「はーい、みんな元気にしてたかな? 今日もこのサムソンが『必見! 世界のびっくり通信販売』をお送りするぜ!」

なんともいえない怪しい声。

テレビを見ると、ムキムキマッチョなアメリカ人(推定)が光らせている。

「あ、あのう……志貴さん、この番組が終わってからでもいいですか?」

琥珀さんは完全にその怪しい通販番組に心奪われてしまっていた。

「……好きにしてください」
 

俺は全身脱力しながらそう答えるのであった。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
その35














「琥珀さん、これ毎日見てるの?」

この番組が終わらないとどうしようもなさそうなので、俺も番組を見ることにした。

ちなみに今はCM中である。

「ええ。休日はやってないんですけれど、それ以外は毎日見てますよ」
「朝とか大変じゃない?」
「いえいえ。昼過ぎに適度な休憩は取らせて頂いてますし、平気です」
「そっか」

『それでは早速今日最初の商品だ』

そこでちょうどCMが終わった。

「はじまりましたねー」

琥珀さんは目をキラキラさせていた。

『今日最初の商品は、毎回お馴染み、このハイパーダンベルだ』

男が取り出したのは何の変哲も無いダンベルである。

『この商品でサムソンはとってもたくましくなったのよね?』

すると唐突に金髪美女が現れてそんな事を言った。

『そうだよジョナサン。これをこうやってね、毎日運動するんだ』

男はさほど大きくないそのダンベルを何回か上下に動かしてみせる。

『これが三ヶ月前のサムソンの写真よ』

画面に映し出されるさほどたくましくない、普通の男の姿。

というか、顔まで別人の気がしてならない。

『このダンベルを使って今じゃすっかりたくましくなったんだよ』

ムキムキと筋肉をアピールするポーズを取るサムソン。

『でも、これってただのダンベルなんじゃないの?』

そうだ、これはどう見てもただのダンベルである。

『いやいや。違うよジョナサン。いつも言ってるだろう? このダンベルには特別な周波を発生させる超合金製なんだよ』
『あら、そういえばそうだったわね。すっかり忘れてたわ』

その後その超合金が何で、その周波は筋肉の発達になんとかとかいう説明が続いた。

『それでサムソン。そのダンベルって高いんじゃないの?』

そしていよいよお値段披露の時間である。

『いいやジョナサン。今ならこのハイパーダンベルが……』

男の言った値段は結構高かった。

『まあ、なんて安いのかしら』

しかしそんなことを平然というジョナサン。

次いでオーとかワーとか胡散臭い歓声が入る。

『しかも、今ならこのハイパーダンベルがもう1セットでついてくるんだっ』

だったら1セットでいいから半額にしてくれ。

『まあ素敵。今から電話しちゃおうかしら』
『それはいい考えだジョナサン。シェイプアップに役立つからねっ』

このハイパーダンベルは女性のシェイプアップにも役立ちます云々。

『さあ、見ているそこの君も、今すぐコールだっ』

ムキムキポーズを取るサムソンと、電話番号が大きく映し出された。

「……」

ここまで見た感想は、いかにもありがちな胡散臭い通販番組だなあということである。

「こんなダンベル買う人いるのかなぁ?」

苦笑しながら琥珀さんに話しかける。

「え? え、あ、はいっ。そ、そうですね。欲しい人は欲しいんじゃないでしょうかっ? あはっ、あははっ」

大げさに目線を逸らせる琥珀さん。

「……ひょっとして、購入済?」
「そ、そんなことないですよー? 買ったはいいけど全然使わないから台所で漬物石代わりに使ってたりなんか断じてしませんっ」
「……」

ああ、そういえばなんか変な袋が漬物桶の上に乗っかっていたような気がする。

「琥珀さん。俺、台所で漬物樽の上に……」
「あ、で、でも漬物石にすると特別な周波で漬物が美味しくなるとか言ってたようなっ?」
「ダンベルにそんな効果絶対ありませんってば」
「そ、そうですよねー……」

琥珀さんはしょげていた。

「ま、まあ琥珀さんがそう言うんだったらそんな効果もあるかもしれないですね」

なんだか気の毒なのでフォローをしておく。

「いいんですよー。わたしだって騙されてるなーと思いつつ買ってるんですから」

苦笑する琥珀さん。

「なら買わなきゃいいじゃないですか」
「あはっ。ごく稀に本当にいい商品があったりしますからねー。それにめぐり合うのが楽しいんです」
「なるほど……」

ギャンブルみたいなものだろうか。

当たる可能性は低いけれど、当たりの快感を知ってしまったら止められない。

「まあ、程々にして下さいね?」

住み込みで働いているから住居の心配はないだろうけど、その怪しい商品の代金は琥珀さんの給料から支払ってるわけなのだから。

「そうですねー。程々にしておきますよ。そうすれば志貴さんのお小遣いも増えるかもしれませんし」
「はは。それはありがたいな……」

……はて、何故そこで俺の小遣いが出てくるんだろう。

「こ、琥珀さん? その。その商品の代金って……」
「あっ。いけません。そろそろアルクェイドさんたちの対策をしなきゃいけませんねー」
「……」

うわあ、思いっきりはぐらかされた気がする。

いや、でも気のせいだろう。うん。

生活最低限の小遣いは貰えてるし、それ以上を秋葉が出してくれるはずないからな。
 

「対策って何をするの?」

とりあえず尋ねてみる。

「はい。まず秋葉さまに関しては問題はありません」
「問題無い?」
「ええ。多分朝までゆっくりとお休みだと思いますよ?」
「なんで?」

秋葉だって人間だ。

眠れない夜もあったり、日によって眠る時間も違うだろう。

「それはまあ、企業秘密ということで」
「……」

触れてはいけないことのような気がしてきた。

止めておこう。

「それでアルクェイドさんたちについてですが。多分、あのお二方は睡眠薬などを盛ったとしても効果が無いか先に察してしまうでしょう」
「ですねえ」

そもそも睡眠薬を飲ませるということはまず起きてもらわなきゃダメである。

「二人を一晩ずっと眠らせられる確実な方法はないでしょうね」

棚に一瞬『クロロホルム』とか書いた瓶が見えたけど見なかったことにしよう。

「じゃあ、どうすればいいのかな?」
「はい。発想を逆転させましょう」
「発想を逆転?」
「はい。志貴さんが安心して眠れるための情報を提供して差し上げます。そうすれば問題ないでしょう?」
「俺が安心して……?」

俺が眠れないのはあの三人が夜の間に出会ったりしないだろうかという不安からである。

安心して眠れると言う事は、三人が絶対に出会わないという確証があればいい。

けれどそんなことは出来るのだろうか。

「結論から言いましょう。アルクェイドさんとシエルさん。少なくともこの夜の間は絶対に外出しません」

琥珀さんはきっぱりとそう言いきった。

「な、なんで?」
「……ふふふ」

琥珀さんは袖で口元を隠しながら笑いながらこう言うのであった。
 

「人間心理による束縛、お教えいたしましょう」
 

続く



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