「嫌いじゃなくて好きだからだ」

アルクェイドを強く抱きしめる。

「し、き―――」

アルクェイドも、俺の体を求めるように体をすりよせてきた。

「アルクェイド……」

互いに見詰め合う。

そして、アルクェイドは服と呼べるようなものは身につけていないのだ。
 

高ぶった気持ちは、止められそうになかった。
 
 

「――アルクェイド」
 

もう一度唇を奪うと、俺は彼女をベットへと押し倒すのであった。
 
 







「屋根裏部屋の姫君」
その29












「んっ……んっ」

ベットの上で交わす濃厚なキス。

それからアルクェイドの薄桃色の肌をゆっくりと撫でてやる。

「やだ、くすぐったいよ……」

アルクェイドは恥ずかしそうに身をくねらせた。

そんな仕草がなんともたまらない。

「アルクェイド……」

どうにも止まらなかった。

俺はこのまま彼女を心行くまで味わうのだ――

「でも、いいの?」

アルクェイドが何かをためらうように尋ねてくる。

「何がだ?」

俺たちは恋人同志なんだし、こういうことがあったっておかしくないじゃないか、うん。

久々だし、今日は激しくなりそうである。

体中に力がみなぎっている感じだ。

「……」

アルクェイドは言い辛そうに目線を逸らす。

「どうしたんだよ、おい」

ここまで盛り上がっておいて止めろというのか。

アルクェイドはとても言いにくそうだったが、仕方が無いという感じで言った。
 
 

「その。妹に謝りに行かなくて、いいの?」
 
 

妹。

俺の妹。

遠野、秋葉。

さっき俺が脱衣場を覗いてしまった秋葉。

「……」

全身の血液が凍ったような気がした。

そうだ、謝りに行かなきゃいけないんだった。

琥珀さんたちの懸命の努力によって多少マシになったとはいえ、やはり直接に謝らなければ後が怖い。

謝らなかったらいずれ酷い目に遭ってしまうだろう。

アルクェイドとこんなことをしているところを見られたら、尚更だ。

殺されてしまうかもしれない。
 

「……ごめん、アルクェイド」

俺はすっかり元気を無くしてしまった。

これじゃあこの後のことをすることは不可能である。

「ううん、わたしはキスだけで十分満足しちゃったから」

照れ笑いをするアルクェイドがなんとも健気に見えた。

「ごめんなアルクェイド。帰ってきたら、その、続きを」
「ば、ばか、そんなこと言わないでよ」

アルクェイドはすっかりゆでだこみたいに赤くなっていた。

「……」

いけない、これではまた押し倒してしまいそうである。

「じゃ、じゃあ行ってくるよっ」

俺は未練を残さないためそう言ってアルクェイドの姿を見ずに駆け出した。

「あっ! 志貴待って!」
「う?」

しかしいきなりアルクェイドに呼びとめられてしまった。

「なんだよ」
「そんなカッコで行っていいの?」
「そんな格好……?」

言われて自分の体を見て気がついた。

「……ほんとに殺されるところだったな」
 

俺はズボンをすっかり脱いでいたのであった。
 
 
 
 
 
 

「秋葉ー。秋葉ー」

秋葉の部屋の前までやってきて名前を呼ぶ。

しかし丸っきり反応が無かった。

「……どこ行ったんだ?」

アルクェイドへの未練を振り切ってここまで来たというのに。

「兄さん?」

おっと。

後ろを振り返ると秋葉がいた。

「どうしたんです? 何か用事ですか?」
「あ、うん。秋葉に会いに来たんだけど、反応が無いからどうしたのかなって思ってたんだよ」
「私に……会いに?」

秋葉はどこか嬉しそうな顔をした。

「うん」
「……」

こほんと咳払いをする秋葉。

心なしか頬が赤い。

「今、琥珀を呼んでお茶を煎れさせますから」
「いいよ別に。そんな長居するわけじゃないし」
「そうですか」

残念そうな顔をする。

「……では、少し部屋の掃除をしますから、待っていてください」
「あ、うん」

別に廊下で話しても良かったのだが、それを言う前に秋葉は部屋の中へと入ってしまった。

「……」

うーん、どうやって謝るべきだろう。

秋葉、なかなかナイスバディだったぞ。

「……こりゃ謝ってないな」

死語の上に全然笑えない。

怒りを招きそうですらある。

他に。

秋葉、悪かった、すまないっ。

まあ無難な線だ。

それで、おまえの姿はあんまり見てなかったからっ。

秋葉よりも下着のほうに目が行ってしまって。

「……それじゃあ秋葉が下着よりも魅力が無いと言ってるようなもんか」

やっぱり怒り爆発モノである。

うーん、秋葉に謝るってのは凄い難しいことのような気がしてきた。

どたん、ばたん、どすん。

「な、なんだ?」

どたん、どたんどたん。

「……」

音は秋葉の部屋からである。

「か、片付けてる……のか?」

俺も経験があるからなんとなくわかる。

あれは片付けてる音じゃなくて、床に散らばっていたものを無理やり押し入れとかに詰めこむときの音だ。

有彦なんかは特にこれをやっているので、迂闊に押入れを開けると地獄が待っている。

まあ秋葉の部屋に押し入れは無いけど。

「どうぞ、兄さん」
「あ、うん」

秋葉に招かれて部屋へと入る。

あんまり秋葉の部屋に入ったことはないけど、相変わらずいかにもお嬢様な部屋であった。

「それで会いに来たと言う事は何か用事があるんでしょう?」

豪華な椅子に腰掛ける秋葉。

足を組んだら女王様である。

「うん、その、ええと、なんだ」

そうやって「用事があるんでしょう?」とか言われるとなかなか言いづらい。

「兄さん?」

ああ、もう。

こうなったらなるようになれだ。

「その、さ。さっきは悪かったよ」

ストレートに謝って、頭を下げる。

「さっき……?」

秋葉は不思議そうな顔をしていた。

「……あ」

が、すぐに思い出したったのか、顔を赤くしていた。

「ほんとにごめん」

もう一度謝る。

「……いえ、私もその、心配してきてくれた兄さんに怒声を浴びせたりして申し訳ありませんでした」
「秋葉は悪くないって。妹を心配するのは当然のことじゃないか」

うーん、我ながらいいセリフを言ったような気がする。

「兄さん……」

秋葉は目を輝かせていた。

「ははは」

うーん、恥ずかしかったけど、これで全て解決だろう。

よかったよかった。

「ところで兄さん」
「うん?」
「『秋葉の裸が見たい』と兄さんが言っていたと琥珀に聞いたんですけど。それは本当なんですか?」

秋葉はなんだか駄々をこねる子供みたいな顔をしていった。

「う」

琥珀さん、なんて余計なことを。

「そ、それは、その、なんだ」

どう言うべきだろう。

そんなこと言っていないと言うのは簡単だけど。

それはそれでやっぱり秋葉に魅力が全く無いと言っているようなものじゃないか。

身近な男の立場として言わせてもらえば、秋葉はかなり美人だと思う。

性格以外には全く問題が無いのだ。

「兄さん? どうなんです?」

そう、このやたらと怒りっぽいという性格さえ除けば。

昔はあんなに大人しくて可愛い子だったのに。

兄さんは悲しいぞっ。

……なんてボケてる場合じゃなくて。

あまり答えを伸ばすのも秋葉は嫌いなのである。
 

「まあ、うん、その、秋葉は魅力的だからなぁ」

かなり肯定っぽいことを言ってしまった。

「……」

お、好感触か?

「な、ななな、なに、なにを言っているんですか兄さんはっ」

あの秋葉がこんなにも動揺している。

そうか、秋葉は裸を見て欲しかったのか。

なんて言ったら酷い目に遭う。

まあきっと色々と秋葉としてもあるんだろう。

「まあ、とにかくごめん。これからは気をつけるよ」
「そ、そそそ、そうしてくれればいいんです、ごほん」

よし、完全に許してくれた。

これで秋葉の問題も解決だ。

「じゃあ、俺はもうそろそろ部屋に戻るよ」
「そ、そうですか。それではお元気で」

秋葉はよくわからない挨拶をしてくれた。

「ははは。それじゃ」
 

俺はできるだけさわやかな笑顔を浮かべて部屋を出るのであった。
 

続く



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