もしかして、ハタキを発見した頃には二階全てが綺麗になっているんじゃないだろうか。
それは精神的とてもいいことかもしれないけれど、肉体的にはとてもよくない事のような気がするのであった。
「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その10
「……無いわねえ」
「無いなあ」
そんなわけで片っ端から俺の部屋を探して見たのだが、ハタキのハの字も出てこなかった。
「えっちな本も出て来ませんねえ。面白くありません」
琥珀さんもため息をついている。
「いや、そんなん隠し持ってないから」
この人だけ探すものが違うじゃないか。
「あはっ。そうですねー。実物を屋根裏に隠してますもんね」
「生々しいから止めてください」
「は〜い」
まったくもうこの人ときたら。
「……うーん」
アルクェイドは部屋の真ん中で腕組みをしていた。
「ここには無さそうだよ。諦めて他に行こう」
これ以上ここにいたって時間の無駄である。
「ちょっと待って。もうちょっとで何か閃きそうなのよ」
「……閃くって何を」
「だから何かよ」
「はぁ」
しょうもないのでベッドに腰掛ける俺。
「志貴さん、どうなさいます?」
「アルクェイドの好きにさせてやってくれよ」
なんだかもう疲れてきてしまった。
ハタキが見つかってもさあ掃除しようという気分にはならないだろう。
「……そっか。今の琥珀の言葉よ」
ぽんと手を叩くアルクェイド。
「今のわたしの? 実物を屋根裏に隠してある……ですか?」
この場合の琥珀さんのいう実物とはアルクェイドの事である。
「そう。二枚目のヒントにあったでしょ。志貴の部屋のあるかもって。つまり屋根裏部屋にハタキがあるのよっ」
「いや、琥珀さんはそういう意味で言ったんじゃないと思うんだけどなぁ」
どうやらアルクェイドは実物というのをハタキと勘違いしているらしい。
「違うの? じゃあどういう意味?」
「つまり二次元に頼らずともアルクェイドさんとくんずほぐれ……」
「ああ、うん、なんでもない、そういう意味だろうなきっと。探してみる価値はあると思うぞ」
「むぐっ……もがっ?」
「そうよねやっぱり。じゃあ探してみようっと」
アルクェイドはひょいと屋根裏に飛んでいってしまった。
「はぁ」
琥珀さんの口から手を離す。
「ぷはっ。何なさるんですか志貴さん」
「次やったら逆セクハラで訴えますよ?」
俺は苦笑しながらそう言った。
「……ちぇ。志貴さんってばアルクェイドさんには優しくてわたしには厳しいんですねぇ」
口をとんがらせている琥珀さん。
「琥珀さんが説教したくなるような事ばっかりするからです」
「まあ、それは否定しませんが」
「そこは認めるんですね……」
「ええ。開き直ってるからタチが悪いんです」
「……自分で言わないで下さい」
一時期は大人しくなっていたのが嘘のようである。
「駄目だわ……見つかんない」
「ん」
渋い顔をしたアルクェイドが屋根裏から降りてきた。
「やっぱり無かったのか」
「おっかしいなあ。絶対ここだと思ったんだけど」
「着眼点はいいんですけどねー。もうちょっと捻った考えが必要なんですよ」
「捻った考えねえ……」
つまり琥珀さんのようなろくでもない思考をしろということである。
「一階にはありませんとか書いておきながら実は一階にあるとか」
「わたしそんな外道じゃないですよー」
「……実は最初からハタキなんてなかったとか」
「それもありませんよー。そんなことばれたらタコ殴りじゃないですか」
「ぬぅ」
こういう風に質問していったんじゃキリがない。
「やっぱりヒントカードを見よう。時間の無駄だ」
「……そうね。癪だけど見つけられないよりはマシかな」
そしてようやく四枚のヒントカードが開かれた。
まず二枚は既に見たカード。
『一階にはありません』
『志貴さんの部屋の傍にあるような無いような……』
そして残りの二枚が。
『ハタキだけあって埃のある部屋の傍にあるような無いような……』
『秋葉さまの部屋やわたしの部屋には多分無いと思います』
「っておい」
なんだこのまるで役に立たないヒントは。
「何よこれ。てんで場所がバラバラじゃないのっ」
「い、嫌ですよ二人とも。そんな怖い顔しないで下さいな。落ち着いてくださいませ」
二人に迫られ、慌てた様子を見せる琥珀さん。
「琥珀さん。もしかして最初からハタキを見つけさせるつもりなかったんじゃ?」
「ちゃ、ちゃんと見つかりますよ」
「信用出来ないわね」
「本当ですって。これはですね。場所がバラバラだということがヒントなんですよ」
「……場所がバラバラなのがヒント?」
どういうこと何だ一体。
「ハタキが勝手に移動するわけないでしょう?」
「ええ。勝手には移動しませんよ?」
「……あ」
その言葉でぴんときた。
「まさか」
「志貴さんお分かりになられました?」
「……琥珀さんはずっと俺たちについて来たよね」
それはハタキを発見するところを確認するためだと思っていたのだが。
「ええ。ついて来ましたよ?」
「それで……ハタキは移動してきたのかな?」
「ええ。今は移動してませんけど。ずっと移動して来ましたよ」
「……」
これではっきりした。
「ま、まさか……」
アルクェイドも気付いたらしい。
「おっしゃって見てください?」
「……実はずっと琥珀が持ってた?」
それを聞いた琥珀さんはにこりと笑った。
「ぴんぽんぴんぽーん。正解でーす」
そして服の裾から、俺たちが散々探してきたハタキが現れたのである。
「どうですかー? このビックリ仰天なオチ。予想だにしていなかったでしょう?」
「そりゃ予想するわけないなぁ」
誰だって屋敷のどこかに隠したと思うに決まっている。
それがまさか衣服の中に隠していただなんて。
「最初に身体検査をするべきだったんだな」
「そうですねー。わたしは別に『部屋のどこかに』ハタキを隠したなんて言いませんでしたし。盲点をついた作戦だったわけです」
「……してやられたよ」
つまり琥珀さんの目的は、俺たちに部屋を掃除させる事だったのである。
ヒントカードは判然としたものばかりで、最初に全部見ていたとしても結局全ての場所を回っていただろう。
あらかた掃除し終わった今、真実を明かしても構わなかったというわけだ。
「本当に助かりましたー。感謝感謝です」
「……まあ、俺は何も言わないけどさ」
俺は琥珀さんの悪戯に慣れているし、我慢も出来る。
けれど。
「こっちは無理だと思うな……」
「……む〜〜」
アルクェイドの奴は、これでもかっていうくらいに不機嫌そうな顔をしているのであった。
続く