょ?」
「俺はそんな子供じゃないっ」

確かにちょっと前まで帰ってきて欲しいと願っていた。

だが、今は来て欲しくなかった。

どうしてコイツはこう、最悪のタイミングで現れるのだろう。

「……ほう」
「なんですかイチゴさん、その感嘆詞は」
「いやいや、有間も隅に置けないもんだ」

うわあ、一瞬で俺とアルクェイドの関係を見抜かれてしまった。

「と、遠野っ。その美人誰だっ。俺に紹介しろっ。名前はっ、スリーサイズはイテエっ!」

有彦はスリーサイズの部分でイチゴさんにはたかれていた。

「んー。88センチとか言ってたけど」

しかも馬鹿正直に答えるアルクェイド。

「……88」

気のせいかイチゴさんの顔はなんだか曇って見える。

「……88」

有彦はさも良からぬコトを考えている顔つきだった。

「ばか、おまえ、そういうことは普通言わないんだぞっ」
「えー。そうなの? 教えたら志貴が喜ぶってあの店員が言ってたのに」

あの店員さん、余計なことまでアルクェイドに吹きこんでくれたようだ。

「で、サイズわかったんだから、選べるでしょ」
「う」

まずい、その話題はとてもまずい。

「……」
「……」

案の定、有彦とイチゴさんは俺とアルクェイドの関係を探るような目つきをしていた。

「あ、いや、その、コイツ、外国生活が長くて、日本のこと、よくわからないんですよ」

とりあえずよくわからないフォローをしてみる。

「そりゃあ金髪だしなぁ」

じゃあ赤髪のお前は何人だ。

心の中で有彦につっこんでしまった。
 

「んで、このヒトは有間とどういう関係なわけだい?」

うわあ、イチゴさん直球。

「ええと……」

どう答えたらいいだろう。

恋人、なんて答えようものなら、たちまち有彦からシエル先輩の耳に伝わり。

……考えただけでも恐ろしい。

そうでなくったって下着売り場にアルクェイドと一緒にいたなんて知れたら。
 

ごまかさなくてはいけない。なんとしても。
 

「と、遠い親戚なんです。見たとおり外国人とのハーフで」
 

我ながら実に苦しい言い訳であった。

「ふうん」

ああ、あからさまに信じてないイチゴさんの視線が痛い。

「そ、そうなのかっ。じゃあ今度是非お茶でもっ」

こっちはバカだった。

「有彦」
「へーい」

イチゴさんに睨まれて大人しくなる有彦。

「まあ、とりあえずそういうことにしておくよ」

イチゴさんは見逃してくれるらしかった。

「ど、どうも」

軽く頭を下げる。

「ねえ、なにがどうなってるの?」

アルクェイドだけが現状を理解できていなかった。

「まあこっちの話さ」

イチゴさんらしい対応で流してしまった。

「うーん?」

いかにもよくわからないという顔をしているアルクェイド。

「んで有間。このヒトの付き添いで来たわけかい」
「あ、はい」
「下着を選んでくれって言ってたけど」
「いや、それはその、コイツ日本語とか読めないからで」

ああ、どんどん嘘が増えていく。

「ふーん。なあアンタ」
「わたし?」

何を思ったのか、そこでイチゴさんはアルクェイドに話し掛けた。

「ああ。アンタ、要はサイズの合う下着が買えりゃいいんだろ」
「まあ、そうだけど……」

アルクェイドは視線で何よコイツと俺に訴えかけてくる。

俺は安心しろ、味方だと視線で返した。

……伝わったかどうかはわからないけど。

「じゃ、あたしが選んでやるよ。男を落とせるようなヤツをね」

イチゴさんは俺に向かって笑った。

ようするに、俺の好きそうなヤツを選んでやると言いたいらしい。

「……お任せします」

弱みを握られて居る以上、逆らえるわけも無い。

それに女性であるイチゴさんに任せておけば色々と安心である。

「志貴がそう言うなら、いいけど」

アルクェイドも従ってくれた。

「OK。じゃ、有間は荷物と一緒に階段脇で待ってな」
「わかりました」

階段脇には椅子がある。

ようするにそこで座って待ってろということだ。

「じゃ、いくぞ有彦」

イチゴさんが荷物といった有彦と歩き出す。
 

「なあなあ、あの美女のこと教えろよな。胸でかいよな。88センチだもんな」
 

ものすごく厄介な荷物であった。
 

続く



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