「本当に助かりましたー。感謝感謝です」
「……まあ、俺は何も言わないけどさ」

俺は琥珀さんの悪戯に慣れているし、我慢も出来る。

けれど。

「こっちは無理だと思うな……」
「……む〜〜」
 

アルクェイドの奴は、これでもかっていうくらいに不機嫌そうな顔をしているのであった。
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その11



「え、えと、アルクェイドさん?」
「む〜……」

じっと琥珀さんを見ているアルクェイド。

「お、怒っちゃいましたか?」
「……」

アルクェイドは何も言わない。

「あ、え、えと、その、敢闘賞ということでボーナスは差し上げますですよ?」

なんとなく、ヤバイ予感がした。

「……取りあえず俺がなんとかしておくから、琥珀さんは戻ってて」

琥珀さんとアルクェイドの間に割って入る。

「は、はーい〜」

琥珀さんはすたこらさっさと部屋を出ていった。

「……さて」

アルクェイドのやつをなんとかなだめなければ。

「アルクェイド。落ち着け。琥珀さんの悪戯なんていつものことだろ」

背中ごしに声をかける。

「……」

くるりと振り返るアルクェイド。

「……別に怒っているわけじゃないのよ」
「あ、あれ?」

確かにアルクェイドは不機嫌そうな顔をしているものの、その声からは怒りの感情は感じられなかった。

それよりもむしろ、戸惑いというかなんというか、何かに納得出来ていないような雰囲気である。

「ねえ志貴。わたしって誰だと思う?」
「は? 誰って……アルクェイドだろう?」

何を訳の分からない事を言ってるんだこいつは。

「そうじゃなくて」
「そうじゃなくて……なに?」
「真祖なのよ? わたし」

そう言って自分の顔を指差すアルクェイド。

「……うん、だから?」
「そう、それ」
「?」

俺の反応にアルクェイドがまた渋い顔をしていた。

「わたしらの業界じゃね、真祖って聞いたらそりゃもう恐怖の対象なのよ。出会った相手はまず死ぬとか噂されるようなそういう存在なの」
「……わたしらの業界って言われてもなあ」

俺はごく普通の一般人なのだ。

そういう別次元の世界の話をされてもイマイチピンとこない。

「とにかく、わたしは凄い存在なわけ」
「まあ、それはわかるけどさ」

完全に本気のアルクェイドを見た事はないけれど、手加減した状態でもアルクェイドの強さは次元が違う。

普段はこんなんだから忘れがちだけど、こいつはとんでもない存在なのだ。

「なのに、琥珀はそんなわたしに平然と悪戯をするわけじゃない?」
「……それが気に入らないっていうのか?」
「そんなとこ。力で言ったら妹なんかより遥かに上なのにね」

ため息をつくアルクェイド。

「身体能力とかだったらな」

立場上で言ったら屋根裏部屋に勝手に住んでる居候風情であり、琥珀さんよりも地位は低いような気もしなくもない。

「そうねー。頭の方にも自信はあったんだけど。琥珀にあしらわてれるようじゃまだまだだわ」
「……なるほど」

つまり自分ではもう少し賢いと思っていたのに、琥珀さんにあしらわれてばかりの状態が納得出来ないわけだ。

「知識で言ったらおまえのほうが多いんだろうけどな」
「でしょ?」
「でも知識と知恵は別物なんだよ」
「……む」

知識があるというのは要するに情報を沢山持っているということだ。

そしてアルクェイドは世界の意思たる真祖なのである。

その知識量は想像できないほど膨大なものに違いない。

対して知恵というのは応用が効くということである。

それは色々な人生経験を経てで得られるものなのだが。

「おまえはまだ経験不足だってことだ」

なんせアルクェイドが自我を持ったのはつい最近の話なのである。

だから悪知恵の働く琥珀さんにあしらわれるのも、仕方のない事なのだ。

「それはわかるわよ。だからって……このままでいるのは癪だわ」
「まあ、その気持ちはわからなくもない」

俺も琥珀さんにやられてばかりだからなあ。

「だから……ひとつ面白い事してみない?」
「面白い事?」
「うん」

アルクェイドはそれこそ悪戯を思いついた子供そのものの顔をしていた。

「逆に、わたしたちが悪戯を考えるの。それで琥珀をギャフンと言わせちゃいましょ」
「……ほほう」

なるほどそれは面白そうな気がする。

「でも、出来るのか? 相手はあの琥珀さんなんだぞ?」
「大丈夫よ。知識はあるんだから」

そう言って自分の頭を指差すアルクェイド。

「諸葛孔明、竹中半兵衛、山本勘助なんでもござれよ」
「……いや、戦争やるんじゃないんだからさ」

しかも微妙に選択がマニアックな気がする。

「とにかく、やってみない?」
「まあ……うん。たまにはいいかな」
「やったあっ」

にっこりと笑うアルクェイド。

「メイドの真髄、見せてあげるわよっ」
「いや、メイドは全然関係ないから」
 
 
 
 

「ベタなのは入り口に黒板消しを仕掛けるってやつよね」
「……おまえの知識ってすごい偏ってるよな」

早速玄関へ行きましょうと言い出したので、どんな罠を仕掛けるのかと思いきや。

思いっきり小学生レベルの発想であった。

「な、何よ。文句あるの?」
「それが出来るのはは学校限定だろう? 黒板消しなんてどこにあるんだよ」
「……あ」
「あ、じゃない。おまけに玄関は誰が入ってる来るかわからないんだし、却下」

万が一秋葉に当たってしまったら大変である。

「ちぇ。こういうのはベタであればあるほど引っかかった時のショックが大きいのに」
「大体ベタな罠に琥珀さんが引っかかるわけないだろ」

二手先、三手先を考えなければとても駄目だと思う。

「そうかなぁ。策士ってのは慎重に考えるせいでかえって普通の罠に引っかかるものだと思うんだけど」
「……そのへん考え出すと堂々巡りになりそうだな」
「うーん……」
「うーむ」

やっぱり俺とアルクェイドだけでは琥珀さんを罠にはめるなんて不可能な気がする。

「せめてあと一人いれば……」

三人寄れば文殊の知恵。

三本の矢。

「あの、お二人とも何をなされているのですか?」
「どわっ」

いきなり玄関の方から声が。

「……あれ? 翡翠じゃないの」
「な、なんだ翡翠か……って」

それはまずい。

「か、隠れろアルクェイドっ!」
「ちょ……待ってよそんな急にっ」

つまりそれは秋葉が帰ってきたということなのだ。

『まな板』と描かれたエプロンを着たアルクェイドの姿なんて見られたら、惨劇が引き起こってしまう。

「いえ、大丈夫です。秋葉さまはまだお戻りになりませんから」

すると翡翠がいつもの冷静な口調でそんな事を言った。

「え? な、なんだ」
「……あ、そうなの?」

天井のシャンデリラにぶら下がっていたアルクェイドが降りてくる。

「はい。交渉が長引いておりまして。決着がつくまでは高級ホテルへ宿泊されるとのことです」
「……どんな美術品を買うつもりなんだあいつは」

なんだか胃がきりきり痛み出してきてしまった。

「ってことはメイド採用も当分先になりそうね」

ぽりぽりと頬を掻いているアルクェイド。

「……そういえばそういう話だったな」

色々やってて最初の趣旨を忘れてしまうところだった。

「メイド……ですか?」

首を傾げている翡翠。

「ああ。実はアルクェイドがさ……」
 

続く



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