「まあ、とにかくごめん。これからは気をつけるよ」
「そ、そそそ、そうしてくれればいいんです、ごほん」

よし、完全に許してくれた。

これで秋葉の問題も解決だ。

「じゃあ、俺はもうそろそろ部屋に戻るよ」
「そ、そうですか。それではお元気で」

秋葉はよくわからない挨拶をしてくれた。

「ははは。それじゃ」
 

俺はできるだけさわやかな笑顔を浮かべて部屋を出るのであった。
 
 







「屋根裏部屋の姫君」
その30














「ふう……」

部屋を出た後は疲労困憊である。

秋葉と話すのはやっぱりプレッシャーがかかるなぁ。

「まあ何はともあれよかったよかった」

さっさと部屋に帰るとしよう。

どさどさどさどさっ!

「……」
 

なんだか秋葉の部屋からものすごい音が聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにした。

無理やり片付けると起きるんだよなあ、雪崩。

「迷わず成仏してくれ秋葉」

俺は秋葉の無事を祈って、その場を立ち去った。
 
 
 
 
 

「アルクェイドー?」

俺は上機嫌で部屋の扉を開ける。

もう俺たちの邪魔をするものはいない。

大っぴらにいちゃいちゃできるというものだ。

いや、あくまで部屋の中でだけだけど。

それだけで十分だ。

なんたって夜は長いんだからな。

あんなこととかこんなこととか。

ふふふふふふ。

「……いかんいかん」

顔がにやけてしまっている。

こういうときこそきりっとしなきゃいけないのだ。

「ごほん」

今更遅いが髪を整え、しっかりと顔を作る。

「アルクェイド」

そして名前を呼んだ。
 

しーん。
 
 

「あ、あれ?」

誰もいなかった。

「おかしいな……」

さっきまでアルクェイドは俺のベットの上にいたのに。

「……屋根裏か?」

上を見ると屋根裏へのはしごは出しっぱなしになっていた。

俺がいないときは仕舞っておいて欲しいものなのだが。

まあそのおかげで確認できるんだからちょうどいいか。

俺ははしごを掴んで上へと昇っていった。
 
 
 
 
 
 

「……アルクェイド?」

屋根裏部屋は真っ暗だった。

おまけに返事も無い。

「いないのか?」

電気をつける。

「……」

すると椅子チェンジベッドがベッドの形へと変わっていた。

「……まさか」

これがベッドに変わっているということは。

「…………」
 

アルクェイドは、幸せそうな顔をして寝ていた。
 
 

「くっ……」

なんてことだ。

全ての困難を乗り越え、せっかく俺も乗り気になってきたというのに。

嫌だと思っているときは近寄ってきて、そうでないときは離れてしまう。

こんなのってあるだろうか。

「う〜ん……」

ころりと寝返りをうつアルクェイド。

「あれ?」

その反動で少し布団がめくれあがったのだが、そこからアルクェイドの姿に違和感を感じた。

「……」

もう少し布団をめくってみる。

「なっ……!」

なんてことだ。

アルクェイドは俺のYシャツ一枚ではなく、猫の模様の入った青いパジャマを着ているではないか。

「……いや」

少し違った。

正しくは俺のYシャツを着て、その上にパジャマを着ているらしかった。

パジャマの襟の下に白い襟が見えている。

「……うーむ」

どうやらパジャマは寒いから仕方なく着ているという感じである。

「……」

アルクェイドはどこまでも幸せそうな顔をして眠っていた。

「だあ、止めた止めた」

なんだかすっかり毒気を抜かれてしまった感じだ。

アルクェイドはほんとうにさっきのキスで満足してしまったらしい。
 

「……ま、二人とも乗り気じゃなきゃしょうがないしな」

諦めることにしよう。

それに、これからしばらくは同棲することになってしまうのだ。

そういう機会だって、多くなるだろう。

「……」

いかん、また変な想像をしてしまった。

「俺も寝るか……」

今日一日、どたばたしていたから結構疲れてたりするのだ。

「その前に」

とりあえず、眠る前にこれくらいしてやってもいいだろう。

「おやすみ、アルクェイド」

ほっぺたに軽くキスをして、俺は下へと降りるのであった。
 
 
 
 
 

「ふう」

下に降りる時に入り口の板を引っ張ったから屋根裏への入り口は元の通り、全く分からない状態になっていた。

はしごも使わずベットに飛び降りたので、完全証拠隠滅成立だ。

ベットに飛び降りる時に多少床がきしんだが、秋葉のところまでは音は届かないだろう。
 

「志貴さまっ?」

すると翡翠が慌てた顔をして現れた。

「ど、どうしたの翡翠?」
「……あ」

翡翠は俺の顔を見ると顔を赤らめ、それからほうと安心したような顔をした。

「いえ……その、下にいましたら、志貴さまの部屋のあたりからかなりの音がしましたので」
「あ、聞こえちゃったのか。ちょっと屋根裏から飛び降りたんだよ」

やっぱり下には結構音が響いてしまったらしい。

「飛び降り……? そんな。危険です」

翡翠が珍しくむっとしていた。

「い、いや、でもさ。屋根裏からはしごを使わずに降りる方法ってそれしかなくてさ」
「そんなことはありません。上にはしごを自動的に巻き取るためのボタンがあるんです。それを押してから下に降りれば、自動的にはしごは上にあがり、扉も閉じるんです」
「え? そんなのあったんだ」
「……申し訳ありません。最初に伝えるべきことでしたのに」

頭を下げる翡翠。

「いやいや、いいよ。別にどっかケガしたとかじゃないんだからさ」

安全に屋根裏部屋から下に降りれて、且つ部屋の扉を閉じれる方法を知ることができたのは大きな収穫だ。

後は下から上にはしごを降ろせる方法があれば完璧なんだけど。

今のところアルクェイドが先に昇ってくれないとはしごは降ろせない。

まあ、そのへんもいずれなんとかしよう。

そう何もかもいきなり完璧を求めるというのは無理である。
 

「そうですか……」

翡翠は一応安心してくれたようだった。

「次からはそうするよ。それよりさ。アルクェイドがパジャマ着てたんだけど、あれは翡翠が用意してくれたの?」
「はい。志貴さまのものとして買ってあったものだったのですが、使う機会が無く仕舞われていたものを取り出してきました」
「そ、そうなんだ……」

色は青だとはいえ、猫柄パジャマを着た野郎の図ってのはあまり爽やかじゃない。

あのパジャマもアルクェイドに着てもらえて本望だろう。

「ありがとう。何から何まですまないな」

つくづく翡翠に感謝する。

「いえ、そんな。それがわたしの務めですし」

翡翠はなんだかぎこちなく会釈してみせた。

何故だか頬も赤くなっている。

「じゃあ、今日は俺もう寝るからさ。朝、よろしく頼むよ」
「……はい。おやすみなさいませ、志貴さま」

ふわりと微笑み、翡翠は部屋を出ていった。
 

うーん、なんだか爽やかな気分だ。

翡翠の笑顔は気分を和やかにしてくれる。

今日はいい夢が見れそうだ。

俺はそんな事を考えながら部屋の電気を消す。
 
 

そして悲しいことに、夜中に事件は起きるのであった。
 
 

続く



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